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 ――アーノルドの体調が悪いらしい。


 慌てて、その詳細を訊けば、どうやら風邪をひいたようだった。


 カミラはそれを聞いて酷く心配になった。アーノルドはカミラ同様、病気になったことは覚えている限りほとんどない。


 意識を取り戻したカミラを心配してくれたように、カミラもアーノルドの身を案じる。


 しかし、それと共にカミラはもう一つの可能性を考えてしまう。


 ――アーノルドはカミラに会いたくないから体調が悪いと偽っているだけではないか、と。


 真偽を確かめようにも彼は今、寮にいるのだろうから無理だ。寮は男女に分けられ、それぞれ異性の出入りを校則で禁じている。婚約者同士であってもそれは決して覆らない決まりだったはずだ。つまり、カミラが直接見舞いに行くことは出来ない。


 今日はアーノルドに会えない。いや、会わなくていい。

 そう考えて、ほっとしている自分がいる。それが、自己嫌悪に陥る種となる。婚約者が体調を悪くして安堵を覚えている自分は酷い人間なのだと。


「アーノルドさん、大丈夫なんでしょうか……」

「そうね、すぐに良くなればいいのだけど」


 少女も心配そうにしていた。


「数日、甘々カップルの姿を見れないのは、それはそれで物寂しいですね……」

「心配してくれてありがとう。アーノルドが元気になったら、思う存分あなたに見せつけてあげるから」

「え、それは……ちょっと遠慮したいですね……」


 そのような会話をしながら二人は仕事を続ける。


 ここにきて先生に伝える情報が増えた。カミラは再度、頭の中で情報を整理する。


 何しろ、生徒会の仕事がもう少しでひと段落つきそうなのだ。


 そうすれば、休憩時間に入る。医務室に行くことが出来るのだ。


 早く時が過ぎてしまえ、と何度も心の中で願うが、気持ちが態度に出てはいけない。外面を至って平静に見せなければならない。


 逸る気持ちを押さえつけてカミラは手をひたすらに動かした。


 ♢♢♢


 休憩時間になると、カミラは一目散に医務室へと急いだ。

 少女の声が背後から聞こえてきたが、振り返るのも煩わしく思えて、聞こえているかどうか知らないが自身の行先だけを前を向いた状態で言って廊下を進む。


 休み時間は限られている。全てを伝えるならば、それほど多くはない。


 兎にも角にも、一刻も早く医務室に行かなくては。一秒たりとも無駄にしてはいけないのだ。


 いつの間にか早足になってカミラは廊下を進んでいた。


 ♢♢♢


 息を切らして、カミラは呆然とそれを眺めていた。


「嘘……」


 思わず、廊下の床にへたり込みそうになる。ここに来て気力がごっそりと削がれるのを感じる。


 扉の近くの壁には朝の時とまったく同じ貼り紙がされていた。


 鍵がかけられた医務室の中には人の気配を感じることは出来ない。医務室に先生はいなかった。

 つまり、この瞬間、カミラには頼ることが出来る人間は誰ひとりとして、いない。


 孤独――その言葉が脳裏をよぎった。


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