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これまでの自分の行いを許して欲しい、そう何度も繰り返し言われた。けれど、首を縦に振ることは一度もしなかった。
彼女は端から見れば、よく飽きないなと呆れられるほどに何度も必死に謝罪の言葉を述べてきた。
正直、いい加減しつこかった。あまりの鬱陶しさに目の前からいなくなって欲しかった。
最初は、彼女が自分に何かするのではないかと怖くて、その姿を見るたびに怯えていた。けれど、予想に反して彼女は何も自分に危害を加えるような素振りは見せなかった。
次第に、彼女が自分に本当に謝りたいのだと思えるようになった。だから、その誠意だけは受け取った。
けれど、それ以外は駄目だった。
──ごめんなさい、私はあなたを許すことは出来ません。
心が、体が、その恐怖を覚えている。何も出来ず、されるがままの自分の姿が脳裏によみがえる。手先が震えた。人は、これほどまでに無力になれるのかと、戦慄した。
なぶられた、痛めつけられた──私が何をしたっていうの? 苦しくて辛くて、何度も自問自答を繰り返した日々は忘れることなど到底出来そうもない。
──『あなた、彼に近づいてどうしたいの?』
地べたにへたり込んだ自分を見下ろしていた冷たい双眸が目に焼き付いて離れない。
それは嫉妬を孕んだ瞳だ。意味が分からなかった。どうして、自分が……?
何か誤解をしている、そう訴えても最後まで聞く耳を持ってはくれなかった。
そして繰り返される理不尽な仕打ちに、何度も何度も涙を流した。
だから、
──無理です。私はあなたが憎い。
彼女に対し、気持ちを正直に打ち明ける。彼女の態度は真剣そのものなのだから、こちらも真剣に本心を語らなければならない、それが筋だと感じたのだ。
事故の後、学園に戻ってきてから、ここ何日かずっとつきまとってきた彼女の目をしっかりと見据える。──話がある、そう切り出して。
そして、今まで堪えてきた感情を彼女にぶつけた。
全てを言い終えて、自分の言葉を静かに聞いていた彼女は厳かに言った。
分かった。それなら、自分と友達になって欲しい、と。
それもまた何度も繰り返し言われた言葉だった。信じられなかった。こんなにも自分はありったけの感情をぶつけたのに、まだそんなふざけたことを言うのか、と。
もう、どうしてそうなるのか、もはや理解不能だった。彼女は気でも触れてしまったのだろうかと本気に危惧した。
自分の困惑をよそに、彼女は語る。
『分かってる。私を許さなくてもいい。でも、嫌いな相手とでも友達にはなれると思うの』
そんなわけがあるか、と言えば、迷いなく彼女は断言した。
『自身が犯した罪が許されない代わりに、あなたの友人として相応しい人間になってみせる。それが、私の贖罪。だから、それが叶った時──』
彼女は、満面の笑みを称え、手を差し出した。
『──あなたの友達になることだけは許してくれる? ねえ、』
自身の名を呼ばれ、気がつけば、渋々ながらも首を縦に振っていた。どうしてか分からない。けれど、抗い難い魅力がそこにあったのだ。
そして、一年と経たずして彼女──カミラは自身の言葉を実行し、物の見事に実現させてみせたのだった。
彼女へ抱いた憎しみを覚えている。けれど、それ以上に彼女に対する友愛の心を持ち合わせている。
――カミラは今、私のかけがえのない親友だ。




