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 生徒会の仕事が、一旦終わり、休憩時にてカミラは医務室へ向かった。


「失礼します、先生」


 ノックをしてから扉を開ける。カミラは意識を取り戻してからというもの、頻繁に医務室を訪れていることに気づく。


 半ばその行動は、日常の一部と化していた。


 ――先生とコーヒーを飲みながら言葉を交わす。情報を交換し、知り得たことを先生に報告し、意見を聞く。時には世間話に興じるのもまた、カミラの日常だ。


 医務室はいつのまにかカミラにとって憩いの場となっていた。先生は、唯一カミラの事情を知る人物だ。だから、どうにかこの場で気を休めることが出来る。寮の自室にいると、どうしてか寂しさがこみ上げてくる。おそらく、長い間自分の隣にアーノルドがいたから、それが当たり前となってしまったのだろう。だから、ひとりはどうも落ち着かなかった。


 そして、カミラはいつものように先生と対面する。

 先生は机に向かっていた体をこちらに向けて言った。


「今日も来たようだね、カミラ君。会えて嬉しく思うよ」

「ありがとうございます。私もです、先生」


 お互いに会った当初よりも気軽な言葉を飛ばすようになった。


 カミラと先生は、言い表すなら生徒と教師という立場よりも秘密を共有し合う悪友という関係の方が強くなってきている。


 カミラとしては恩師という印象の方が強いけれど、しかし、言葉の端から読みとれる態度は、前よりか遠慮がなくなってきていることが分かる。


「少し、待っていてくれ」


 先生は、立ち上がると、戸棚の方へ向かった。これもいつものことだ。


「あの、先生、私が代わりにコーヒーを淹れましょうか?」


 毎回、押し掛けているのはこちらである。そのため、コーヒーぐらいは自分で淹れようと思えば、先生はカミラの言葉を丁重に断った。


「折角の来客なのだから、私の手で歓迎したい。それに万が一、君に火傷でもさせたら、大変だ。それと戸棚の中には、色々と危険な薬が入っているから、私以外の人が戸棚に触るのは極力避けたくてね」


 カミラは「そうですか、なら仕方ないですね」と返事をして引き下がる。


 そして、それなら今度、いつものお礼として家からいくつか異なる種類のコーヒー豆を届けてもらおうか検討する。

 先生もカミラと共によくコーヒーを飲んでいるから、気に入ってくれるだろうか。カミラは頭の中でそのような思考を巡らせながら、来客用の椅子に座って先生がコーヒーを淹れ終わるのを待った。


 ♢♢♢


「どうぞ、カミラ君」

「ありがとうございます、先生」


 カミラはコーヒーが入ったカップを受け取った。いつものように淹れたばかりのコーヒーは温かくて、それに触れていると心まで温かくなってくる。


 自身の椅子に座り直した先生は、一口飲むと、言葉を発する。


「それで、今日の君の調子はどうだね?」

「そうですね、順調に回復してきました。今日はすこぶる快調です」

「それなら、よかった」


 先生は、口元をほころばせて言った。


 そしてしばらく雑談を交わしてから、カミラは本題に入ることにする。


「――先生、実は」


 カミラが、先生に渡すのは、寮の自室で見つけた『彼女』の日記であった。


 そのことを伝えると、日記を手に取った先生の顔色が変わる。


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