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 カミラは、「今日は気分が優れないから早退する」と一方的に言い残して生徒会室を後にしていた。周囲の反応で自身が犯した失態に気付いて我を取り戻し、心の中で少女と役員の皆に「ごめんなさい」と何度も謝って外へ出たのだ。


 周囲の視線に晒されるのが、途轍も無く辛かった。これ以上、苦しくて少女の顔を見ていることが出来なかった。


 少女は、呆然とカミラを見つめていた。カミラは何も言えず、その目から視線を逸らすことしか出来なかった。

 その目が、まるで自分を責め立てているかのように思えてしまって。


 だから、カミラは自分のことが居た堪れなくなって這々の体で退散したのだ。

 なんて情けない。

 少女の手を自ら振り払っておきながら、後になって怖くて尻尾を巻いて逃げ出したのだ、この自分は。


 今回起こした失態は、少女をまるで切り捨てるように酷く扱ったこと。そんなもの友人に対する態度では決してない。


 それと少女を信用することが出来なかったこと。少女を拒絶しなくても、先生のように全てではなく事の一部分だけを話して協力を仰げば良かったのではないかと後になって思考が回復してくる。

 けれど、出来ればそれはやりたくない。少女を良いように使う――まるで彼女を都合の良い道具として見ているように思えて、更に自分が嫌いになってしまう。今のカミラに、彼女からの無償の好意は重すぎる。

 それに――


 現在、怖くてカミラは他人を信用したくても信用することが出来なかった。


 今のカミラは言うなれば完全に余所者なのだ。その余所者に対して、他人が何を考えているのか分からなくて怖かった。自分と他者との間に掘られた深く暗い溝がカミラには越えられない。だから、怖いのだ。その溝をどうやって渡ればいいのかカミラには術が思いつかないから。

 だから、必要以上に恐怖する。アーノルドのことだってそうだ。


 アーノルドには自分のことがばれているかもしれないのだから、じきに他の人間も気づき始めていても何もおかしくない。いや、今回のことで気付かれたかもしれない。恐怖が増幅していく。孤独感が深まっていく。

 もう、どうすればいいか分からない。


 頭を抱えて叫びたくなる。


 ――誰か助けて。


 そう思っても、その他人からの助けを拒絶したのは紛れもなく自分自身なのだ。


 これまでの少女の言動を思い出す。意識が戻ってから、彼女には助けられっぱなしだ。彼女は、おそらくカミラの幸せを大切に考えてくれている。彼女は――心優しい。


 彼女は慈愛に満ちて、とてもとても優しいのだから。カミラを親友だと言っているのだから。


 カミラはいつしか少女の優しさに甘えていた。少女が優しさを向けている相手は自分ではないのに。少女と『彼女』同士が親友であっても、それは今のカミラに当てはまるはずがないのに。そのことを十分に知っているはずなのに。知っていて、これまで利用していた。


 それを自覚し、あまりの身勝手さに泣きたくなった。


 今の自分は、死んでしまいたいほどに愚かしかった。

 だが、それは出来ない。そうしてしまえば、ハッピーエンドは壊れてしまう。

 いや、とっくに壊れてしまっているのだろう。もう、修復など不可能なほどに。壊したのは自分だ、自分が意識を取り戻してしまったから、全てがおかしくなったのだ。


 誰も悪くない。――違う、悪いのは自分だ。

 自分が、『彼女』が作り上げた世界を粉々に壊しているのだ。全ての綻びの原因は、自分にある。そう、全てだ。


 カミラは酷く自己嫌悪に陥って、何もかも投げ出したくなってしまう。だが、それは思うだけだ。投げ出すことは決して許されない。


 そして鬱々した気分でカミラは、寮へと足を進めた。


 ふと、先生が戻っているかもしれないと思い立ち、医務室に寄ることにした。

 彼に会えば、何かが変わるかもしれないと期待を抱いて。



 けれど、貼り紙はそのままだった。誰もいない。カミラを救ってくれる人は、誰も――

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