56
この後カミラ達は、困惑する少女に事情をある程度掻い摘んで説明して、すぐにほかの教師を呼びに行かせた。
アーノルドは、重い熱を患っていたためすぐさま寮に運ばれて一週間の絶対安静となる。
カミラも体調を考慮して寮で数日間、療養することになった。
今後の先生の処遇について、今のところカミラは何も聞かされていないが、当事者達に事情を詳しく聴いた後ある程度の処罰は下ることになるだろうということは予想出来た。
「……皆一体どうしてしまったんでしょうか?」
カミラが登校することが出来るようになってから、少女は誰もいない生徒会室でカミラに不安げに尋ねる。
少女は、何も知らない。
ずっと今まで彼女は蚊帳の外のままだった。
だから、カミラは全てを教えることにした。
たとえそうすることで少女を悲しませることになったとしても、打ち明けない理由にはならない。
彼女には知る権利があったから。
――『彼女』の親友として。
「もしかしたら信じてもらえないかもしれないけれど……でも、とても大事な話になるわ。あなたには教えていなかったけれど――」
カミラは、少女に全てを話した。
♢♢♢
「そう、ですか……」
全てを聞いて、少女は小さく呟いた。
「あなたが本当のカミラさんで、今まで私が親友だと思っていたカミラさんは偽物のカミラさんで……ああ、だからそういうことだったんだ……」
少女は、今まで『彼女』が行ってきたことを思い出し、ひとり納得する。
「だから、あの人は、あんなにも無鉄砲で命知らずで、いつも全力で物事に向かっていたんですね……」
――本当どうしようもない人だと、少女は小さく笑う。
そして、その後声を押し殺して涙を流すのだった。
おもむろにカミラがハンカチを渡そうとすると、少女はそれを「大丈夫」だと断る。
「……もう大丈夫です。すみません、取り乱してしまって」
彼女は涙を手で拭い、気丈に払おうとする。
目には涙がたまっていた。
だが、それ以上は流さないと必死に堪えた表情のまま少女は明るく笑った。
「良ければ、あの人が最後に何と言っていたか教えてもらってもいいですか? まあ、どうせ下らないことだと思いますけど」
カミラは頷き、少女に言伝を伝える。
その内容はこうだった。
――『リリア、いつも迷惑かけてごめんなさい。最後まであなたには何も話さないままで。でもあなたとはずっと親友のままでいたいから、嫌わないでね? さようなら』――
少女は『彼女』の言葉を聞いて笑った。
「ああ、本当に下らないことだった……。馬鹿ですね、本当に……嫌うわけないでしょう……? だって私達はずっと親友だって……決まっているじゃないですか……」
そう言って少女は笑い顔のまま涙を流すのだった。
♢♢♢
少女はしばらく泣いていたが、泣き止むとカミラに言った。
「カミラさん、私はあなたを許してはいません――」
少女の表情はとても真剣なものだ。
「あの時のことを私は絶対に忘れません。たとえあなたがそのことを後悔して謝ったとしてもこの気持ちを変えるつもりはありません」
カミラは覚悟していた。
「ええ、分かってる。ごめんなさい。だからこの償いは何に代えても行うわ」
その言葉に少女は首を振った。
「償う必要はありません。私も知らずにとはいえ、あなたをひどく傷つけてしまった。ごめんなさい、カミラさん。謝っても許してもらえるとは思いません。あなたが感じた苦痛や悲しみはあなただけのものですから」
そして、彼女はこう言葉を続けた。
「でも、友達になることは出来ると思います。かつてあの人がそうしたように……」
あの時を思い出して少女はカミラに言った。
「――カミラさん、今からとは言いません。でもいつか、あなたの友達になることを許してくれますか?」
カミラは微笑んで答えた。
「ええ、喜んで。私もいつかあなたの友達になることを許してくれる?」
少女も「はい、是非とも」と小さく笑って頷いた。
こうしてこの日、ようやく二人は和解し、お互いに打ち解けることが出来たのだった。




