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気を失ったカミラは、すぐに医務室に運ばれた。
アーノルドは、付きっ切りで彼女の看病をする。
助けられなかった。またしても。
アーノルドの心は後悔の念で一杯になる。
だが、彼女は言っていた。
――アーノルド、もう二度とカミラを離さないであげてね。
それは一体どういうことなのだろうか。
アーノルドは、ベッドの中で目を覚まさないカミラを見つめる。
医務室の先生は、頭を打って一時的に気を失っただけだと言っていた。
心配はしなくていいと。
けれど、このまま目を覚まさず、彼女がずっと眠ったままになるところを想像してしまい、怖気が走った。
もう二度と失うのは耐えられない。
そして、アーノルドは熱心に看病を続ける。
「アーノルド君、君は教室に戻りたまえ」
それを見かねた先生が声をかける。
「先生。申し訳ありませんが、ここにいさせてください」
「君がカミラ君のことを想っているのは、よく分かる。だが、ずっとここにいても仕方ないだろう。後は任せてくれないか?」
先生の説得の末、アーノルドは渋々頷いた。
「……分かりました。先生、カミラをお願いします」
「ああ、分かっている」
そして、アーノルドは退出した。
♢♢♢
アーノルドは、目の前に起きている出来事が、信じられなかった。
「──カミラ! 気がついたのか!」
思わず、席を立って彼女の元に駆け寄る。
信じられなかった。
目の前には、どこか戸惑った様子のカミラがいた。
少女に連れられてきたのだろう。
所在なさ気に、視線を彷徨わせている。
最初見たとき、アーノルドは自身の目を疑った。
だって、それは、
彼女は――二年前から戻って来ずにいた本当のカミラだったのだから。
もう二度と帰って来ないのだと思っていた。
半ば諦めかけていたのだ。
それなのに、どうしてか彼女はこうして自分の目の前にいる。
紛うことなく、自分が愛したカミラなのだ。
「……ああ、良かった。君が無事で……。本当に良かった、目を覚ましてくれて……俺の前にもう一度現れてくれて……」
喜びの感情で胸が一杯になる。
アーノルドは懇願する。
「……頼む、カミラ。もう、どこにも行かないでくれ」
――もう二度と自分の前から消えようとしないでくれ。もうどこにも行かないでくれ。
そう願う。
そして、
――アーノルド、もう二度とカミラを離さないであげてね。
最後の彼女の言葉を思い出す。
カミラだった名も知らぬ彼女は、こうなることを予期していた。
まるで自ら望んでいたかのようだった。
その理由は分からない。アーノルドは結局最後まで彼女と心を通わせることはなかった。
だからこそ、彼女が残した言葉は必ず守り通そうと誓う。
「君に誓う……二度と、離さない」
カミラを決して離さないと、アーノルドは名も知らない少女と約束する。
そしてカミラ自身にも誓う。
二度と君を離さない。
――もう、間違えない。
カミラの体を抱きしめ、アーノルドはそう心に刻んだ。




