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彼女は、心優しい。
──だから。
「……やっと、追いつきました……」
息を切らして、整っていたはずの髪を振り乱して。
もうすぐ、寮に着く頃。そんな時になって、振り向けば、そこに少女がいたのだ。
「どうしてここに……」
カミラは小さく呟くが、すでに頭の中では理解していた。追いついた、と少女は言ったのだ。なら、自分を追いかけてきたに決まっている。
なぜ、そのようなことを……? これも決まっている。
少女は、心優しい。だから、
「見捨てるわけがないでしょう……!」
荒く吐く息を、無理やりに整える。そして、
「カミラさん、私とお話ししましょう」
彼女は、カミラの目をまっすぐに見据えていた。
「何があったのか教えてください。誤魔化さず、詳しくですよ」
とても真摯な表情だ。カミラは、彼女から視線を逸らすことが出来なかった。
「な、何って……」
「アーノルドさんとのことです。それについて、きちんと私に教えてください」
少女は、底冷えのする声音で続ける。
「もう、ですね。そろそろ私としても我慢の限界なんですよ……」
その様子は歯を食いしばり、苛立ちを抑えきれないというものだった。
「何度も何度も何度も何度も何度も……いつも肝心なことについて話をはぐらかしたら、答えなかったり、黙り込んだり……その上、他人のことなんてお構いなしに突っ走る。あなたは、一体誰を信じて生きているんですか? ふざけてるんですか? ねえ──」
それはいつも少女が、言葉にしなかった心からの叫び。本心だった。
今、それをカミラにぶつける。──今のカミラが知らないあの時のように。
『──あなたの友達になることだけは許してくれる?』
少女はカミラを友達であると認めた。けれど、カミラはそれを裏切った。
あまりの悔しさに少女は、拳を握りしめて強く叫ぶ。
「これは、私に対する侮辱です。あなたは、信じて欲しいと言っておきながら、最後でいつもいつも踏みにじる! そんな人間を一体誰が信じると言うんですかっ!」
カミラは何も言えなかった。ただ、無言になって聞くだけしかできない。
「私は、あなたのことが嫌いです。でも、いつもひたむきに生きてきたあなたを嫌いにはなれません。危なっかしくて見ていられない、けれど懸命に生きていたあなたの友人でいることは嫌いではありません」
少女は、厳かに訊いた。
「カミラさん。お願いですから、私を信じさせてください。私を頼ってください。そんなに私は信用がありませんか? 頼りないですか? これでも、あなたとアーノルドさん二人と一緒に二年も過ごしてきています。私は、あなたたちのことをそれなりに理解しているつもりです。おそらく、この学園内では私以上にあなたたちのことを知る者はいないでしょう──それでも、それでも……まだ私はあなたと対等にはなれないのですか?」
少女の心には、悔しさと無力感だけがあった。
「答えてください、カミラさん」




