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 ――彼女のことが嫌いだった。


 アーノルドは、両親が決めた婚約者であるカミラに憎しみの感情を抱いていた。


 彼は幼い頃、好きでもない相手と結婚しなければならないということに納得がいかなかった。


 幸い、婚約者である彼女もそう思っていたらしい。


「私は、あなたを好きになることはないわ」

「俺もだ。君を好きになることはあり得ない」


 売り言葉に買い言葉。

 アーノルドも彼女と同じ言葉を返し、それっきり彼女とは仲のいい婚約者同士という演技を続けてきた。


 だから、学園に通うこととなった今も彼女との間に愛などというものは一欠片も存在せず、そこにあるのは段々と際限なく募っていく憎しみだけである。

 だから、この関係は、今後一生変わることはない。


 彼はそう思っていた。



 ♢♢♢



 学園に入ってすぐ、自分の心にある変化が起きていたことに彼は気づく。


 男子生徒と世間話をするカミラを見て、自分の中に何か得体の知れない感情が生まれたのだ。


 それが何かは分からない。

 だが、異性に対して愛想よく対応するカミラの姿を見て、どうしてか気に入らないと思うようになった。


 男子生徒はただ、自分よりも地位の高い家に生まれたカミラに名を覚えてもらうため話しかけただけに過ぎない。

 貴族として、当然のことをしているだけだ。男子生徒に他意はない。それに応えるカミラにも他意はない。

 それはよく見かけるごくありふれた日常風景であり、貴族として正しい在り方なのだ。


 けれど、どうしてかアーノルドの心はささくれ立ってしまう。


 カミラは取り繕った笑みを浮かべて男子生徒の相手をする。

 それに対して男子生徒は、おかしそうに笑う。


 二人の他愛のない会話にアーノルドは自然と耳を傾けていた。気がつけば、無意識のうちに二人へと目が釘付けとなって視線を逸らすことが出来なくなっていた。


 ――気に入らない。


 その時からだろうか。

 カミラが他の男子生徒と話すたび、自分の心で何かよく分からない感情が生まれるようになって、それがどんどん無視出来なくなっていったのは。


 そして、その感情を人は『嫉妬』と呼ぶのだと、彼自身しばらくしてから気がつくのだった。



 ♢♢♢



 きっかけは実に些細な出来事だった。


 アーノルドは、自身がカミラに対して恋心を抱いていることを自覚する。


 それに気づいた時、彼自身驚いた。


 今まで、彼女には憎しみの感情しか抱くことしかなかった。

 それなのに、恋心を抱くようになってしまうとは。


 思わず自身に呆れてしまう。


 そして、その感情は決して冷めることなく、むしろ熱量は増していくばかりだった。


 最早疑いようもない。自分はカミラを愛している。


 だが、すぐにこの気持ちを彼女に伝えることは出来ない。


 今まで自分たちは憎しみ合っていた。

 そのため彼女に想いを伝えるのは困難だった。彼女に想いを伝えたとしても、彼女が自分を憎んでいることは明白なのだから。


 叶う、はずがない。


 そしてアーノルドは、この気持ちを自分の胸のうちに秘めておくことにした。


 間違って彼女に見つかってしまわないよう心の奥底にしっかりとしまい込む。


 しかし、彼の気持ちは彼の意思に関係なく、徐々に徐々にと大きく膨れ上がっていったのだった。


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