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星屑の漂流者―ロスト・メモリーズ―  作者: くろめ
ロスト・メモリーズ 上
8/85

3 ロスト・メモリーズ

    ★☆★


「夢!?」


 大声で言った時には、既に現実へと引き戻されていた。半ば思考が停止した状態で辺りを見回したことで、漸くここが少女の寝ている病室であることが理解できた。


 夢の内容はおぼろげながらに覚えていたが、大して内容に気を留めることは無かった。


 ああ、僕寝ちゃってたんだな。


 口の中は若干乾いていて何だか気持ちが悪い。反対に手はじっとりとしていた。ずっと彼女の手を握っていたからだろうか。何だか申し訳ないことをしてしまった。


 ここでふと、彼女の手に少しだけ力が入っていることに気が付く。先ほどまではこんな力はなかったはずだ。

 そう思って彼女の顔を見ると、安らかだった。心地よさそうな表情をしている。


 赤い髪をした可愛らしい少女が、自分の前で眠っている。不思議と心をドキドキさせた。


 ……いやいや何を考えているんだ僕は。


 変な考えを巡らせてしまったせいで、彼女の手を握る力が強くなってしまったようだ。

 感覚に気が付いた彼女は、とうとうついに目を覚ましたのだった。


「ありがとう」

「へ?」


 第一声がこれだった。僕には何が何だかわからなかった。

 困惑しているのが目に見えていたのか、彼女は理由を述べてくれた。


「手を、握っていてくれたんだろう……?」


 穏やかな笑顔で、彼女は答えた。その表情に、思わず僕はときめいてしまいそうになった。破壊力抜群である。


「もしかして、起きてたの?」

「ああ、さっきまで。可愛い寝顔だったぞ」

「そ、そう?」

「少なくとも、オイラは寝つきが良くなった」


 理性的な返答が出来た。我ながら完璧だと思う。ああ、顔が熱い。


「どうした? 顔が真っ赤だ」

「ふぇ!? いやいやいや、そんなことは」

「お前、何だか面白いな」


 彼女はにへへと笑う。

 僕は恥ずかしくなって、そっぽを向く。


 冷静に、冷静になれ自分。


 なんでこの子にだけはこんなに真っ赤になるんだ。今までいろんな女の子と話をしてきたけれど、こんな気持ちになるなんて、ぅう……。


 多分、慣れてないからだよね、慣れればこんなにならないはず。

 こういうときは、深呼吸……。


 スゥ。


 フゥゥ。


 よし、完璧。


「ねえ、君、名前は何ていうの?」

「名前か。まだ名乗って無かったな」


 そう、この子の名前と、そして、どうして流星の落下地点にこの子が居たのか。それがずっと気になっていたし、聞かねばならないことだった。冷静になって考えてみると、これを初めに聞くべきだったよね。

 気付いたら彼女は、横の体勢から、起き上がった体勢に変えていた。



「…………」

「…………」


 えらく沈黙が長い。


「……どうしたの?」


 どうしてか、彼女は不安気な表情をしている。そしてそのまま下を向いて考え込んでしまった。


「……なあ。変なことを言うかもしれないが」

「うん?」


「オイラって、何者なんだ?」


「……へ?」



 話を聞いていってはっきりしたが、彼女は自分自身の記憶のその全てを失っていた。

 無理もない話だ。彼女が流星そのものだったとしても、直撃したにしても、その衝撃は想像だに出来ない程のものだろう。むしろ、普通に生きていられること自体が奇跡だと言える。


「今こうして生きているだけでも、十分だよ」


 僕は彼女に、これまでのことを、丁寧に説明していく。

 記憶喪失の人物に会うことなんて一生ない事だと思っていたし、何だか変な気分だった。でも、決して嫌な気分というわけではなかった。

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