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「……取材? 私に?」
「はい、それとアーノルドさんにもです。一緒に取材したい、と」
生徒会室にて、仕事中に少女が言った。
「どうやら来月に掲載する学園新聞のために、お二人の記事を書きたいらしくて」
少女の言葉を聞いてアーノルドは、頷いた。
「なるほど、カミラどうする? 俺は一向にかまわないが」
視線を向けられたカミラも、承諾の意思を示す。
「私も、いいわ。それで、取材はいつなの?」
「そうですね。この仕事がひと段落したら、お呼びしましょう。あまり時間はかからないそうです」
♢♢♢
新聞部の生徒が入室し、取材が始まった。新聞部の生徒が、メモ用紙とペンを持って、二人に質問する。
質問の内容はカミラとアーノルドの関係について、であった。それは少々、下世話な話題であるが、カミラは学園の生徒の中では最も高い知名度を誇っているし、その彼女から好かれているアーノルドとはどのような人物なのか関心が集まるのは至極当然であると言えた。
他の理由としては、カミラとアーノルドは生徒会の役員を務めている。それだけで学園内では、下級生の憧れとなっていた。それに加え、二人は家の都合によって決められた婚約者同士であるのにかかわらず、驚くほど仲が良い。恋愛結婚など端から無縁な貴族の令息令嬢からは、羨望の眼差しで見られていた。
学園内で二人の名前を知らない者はいない。記事として取り上げるのにこれほど相応しい人物はそういないだろう。
カミラとアーノルドは、自然体で質問に答える。
「勿論、俺はカミラのことを想っている」
何の躊躇いなくアーノルドは断言した。
「私もそうよ。アーノルドのことを想っているわ」
対するカミラも何の恥ずかしげを感じる様子もなく答えた。
相変わらず二人の姿はいつもと同じで、微塵も揺るぐことはない。
そこまでは、いつも通りだったのだ。
アーノルドに質問が投げ掛けられる。それまでは。
新聞部の生徒が訊く。
――どうして、彼女を意識するようになったのか?
その質問を耳にすると、カミラの肩がわずかに揺れる。しかし、それには誰も気づかない。
アーノルドはお安い御用だと言う。そしてカミラに熱い視線を向けると、言葉を紡ぐ。
「そうだな、彼女を意識したのはいつだったろうか。気がつけば、カミラのことを愛おしく思えるようになっていたよ」
彼の視線を受けても、カミラは、心を殺して平静に見えるように微笑む。──大丈夫、大丈夫だから。平気だから。
「最初は、両親が勝手に決めた婚約者だということで抵抗はあったよ。だが、今は両親に感謝している。こんなにも、愛しく思える相手を選んでくれた」
何度も心で唱える。──私は大丈夫だ、耐えられると。
「より一層、彼女のことを強く意識するようになったのは、先日の事故の後だ。目の前にいたのに俺は、彼女を助けられなかった……」
アーノルドは、悲し気な表情をして言った。カミラはそこで耳を塞ぎたくなる。心が打ち砕かれたかのように痛い。やめてっ、とカミラは心の中で叫ぶ。
カミラは顔を誰にも見られないように、自分でも気づかないうちに伏せていた。
「だから、誓った。もう離すつもりはない。俺はもう繰り返さない」
ああ、やめて、やめて、やめて──。
「今、こうしてカミラは俺の隣にいてくれる。俺のことを想っていてくれる」
やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、止めて、ヤメテ──
「──それが、何よりの幸せだよ」
私の前で、これ以上、『彼女』のことを話さないで──
「──やめて」
アーノルドが言葉を続けようとした時、カミラが発した言葉に場の空気が一瞬静まった。
「カミラさん……?」
遠巻きで様子を見守っていた少女が、言葉を飛ばす。
それで我に返ったカミラは、うつむいていた顔を上げると愛想笑いのような表情をして、周囲に対して弁明する。
「もう、やめてよ、アーノルド。……そんなに言われると何だか、くすぐったいわ」
「……あ、ああ、ごめんカミラ」
アーノルドは、照れる彼女に謝ると次の質問を新聞部の生徒に促す。
顔を逸らすとカミラは唇を強く噛んで、これ以上感情がこぼれないように心を自制する。
ああ、やってしまった。
カミラは、耐えることが出来なかったのだ。