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──カミラは『彼女』の存在を調べれば、調べるほど嫌でも『彼女』との違いを感じていった。『彼女』は、カミラではない。では、一体誰なのかそれも分からない。『彼女』の存在を認識すれば、するほど『彼女』が自分と比べてどれほど優秀であったのかを思い知らされる。
カミラから見ても、『彼女』は優れていた。元から備わっていたのか、それとも努力の賜物かは分からない。しかし、周囲に認められるほどに『彼女』の存在は、大きかった。
──元ある悪名を覆し、美名に変えてしまうほどに。
周囲から見た『彼女』は優秀で、とても魅力的だったに違いない。
「カミラ、最近具合はどうだ?」
「かなり調子がいいみたい。ありがとう、アーノルド」
彼は、自分が目覚めてからいつも、気にかけてくれた。
彼が、カミラに向ける微笑みは本物だ。あの頃の偽物の笑みではない。
彼が、カミラに対する振る舞いには、彼女を想う気持ちがあふれている。
彼は、カミラに優しく接する。それはもう、偽りの優しさではなく本物だ。
カミラは、アーノルドを愛している。アーノルドはカミラを憎んでいた。
けれど今は、アーノルドはカミラを愛してくれている。
かつて二人は、偽りの愛を囁き合った。けれど今、囁き合う愛は本物だ。カミラとアーノルドはお互いを愛している。そこに、嘘偽りは存在しない。
だから、それ以上は考えてはいけない。でも考えてしまう。彼を思うほど──彼を想うほどに。
「アーノルド、愛してる」
「俺も愛してるよ、カミラ」
彼は本当の愛を返してくれる。それが、あの頃との違い。
けれど、彼が抱く本当の愛。それは、
──本当に、本当の愛なのだろうか。
彼がカミラに対して、愛おしく思っているのは事実なのだろう。彼の態度と心は、見ていて疑いようもない。
反射的にカミラの心は、そのことについて考えないようにしていた。気づかないふりをしていた。逃げたくないと思っていても、無意識の内にカミラの心は逃避していたのだった。また壊れて、繰り返さないように。
アーノルドがいつも隣にいてくれる。いつも彼を近くで見ていると、どうしてもそれにカミラの心は向き合わざるをえなくなる。目を逸らしたくても、いつも彼は自分の視界に映ってしまう。
彼と接すれば接するほど、一度感じてしまった違和感の影が次第に強くなって、無視できないほどに膨れ上がっていく。
だから、思いたくなくても、思ってしまうのだ。
──彼の愛は、一体どちらのカミラに向けられたものなのだろうか。
「アーノルド、あなたは誰を見ているの……?」
幸せになれると思っていた。今が幸福なのだと思っていた。
その幸せの世界が、今カミラの中で音を立てて崩れていった。あんなにも色鮮やかに見えた光景は、途端に色褪せていく。意識を取り戻した当初、これが夢なら覚めないで欲しいと何度も願った。
けれど今は、
「これが夢なら良かったのに」
今見ている光景がただのまやかしなら、幾分か救われただろうか。けれど夢のような現実は、結局はどこまで行っても変えようのない現実なのだ。
ハッピーエンドの中で、カミラだけが幸せになれない。