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 カミラは頭の中が真っ白になっていた。


「何を、言っているの……?」


 かろうじてそう声を絞り出す。目の前の『彼女』の言葉が理解出来なかった。


 ――アーノルドはカミラを愛している。


 ――けれど、それは私ではない。私は彼に憎まれている。


 ――アーノルドは愛しているのは、『彼女』なのだ。


 そう思っていた。

 けれど先程の『彼女』の発言によって、その認識は根底から覆されることになる。


 アーノルドと『彼女』。二人の間に特別な感情がないのだとすれば。



 ――それなら一体、アーノルドの愛は誰に向かっているというのだろうか。



 それに、『彼女』はこうも言った。


 ――自分の手でハッピーエンドを摑み取れ、と。


「……本当なら、カミラが自力で気づかないといけなかったのだけれど……まあ、いいわ。あなたたち(・・・・・)鈍いものね」


 本当、馬鹿みたいと呟いて『彼女』は溜息を吐く。


 カミラは、『彼女』の反応を見て、分かってしまう。

 否が応でも、頭の中であるひとつの可能性が浮上してくる。


 ……嘘だ、ありえない。


 そんな、はずがない。


 そんなことは断じて、あるわけがないのだ。


 そう、カミラは頭を振ってその考えを振り払うとした。


 けれど、出来ない。

 消えてくれない。離れてくれない。

 その考えは、まるで紙に落としたインクのように、じわりじわりと彼女の心の中で広がっていく。



 ――君を好きになることはあり得ない。



 彼の言葉を思い出す。

 そうだ。出会った時からアーノルドはカミラを憎悪していた。

 それは今も変わらない。そのはずだ。


 そのはずなのだ。


 自分が長年彼にどれほど憎まれ続けていたのかカミラ自身、よく分かっている。


 だから、間違っても自分はアーノルドに愛されることはない。アーノルドの愛は決して自分に向くことはない。だから愛を諦めた。

 自分は愛されない。このままでは愛して欲しいと叫ぶ自分の心が壊れてしまうから、そうなる前に諦めるしかなかった。それ以外にカミラには選択肢はなく、何も選ばなければきっとあの時のように再度破滅の道を辿ることになっていただろう。


 そう、だから。そんなことが万が一にもあるわけがないのに。


 それなのに、目の前の『彼女』は自分を呆れた目で見てくるのだった。


 まるで、カミラの頭の中に浮かんだある考えを肯定するかのように。


「う、嘘よ……」


 到底信じられず、カミラは言葉を漏らす。


 しかし、そこに追い討ちをかけるように『彼女』は告げた。


「嘘じゃないわ。彼が見ていたのは、私じゃなくてあなた。彼が選んだのは、私じゃなくてあなた。彼が愛していたのは、私じゃなくてあなた。――カミラ、あなたなのよ」


 ――あなたは愛されているのよ、カミラ。


 それが事実であるのだと、『彼女』は告げた。


「いい加減気づきなさい、カミラ。あなたは愛されている。そのことにあなたが気がつくことが出来れば、あなたはハッピーエンドを目指すことが出来るのよ」


 誰もが笑って終わるようなハッピーエンドを目指すことは出来ないと『彼女』は言った。


 けれど、カミラが前に歩き出すことによって初めて迎えることの出来る結末があるのだと、『彼女』は言う。


「だから、もう一度言うわ。カミラ、あなたはハッピーエンドを――あなたたちだけのハッピーエンドを目指しなさい。今以上に苦しくなるでしょうし、辛くなるでしょうし、おそらく後悔ばかりになるかもしれない――でもね、それで良いじゃない」


 終わり良ければ全て良し、と誰かが言った。実に的を射た言葉ではないか。


 『彼女』は微笑みを浮かべ、


「最後にあなたたちが笑って迎えることの出来る結末をあなた自身の手で掴み取りなさい。苦労して傷ついて後悔して、でも――『気がつけば、ハッピーエンドだった』と、心の底から思えるようなそんな最後を迎えなさい」


 そう、言った。


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