4 ロスト・メモリーズ(2)
事情を話したところ、彼女は直ぐに理解をしてくれた。腕を組んでうんうんと難しそうに考えているのが、なかなか見ていて面白い。
「でね、君が落ちた時にもう一つ気になることがあって」
「うん?」
「あの時、君は『やっと』って希望に満ちた目をして言ってたんだ」
「希望に満ちた目、か……何があったんだろうな」
他人事のように言っている。記憶が無いから、自分のこととしての実感も無いのだろうか。
「何にも思い出せない?」
「ああ、何にも」
思い出せないこと自体に苦しんでいるのか、とても重たい表情をしている。深刻な事態だ。自分に何かできることは、何か無いだろうか。それを考えている内に、彼女が再び口を開く。
「でも、オイラは何も気にしちゃいないよ。ただ生きているだけでも奇跡だって、お前が言ってくれたじゃないか。ならそれを受け入れて、今を精一杯生きるだけだ。だからお前は、何も気に病む必要はないよ」
「そうなのかな」
「そうさ」
また、彼女はにっこりと微笑んだ。本当は、自分が一番つらいはずなのに。
強いな、この子は。口調も大分強めだけれど、精神力もそれに見合っている。
「聞きそびれていたけど、お前、名前は何ていうんだ?」
ああそうか、まだ名前も教えてなかった。
「夜天 流衣。流れる衣って書いて、ルイだよ」
「ルイ……か。何だか、女の子みたいな名前だ」
うっ。ちょっぴりグサッとくる言い方だ。
顔も童顔だし、若干気にしてた身だ。
しかもよりによって……。
「……女の子にそう言われると苦しい」
そう言うと、彼女は何かを考え出す。
間を置いて、返ってきたのは意外な答えだった。
「女の子?」
ぷいと自分に指を指しながら、僕の発言に遺憾の意を唱えるかのようなその疑問符。
そこで僕は気付いてしまった。
いや、むしろ今まで何故気が付かなかった!
この強気な口調。言葉遣い。それに何より一人称の「オイラ」。ここから結びつくことはただ一つ。
この子が、女の子じゃない……?
いや、こんなかわいい顔した子が!?
や、それだと自分のことを棚に上げているような。僕だって別に可愛い顔してるけど男だし。でも、そんな自分をかわいいとは思わないし、かっこよくなりたいし。凄まじい事実を突きつけられた。こればっかりは感付きたくはなかった。
いやぁー。あっははは。
「何に驚いているのか知らないけど、そろそろこれからについて考えなくちゃ」
「あっははははははははははははははは」
ペチュン。と一発ほっぺを軽く攻められた。
「目を覚ませ。あと、人の話はしっかり聞いてほしい」
「ふぁい……」
僕と、そして記憶を失った赤髪の彼方は、これからこの星でどうしていくのかを考えていく必要がある。かと言って僕らだけでは、どうするべきかなんて分からないのだけれど。