44
「私は対等な友人として、あなたを助けたい。それは、いけないことなんですか? お願いです、答えてください。カミラさん──」
思わず、カミラは息を呑んだ。
まるで喉から悲鳴が漏れたかのような音が出る。
少女の言葉に応えるためにカミラは、しきりに首を横に振った。
「な、何を言っているの? あなたと私は友達に決まって……」
「いいえ、あなたはどこかで私を信用し切れていません。あなたはどれだけどのような窮地に立とうと、決して私を頼らなかった。今回もそうです。思い詰めているのが、他人から見てまるわかりであったのに必死に隠そうとする。だから、私は苛ついているんですよ。それをいい加減理解してください」
少女の言葉は攻撃的だ。
だが、それは紛れもなくカミラを思っての言葉なのだ。
少女とカミラ。ふたりの歪つな友好関係があってこそ、成立する言葉。
「私はあなたを助けたいんです。救いたいんです。もうひとりで悩むのは止めてください。あなたはひとりじゃない。そのことをきちんと認識してください」
少女はカミラに諭すような口調で語り掛けてくる。
「学園の皆はあなたの味方です。勿論、私もそうです。あなたを孤独にさせるつもりは微塵もありません。だから、お願いです」
少女は友として切望する。悔しさに涙を呑んで、心から願うのだ。
彼女は、カミラに歩み寄る。
そして、強引にその手を取った。
「どうか、黙って私たちを頼ってください。十分、苦しんだでしょう?」
この声が、カミラの心に届くように祈って──
だが、
──カミラにとって、それは脅迫に等しかった。
「……いや」
カミラは、何度も首を横に振る。
少女は、カミラの手が震えていることに気付く。
「嫌っ!」
その瞬間、カミラは少女の手を払いのけたのだった。
「カミラさん!!」
カミラは、少女の脇を走り抜ける。
少女は叫ぶが、カミラには届かない。
もうカミラには、何も聞こえていなかった。
♢♢♢
息を切らして、涙を流して、カミラは思う。
必死に少女が語りかけていた相手は誰なのだろうか。
それはカミラだ。だが、「私」ではない。
「私」はカミラだ。
だが、皆が考えるカミラは「私」ではない。
──では、「私」は誰なの?
……助けて欲しいと、願った。
だが、皆が助けようとしたのは「私」ではなかった。
そう、『彼女』だ。二年の間で完全にすり替わってしまった。
「私」は必要とされていない存在。
無用で愚劣な存在。
『彼女』が完成品であって、「私は」欠陥品もいいところだ。
そんな存在を誰が見向きしよういうのか。
「私」は、見捨てられた。
当然ではある。思い出せ。
──「私」が過去にしたことは何だ?
喉から嗚咽が漏れる。
酸欠と涙で視界がかすんでくる。
吐きそうになる。
でも、足は止まることはない。
立ち止まってしまえば、楽になる。
だが、楽になってもそれは一時的なもので、数瞬後には地獄が待ち受けているのだ。
ハッピーエンドを壊さないよう自分なりに頑張ってみた。
けれども、皆のカミラにはなれなかった。
「私」はどこまでいっても「私」なのだ。『彼女』にはどうあがいてもなれっこない。それが分かってしまった。理解してしまった。
その先にあるものは、破滅しかない。
どうすればいいと言うのだ。
自分を助けてくれる人はもういない。誰もいない。
自業自得だというのに。それでも心が救いを求めるのだ。
助けて。助けて。助けて。助けて。たすけて。たすけて。たすけてっ………。
「助けてよぉ……だれか……っ」
──お願い、「私」を。
足は、もう疲労で動かなくなってきた。
カミラの悲痛な叫びを──
「おや、カミラ君か。二日ぶりだね。その様子は一体全体、どうしたというんだ?」
聞く者がいた。




