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先生がカミラに対して行う助言の数々は、実に的を射ていて、参考になるものばかりだった。そのため終始、カミラは、先生の言葉ひとつひとつに感心して頷いてばかりであった。
当初のカミラの心配をよそに先生は、「君の助けになればいいが……」と言ってカミラの相談に対して、真摯に対応した。
「君にいくつか言葉を送るだけしか出来ないのは、実に歯痒いな」
「いえ、十分です、先生。少し気持ちが軽くなったような気がします」
先生の助言を受けて、カミラの心は前より晴れて、幾分か前向きになれるようになっていた。
心が救われた、それは間違いないだろう。
しかし、どうして先生が男女の恋愛関係について詳しく助言することが出来たのだろうか。カミラはそれが気になって訊いた。
「失礼ですが、先生はすでにご結婚を……?」
「いや、まだ独身だが。それが何だね?」
「い、いえ、その、どうしてそんなにもお詳しいのかなと思いまして……すみません」
もしかしたら不快にさせてしまったのかとカミラは、頭を下げた。
「気にしてはいないよ。今日まで私が独身なのは、そうだな、巡り合わせが悪かったのだろう。だが、これでも私は貴族の一員だ。機会はいくらでもあった。けれど、今日まで誰とも一緒にならなかったのは、おそらく夢を見ていたからなのだろうな」
「夢、ですか?」
「そう、夢だ。一人の貴族として生きるのではなく、一人の人間として生きたいというささやかで、我々にとっては罪深い夢だ。……どうやらあまり、私は貴族として生きたいとは思わないらしい。だから、私はこの学園で教師をやっているのだろうな。それは自分の家から常に離れていられるのと、真面目に働いていれば、家から文句を言われないという何とも不真面目な理由であるのだがね。――私は、未だこの歳になっても『愛』を探しているのかもしれない」
先生は、どこか遠い目をすると、次に苦笑する。
「愛とは罪であると常に教えられているはずでありながら、君たちは愛情をお互いに感じている。誰もが内心、貴族であるというだけで、一度は胸に抱く夢を諦めているというのに君たちはそれを決して諦めない。──それは、他の者達から見れば、とても奇異なものであるし、時には妬まれ、疎まれるものでもある。けれど、愛し合う君たちの姿は何よりも貴いと、常日頃から貴族を辞めたがっている私は思うよ。──私は君たちを応援しよう。そのために惜しまず尽力しよう。だから、君の中に今あるそれを大切にして欲しい。決して無くしてはならない」
先生は、「少し喋りすぎた」と言って、コーヒーの入った自身のカップを口に運び、とても苦い顔をするのだった。
他人から語られて、カミラは自分が学園に入って貴族から人間へと変わってしまったことを再確認した。無意識にカップに口をつければ、自分のコーヒーはすっかりぬるくなっていた。




