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「……前々から思っていたのですが、どうしてお二人は、人前でもそのように平気でイチャイチャイチャイチャイチャイチャ出来るのですか……?」


 少女が額に青筋を立てながら言った。握った拳がわなめいている。


「それは勿論、私達が愛し合っているからよ」

「その通りだ、カミラ。それに、今ここには俺たち三人しかいないだろう」

「何です? それは、あなたたちから見て私は、人として認識されていないということですか?」

「まさか、あなたは私の親友よ」

「そうだ。君が友人だからこそ気兼ねする必要が俺達にはないというものだ」

「あ、はい。そうですか。光栄ですよ、大いにね……」


 ぞんざいな返事をして少女は、書類を整理する。


「とにかく、まだ仕事はたくさん残っています。さっさと終わらせたなら、もっとイチャつけますよ。だから、きびきび手を動かしてください。いい加減にしないとさすがに私も怒りますからね」


 現在、三人がいるのは生徒会室だ。三人とも役員であるため、卒業前に任されている全ての仕事を終わらせて、晴れ晴れとした気持ちで学園の卒業式に臨むつもりなのである。


「カミラさんも調子をこの頃取り戻してきたみたいですし、この分だと何とかなりそうですね」

「そのようね。でも、二人に今まで迷惑をかけてしまったわ」

「いいんだ、カミラ。それが君の助けになるのなら、願ってもない」

「私としては、常にあなたたちに迷惑をかけられっぱなしなので、今更迷惑の一つや二つ増えたところで、またかと思うだけですね。慣れてしまいましたよ」


 彼女の言葉に、二人が口々に答える。カミラは、感謝の念を送った。


「ありがとう、二人とも。私には愛しい彼がいて、頼りになる友人がいる……私は幸せ者ね」

「……カミラ」

「……カミラさん」


 カミラは目を伏せて悲しげに言った。


「……だから、二人に言わなければならないことがあるの……」

「どうしたんだ、カミラ……?」

「な、何ですか、急に改まって……」


 カミラの様子に若干狼狽える二人。そして彼女は神妙な態度で、二人にあるものを見せた。


「実は、さっき落ちていた書類を踏んで破ってしまったのだけど、どうしたらいいかしら……結構重要なものみたい……」


「何してるんですかっ!」


 少女がたまらず叫んだ。


「大丈夫だ。ここには最初から俺と君はいなかった。――そうだな?」

「なんで私にそんなことを訊く……って――はっ、まさか!」


 アーノルドは、少女に罪をなすりつけようと画策する。


「嫌ですよ! ここには最初から三人がいました! 私とカミラさんとアーノルドさんの三人です! 連帯責任ですよ、謝りに行くなら一緒に行きますからっ!」

「ああ、可哀想に。彼女はあまりのショックにいもしない二人の幻が見えて現実がまるで直視出来ていないのです。お労しや……」

「もう、それ私が破ったみたいじゃないですか! やったのカミラさんなのに!」


 目の前に繰り広げられる光景は、実に平和でありふれた日常そのものだった。代わり映えもしなければ、面白みに欠ける。実にありきたりだけれど、とても温かく優しさに包まれている。平常でぬるま湯のような幸福はとても居心地がいい。

 皆、心から笑い、心から楽しんでいた。


 カミラを除いては──


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