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「あなたが……?」
消え入りそうな声でカミラは目の前の人物に問う。
その問いに対し、「そうよ」と『彼女』は短く答える。
その振る舞いは実に堂々としていて、今のカミラと比べてとても自信に満ち溢れたものだった。
「どうしてここに……?」
「ここはあなたの夢の中。つまりは何でも有りなのだから、今ここであなたと言う意識と私という意識が正対していても別におかしくはないでしょう?」
何を当たり前のことを、と思うような表情を『彼女』は浮かべる。
「そんなどうでもいいことは置いておいて、それであなたはそこから飛び降りるの? あの時のようにまた?」
カミラに対して、『彼女』は問う。
カミラは、力無く頷いた。
「そうするしかないから。だって私はいらない存在だもの」
そうすれば、ハッピーエンドが訪れてくれるはずなのだ。
それが一番正しい選択である。
そう考えていると、また『彼女』は不愉快そうな表情を浮かべる。
「ああ、また始まった。本当ネガティブな考えばかり。――お願いだから、いい加減にしてくれない? あなたの言動って一々頭にくるものばかりで、ああもうっ! 本当に本当に本当に本当に本当にっ!! うざったい!!」
鬱陶しくて仕方がないと、『彼女』は声を荒げて言う。
そして、次にカミラの目の前まで歩み寄り、カミラを強く睨みつける。
その目には強い怒りの感情が込められていた。
「どうして自分から行動しないで泣いてばかりいるの? どうして努力しないで仕方ないって何もかも諦めてしまうの?」
カミラの目の前で「どうして?」と彼女は何度も問う。
「どうして得たもの全てをドブに捨てるようなそんな真似が出来るの? ――私には理解出来ない」
怒りを見せる『彼女』を見て、カミラもまた「どうして?」と不思議に思う。
――どうして私にそんなことを言うの? あなたは私を憎悪していたのに。
寮の机にしまってあった日記を思い出す。
目の前にいる『彼女』は自分を激しく憎んでいたはずだ。
自分が消えて一番喜ぶのはおそらく目の前にいる『彼女』のはずなのに。
それなのに、どうして『彼女』はこうして自分に語りかけてくるのだろうか。
声をかけなければ、今頃カミラはこの屋上から奈落へと身を投げていたはずなのだ。
再び『彼女』がカミラになれば全てが解決するはずだった。
それに、愛して欲しいと『彼女』は言っていた。
自分を見て欲しいと『彼女』は言っていた。
カミラが消えれば、それが叶う。
たった二年間の『彼女』が起こした行動によって、カミラの何もかも全てが塗り替わってしまったのだから。
先程『彼女』は自身のことを偽物だと言った。違う。今では『彼女』の方こそが本物なのだ。
……そのはずなのに。
「いいカミラ? 逃げるのでもなく、流れに身を任せるのでもなく、いい加減、あなたは立ち向かうことを覚えなさい」
カミラの目の前にいる『彼女』は、それを良しとしない。




