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生徒会室の扉を開ければ、すぐさま声が飛んできた。
「カミラさん、おかえりなさい。もう平気なのですか……?」
まず初めにカミラに対して声をかけたのは、少女だった。
「ごめんなさい。もう、すっかり体調も良くなったわ」
「本当に大丈夫なのか、カミラ。まだ休んでいた方がいいと思うが……」
次に言葉を発するのは、心配そうにカミラをみつめるアーノルドだ。
「ありがとう、アーノルド。もう、平気なの。それに、仕事の遅れを取り戻さないといけないわ」
「だが……いや、君がそういうのなら、分かった。頼りにしているよ」
カミラは、アーノルドの言葉に対して「任せて」と返して自身の席に座る。
「調子を取り戻した今の私に怖いものなんてないもの」
カミラは弾んだ声音でそう言って、仕事を再開するのだった。
カミラの姿を見て、アーノルドと少女は一瞬、戸惑いの表情を浮かべたが、彼女を追及することをせず、すぐに仕事に戻るのだった。
♢♢♢
終始カミラは、実に平静だった。もう、何も気にしない。
アーノルドがいくら愛を囁こうと、自分の前で『彼女』のことを話そうとも前よりも動じることはなかった。カミラの頭は妙に冴えていて、落ち着いた様子で言葉を返す。
しかし、そこには、アーノルドに対する愛情は含まれていない。
なぜなら、彼女は愛を諦めたから。
──彼はカミラではなく『彼女』を選んだ。
それが、アーノルドが出した答えだというのなら、
──アーノルドに対する恋心をきっぱりと諦める。
それがカミラが出した答えだ。
このまま一生、彼に対して恋心を持ち続けるのは、おそらくカミラ自身耐え切れないだろう。じきに自分は彼への想いと罪悪感とで板挟みになって潰れてぐちゃぐちゃになってしまう。
それは、だれも望まない結末だ。そこには悲しみしかない。皆、不幸になってしまう。それは嫌だった。
一方的に想いをぶつけたとして、誰も救われない。むしろ、害悪なのだ。
だから、彼女が苦しみ悩んだ末に出した結論は、『諦める』であった。
それが、カミラとアーノルド──二人にとって最善なのだと判断する。
それもまた、違う形のハッピーエンドなのだ。
そういうことでカミラはアーノルドへの片思いを諦めることにしたのだった。……まだ、完全には無理かもしれないが、いずれは彼に対して気持ちの整理をつけたい。
カミラはそのような結論に達する。
だから、いざ納得し、割り切ってみると受ける傷は比較的少なく感じるようになった。これ以上、心に憎しみが混じっていくことはない。もう、恋心は──愛は胸の奥底に固く蓋をしてしまったのだから。
もう、人前では恥を晒す真似はしない。失態は、あの一度きりで十分。
カミラは決意した。
自分はこれからは、貴族として生きるのだ。もう、愛には惑わされない。
二人は憎しみ合う関係ではなくなった分、幾らか健全と言える。
一周回って着地したような気分だ。見事すとんとはまったような心の感触により、カミラは驚くほどに落ち着いていた。
はじめて経験した失恋の味は、思ったほど苦くはなかった。
むしろ、とても拍子抜けするほどにあっさりとしていた。




