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カミラは『彼女』のことについて思考を巡らせる。
探せば、すぐに見つかる『彼女』の痕跡。カミラは、『彼女』についての情報を収集した時は、考えもしなかったが、今は考える余裕が出来てきた。
自分はもっと、『彼女』のことを知りたいと思っている。『彼女』は二年間もカミラとして堂々と振る舞っていたのだ。そして彼女は機会があれば、ことごとく活躍した。
それは自分には到底出来ないことだ。アーノルドが『彼女』を好きになっても無理はない。だから、知りたかった。『彼女』のことをより詳しく知ることができれば、より早く、より完全に、アーノルドを諦めきることが出来る気がするから。
こんなにも凄い人を彼は好きになったのだ、なら仕方ないのだと、自分の中で深く納得させるために。
少し気が咎めるが、カミラは、『彼女』に背中を押してもらうことにしたのだ。
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冷静になって物事を客観的に見ることが出来るようになれば、今まで集めたものよりもはっきりとした『彼女』の痕跡を見つけることが出来た。カミラは、量より質を重視してみたのだ。
注目したのは寮の一室。つまりは、カミラの自室を調べれば、それは出てきた。心に余裕が持てなかった頃には、まるで気づけなかった。だって、『彼女』の姿は常に他人の眼前に晒さているものなのだと勝手に思い込んでいたから。
二年間、『彼女』がカミラとして使った場所。大したものは何も置かれていない殺風景な場所は、カミラが意識を失う前とほとんどどこも変わっていない。
けれども、机の引き出しの奥を探してみれば、一冊の日記帳があった。足元を照らせば、案外探し物は簡単に見つかるのだな、とカミラは脱力して溜息を吐く。
カミラは、日記をつける習慣を持ち合わせていない。だから、目の前にあるこれは間違いなく、『彼女』が残した物だった。
記された内容は一体どのようなものなのか。
心の中で『彼女』に謝罪して、簡素なデザインの日記をカミラは意を決して開いてみる。
♢♢♢
そこには、悲痛な叫びや怨嗟、あふれんばかりの憎悪と深い悲しみが余すところなく綴られていた。
一ページずつめくって覗いてみれば、日時は記されておらず、ただ自身の思うがままに書きなぐられた、手記のようなものである。
知らぬ間にカミラはそれを息を潜めて穴が開くほどに見つめていた。
誰にも理解されることのない悲しみ、苦しみ、憎しみ、それらの感情をぐちゃぐちゃにしてかき混ぜたような葛藤が『彼女』自身の手で書かれている。文字はところどころかすれ、震えて、読み辛いが、その読み辛さが、『彼女』の鬼気迫る筆力に拍車をかけている。涙でインクが滲んでいる部分も見られるし、癇癪に任せて破り捨てたようなページも存在する。
──『彼女』が味わった苦悩の数々が、カミラが知りたかった本当の『彼女』の姿がそこにあった。
これは、哀れなひとりの少女の物語だ。
日記の冒頭はこのように始まる。
『――私はカミラじゃない。だからどうやったとしてもカミラにはなれない。だから、私は──カミラを憎む』




