3 ロスト・メモリーズ
★☆★
「夢!?」
大声で言った時には、既に現実へと引き戻されていた。半ば思考が停止した状態で辺りを見回したことで、漸くここが少女の寝ている病室であることが理解できた。
夢の内容はおぼろげながらに覚えていたが、大して内容に気を留めることは無かった。
ああ、僕寝ちゃってたんだな。
口の中は若干乾いていて何だか気持ちが悪い。反対に手はじっとりとしていた。ずっと彼女の手を握っていたからだろうか。何だか申し訳ないことをしてしまった。
ここでふと、彼女の手に少しだけ力が入っていることに気が付く。先ほどまではこんな力はなかったはずだ。
そう思って彼女の顔を見ると、安らかだった。心地よさそうな表情をしている。
赤い髪をした可愛らしい少女が、自分の前で眠っている。不思議と心をドキドキさせた。
……いやいや何を考えているんだ僕は。
変な考えを巡らせてしまったせいで、彼女の手を握る力が強くなってしまったようだ。
感覚に気が付いた彼女は、とうとうついに目を覚ましたのだった。
「ありがとう」
「へ?」
第一声がこれだった。僕には何が何だかわからなかった。
困惑しているのが目に見えていたのか、彼女は理由を述べてくれた。
「手を、握っていてくれたんだろう……?」
穏やかな笑顔で、彼女は答えた。その表情に、思わず僕はときめいてしまいそうになった。破壊力抜群である。
「もしかして、起きてたの?」
「ああ、さっきまで。可愛い寝顔だったぞ」
「そ、そう?」
「少なくとも、オイラは寝つきが良くなった」
理性的な返答が出来た。我ながら完璧だと思う。ああ、顔が熱い。
「どうした? 顔が真っ赤だ」
「ふぇ!? いやいやいや、そんなことは」
「お前、何だか面白いな」
彼女はにへへと笑う。
僕は恥ずかしくなって、そっぽを向く。
冷静に、冷静になれ自分。
なんでこの子にだけはこんなに真っ赤になるんだ。今までいろんな女の子と話をしてきたけれど、こんな気持ちになるなんて、ぅう……。
多分、慣れてないからだよね、慣れればこんなにならないはず。
こういうときは、深呼吸……。
スゥ。
フゥゥ。
よし、完璧。
「ねえ、君、名前は何ていうの?」
「名前か。まだ名乗って無かったな」
そう、この子の名前と、そして、どうして流星の落下地点にこの子が居たのか。それがずっと気になっていたし、聞かねばならないことだった。冷静になって考えてみると、これを初めに聞くべきだったよね。
気付いたら彼女は、横の体勢から、起き上がった体勢に変えていた。
「…………」
「…………」
えらく沈黙が長い。
「……どうしたの?」
どうしてか、彼女は不安気な表情をしている。そしてそのまま下を向いて考え込んでしまった。
「……なあ。変なことを言うかもしれないが」
「うん?」
「オイラって、何者なんだ?」
「……へ?」
話を聞いていってはっきりしたが、彼女は自分自身の記憶のその全てを失っていた。
無理もない話だ。彼女が流星そのものだったとしても、直撃したにしても、その衝撃は想像だに出来ない程のものだろう。むしろ、普通に生きていられること自体が奇跡だと言える。
「今こうして生きているだけでも、十分だよ」
僕は彼女に、これまでのことを、丁寧に説明していく。
記憶喪失の人物に会うことなんて一生ない事だと思っていたし、何だか変な気分だった。でも、決して嫌な気分というわけではなかった。