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「……そう、ですか……」


 少女は、どこか納得出来ていないように声を発する。当たり前だ。カミラの挙動が不自然だったのは、すでに見抜かれている。

 いや、感情を態度に出さないと言っても限度がある。悟られる程度には露骨だったのだろう。それに、あの時は気が逸りすぎたために後のことをカミラは何も考慮していなかった。だから、こうして不審がられているのだ。もしかしたら他の役員たちも口に出さないだけで、少女同様に何かしらの疑問を持っているのではないだろうか。

 そんなことを考え始めて、周囲への注意力が、少女に対しての判断能力がさらに散漫になる。


 ──ああ、何もかも鬱陶しい。


 駄目だと思っても、そう感じてしまう。


「それなら何か……何か困っていることはありますか? いくらでも話してください。微力かもしれませんが、力になりますよ! それと生徒会の皆さんも困っていることがあれば、いくらでも力を貸すって言ってくれていますし……あっ、もし話しづらいことなら、私にだけこそっと教えてくれて構いませんから」


 カミラの態度に困惑しながらも、彼女は真摯に言葉かけてくる。それは、若干空回りしている感じではある。だが、友人を思うお節介焼きである彼女らしい本物の気づかいだ。それを──


「大丈夫よ。何も困っていることなんてないわ」


 それを、カミラは無下にする。


 少女の表情が固まった。カミラはそれを冷めた目で見ていた。


 分かっている。彼女に当たるのはまったくの筋違いに他ならない。

 分かっている。彼女に咎など在るはずがない。

 分かっている。誰も、悪くない。


 婚約者が体調を崩し、自身の様子もあからさまにおかしいのだから、心配しない友人はいないだろう。少女なら確実に心配する。現に少女の表情はカミラのことが心配でたまらない、といった様子だ。カミラが何かを抱え込んでいて、それを自分に打ち明けて欲しいと少女は思っていてくれているのだろう。

 友人なのだから、自分を頼って欲しい。そのように思っていてくれているはずだ。


 そんなことは分かっている。百も承知だ。


 ──けれど、今は自分に対して何も言葉をかけないで欲しかった。


 頭では十二分に理解していても、心の底からじわりじわりと滲み出てくる感情は目の前の彼女の手を払いのけろ、と命令してくる。どれだけ助けてくれようとしても、この少女には何も出来るはずがないから、と。

 アーノルドのことに大きく気をとられて思考力が低下している。頭の中には何も思い浮かばず、もやもやした霧だけが生まれてくる。

 正しい判断が出来ず、感情のままに行動しようとしてしまう。そのようなことは、してはいけないはずなのに。


 今こそ冷静にならなければならないのに。友人が必死に差し伸べた手を踏みにじるような最低な真似は決してしてはいけないのに。真摯な対応でカミラもまた応答しなければ、いけないのに。


 でも、


 もう、何も、考えたくなかった。


「ありがとう、でも、今はいいの」


 ぞんざいに作った微笑みを向ければ、少女の顔が歪む。もう少し、上手に笑顔を作ることが出来る気力と努力があれば、結果は幾分か変わったのだろうか。でも、今のカミラには只々億劫でしかない。


 ──あなたの助けはいらない。


 ──『お前はいらない』――


 カミラの言葉は、そう言ったに等しかった。カミラは、少女を突き放したのだ。


 二人のやり取りを見て、周囲から息を呑む声が聞こえる。


 ああ、何もかもが上手くいかない。


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