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「今日はありがとう御座いました、先生」

「何、大したことはしていない。明日もまた相談しに来るといい、歓迎しよう」


 先生は実に柔らかな表情で言った。


「はい、分かりました。さようなら、先生」


 カミラは微笑みを浮かべて、応じる。


「さようなら、カミラ君。アーノルド君との幸せを切に願っているよ」


 そうして、カミラは一礼して退室したのだった。


 ♢♢♢


 カミラは、廊下を歩く。足取りは前よりも軽やかに。

 そして歩きながら、思考に耽る。


 先生の言葉は、確かにカミラに響いたのだった。


 しかし、先生は、カミラとアーノルドのことをあまり知らない。

 だから、学園に入学する前から仲がいいのだと思っている。


 カミラとアーノルドは憎み合っていた。

 二人の愛が本物になったのはここ最近だ。

 ……それでも、真の愛とは似ても似つかないけれども。

 ただ、二人の演じ方が本物らしく見えただけだ。偽りの愛が本物に見えるほどに強く憎しみ合っていただけだ。


 当然だが、先生はそれを知らない。カミラがそこまで話せなかったからだ。


「……ごめんさい、先生」


 真摯に耳を傾けてくれた先生の姿を思い出して、ちくりと罪悪感が、カミラの心を刺す。


 二人の演技を見抜けたのは、長年の彼らを知る本当に近しい者だけ。


 たとえば、近くで二人を見ていた両親は確実に気付いていたに違いない。

 二人をよく知っているからこそ、より二人の姿が不自然に見えたことだろう。だから、二人に対して何も言わなかった。

 貴族の一員としての務めをきちんと果たしていると、そう判断されたからだろう。

 だから、愛情を抱くことを許されず、憎しみ抱くことは許された。

 今だから思う。おそらくそれは、元から両親が仕組んでいたこと。自分が婚約者を憎むようになったのは、自分に施された教育の一端であったのだ。

 何て馬鹿馬鹿しい。端から自分に選択肢などなかった。それに気がつかなかった自分は何て愚かなのだろうか。

 カミラは、あまりにも滑稽な自分のことがおかしくて、思わず笑ってしまいそうだった。


 ──愛は人を不幸にする。かつて両親が言った言葉を思い出す。


 愛により、かつてカミラは『破滅』の道を歩んでしまった。そして今は、愛のために苦しみ踠いている。


 ──愛は罪深いと言う。確かにその通りだったのだ。


 先生に話を打ち明け、先生の聞いてカミラの心は軽くなったが、それでもその差異は微小なるものだ。


 心が徐々に蝕まれていくのは、やはり止められない。

 このままでは近いうちに、カミラの心は擦り切れてしまうのは避けられない。


 だから、カミラは決意する。


 カミラから見たアーノルドの『彼女』を想う気持ちは揺るぎないものだ。もう、変えようのないものだ。


 先生の助言を聞いて、一度頭を冷やして冷静に考えることが出来た。


 冷静になって考えた結果として、


 それゆえにカミラは心に決めたのだ。


「……ごめんなさい、先生」


 再度、彼女は謝罪の言葉を小さく発する。

 ……相談にのってもらった先生には悪いけれど。


 ようやくカミラは、現状を受け入れる。そして、


 愛を、諦めるのだ。


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