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「私は対等な友人として、あなたを助けたい。それは、いけないことなんですか? お願いです、答えてください。カミラさん──」


 思わず、カミラは息を呑んだ。

 まるで喉から悲鳴が漏れたかのような音が出る。


 少女の言葉に応えるためにカミラは、しきりに首を横に振った。


「な、何を言っているの? あなたと私は友達に決まって……」

「いいえ、あなたはどこかで私を信用し切れていません。あなたはどれだけどのような窮地に立とうと、決して私を頼らなかった。今回もそうです。思い詰めているのが、他人から見てまるわかりであったのに必死に隠そうとする。だから、私は苛ついているんですよ。それをいい加減理解してください」


 少女の言葉は攻撃的だ。

 だが、それは紛れもなくカミラを思っての言葉なのだ。

 少女とカミラ。ふたりの歪つな友好関係があってこそ、成立する言葉。


「私はあなたを助けたいんです。救いたいんです。もうひとりで悩むのは止めてください。あなたはひとりじゃない。そのことをきちんと認識してください」


 少女はカミラに諭すような口調で語り掛けてくる。


「学園の皆はあなたの味方です。勿論、私もそうです。あなたを孤独にさせるつもりは微塵もありません。だから、お願いです」


 少女は友として切望する。悔しさに涙を呑んで、心から願うのだ。


 彼女は、カミラに歩み寄る。

 そして、強引にその手を取った。


「どうか、黙って私たちを頼ってください。十分、苦しんだでしょう?」


 この声が、カミラの心に届くように祈って──




 だが、



 ──カミラにとって、それは脅迫に等しかった。



「……いや」


 カミラは、何度も首を横に振る。

 少女は、カミラの手が震えていることに気付く。


「嫌っ!」


 その瞬間、カミラは少女の手を払いのけたのだった。


「カミラさん!!」


 カミラは、少女の脇を走り抜ける。

 少女は叫ぶが、カミラには届かない。


 もうカミラには、何も聞こえていなかった。


 ♢♢♢


 息を切らして、涙を流して、カミラは思う。

 必死に少女が語りかけていた相手は誰なのだろうか。

 それはカミラだ。だが、「私」ではない。


 「私」はカミラだ。

 だが、皆が考えるカミラは「私」ではない。


 ──では、「私」は誰なの?


 ……助けて欲しいと、願った。

 だが、皆が助けようとしたのは「私」ではなかった。

 そう、『彼女』だ。二年の間で完全にすり替わってしまった。


 「私」は必要とされていない存在。

 無用で愚劣な存在。

 『彼女』が完成品であって、「私は」欠陥品もいいところだ。

 そんな存在を誰が見向きしよういうのか。


 「私」は、見捨てられた。

 当然ではある。思い出せ。


 ──「私」が過去にしたことは何だ?


 喉から嗚咽が漏れる。

 酸欠と涙で視界がかすんでくる。

 吐きそうになる。


 でも、足は止まることはない。

 立ち止まってしまえば、楽になる。

 だが、楽になってもそれは一時的なもので、数瞬後には地獄が待ち受けているのだ。


 ハッピーエンドを壊さないよう自分なりに頑張ってみた。

 けれども、皆のカミラにはなれなかった。


 「私」はどこまでいっても「私」なのだ。『彼女』にはどうあがいてもなれっこない。それが分かってしまった。理解してしまった。

 その先にあるものは、破滅しかない。


 どうすればいいと言うのだ。


 自分を助けてくれる人はもういない。誰もいない。


 自業自得だというのに。それでも心が救いを求めるのだ。


 助けて。助けて。助けて。助けて。たすけて。たすけて。たすけてっ………。



「助けてよぉ……だれか……っ」



 ──お願い、「私」を。


 足は、もう疲労で動かなくなってきた。


 カミラの悲痛な叫びを──



「おや、カミラ君か。二日ぶりだね。その様子は一体全体、どうしたというんだ?」



 聞く者がいた。


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