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星屑の漂流者―ロスト・メモリーズ―  作者: くろめ
ロスト・メモリーズ 上
6/85

2 眠りし宇宙人

 ヒカリに連れられて廊下を進む。

 昔友達がやっていたRPGのお城ステージよりかは少し小さいだろうけれど、それでも十分な大きさだ。

 もしかして、彼女はお金持ちなのだろうか。いや、聞かずともこの大きさを見れば判ることなのだけれど、何となく聞いてみた。


「あんま良く知らないかな。あたしはお金に興味ないし、親にもそんなに関わりたくないし」

「そうなんだ。でも憧れるよ。こんな所で暮らせるんだもん」


 素敵な場所だなと思う一方で、親に関わりたくないと言ったことに若干の不思議を感じた。


「良い事だらけじゃないよ。まれに泥棒が入ってくることもあるし。広すぎて部屋の行き来が大変だし、面倒。しかも飽きるのよ」


 彼女は逆に、そんな家を退屈と感じていた。住み心地というものが、あまり感じられないってことか。大きければいいってものじゃないんだ。

 少なくとも僕は自分の家に満足しているし、それ以上良いものを求めるのは邪道かなと思う。


「ほら、着いた。救護室よ」


 何で家にそんな部屋があるんだ。僕はそう心の中で思った。

 どうやらバツが悪そうな表情をしていたようで、彼女はそれを察して理由を答えてくれた。


「この街って大きな病院が無いでしょう。だから重病者はこっちが引き受けてるのよ」

「知らなかった……」


 重病になったことが無いから、良いことなのだろう。でも、次から次へと自分の知らないことが浮き彫りになってくることに、心底呆れていた。こんなに世間知らずだったのか自分は。


「さあ、どうぞ」

「……うん」


 彼女が扉を開いてくれた。

 さあ、いざ入るとなると若干緊張する。あの子が目覚めていたら何を告げよう。何を話すべきか。自己紹介? いやいやそんなことではないはず。


 ワタシガタスケマシター!


 それも違う。何をしてあげるべきなのかもわからない。

 誰かを助けようとしたのは初めてだったし、これからのことが思いつかないや……。

 というか、一日でそこまで回復するわけもないだろうし、もう少し肩の力を抜いていいのかもしれない。


「どうしたの?」

「いや……何でもないよ」


 深く深呼吸……。

 僕は意を決して中へと入っていった。


 中には布団に横たえている少女と、そして……。


「ああ親父。来てたのね」


 ヒカリのお父さんらしいその人は、なんというか「おじさま」という表現が似合いそうな人だった。

 年季の入った顔の濃さと、何よりも無精髭が、余計にそれを感じさせた。


「重病者が居ると聞いてな。すっ飛んできたぞ」

「はいはい。で、病状はどう?」

「私は完全な医者ではないからな。断言はできないが、きっと大丈夫だろう。呼吸も安定している」


 良かった。それを聞ければ安心だ……。


「そうだ。きみが夜天君だね。話があるんだ。後ほど改めて話がしたい。しばらく待機していただけるかな?」

「ええと、家族へ連絡しないと」


 何よりその心配が大きい。昨日の夜から今にかけて、僕は何も言わずに家を飛び出しているわけだ。下手をしたら行方不明の扱いにもなりかねない。せめて連絡だけはとっておかないと。


「心配は無用だ。しっかりと連絡は取ってある。親父さんも変わらんようで何よりだ」

「父さんを知っているんですか?」

「悪友みたいなものだよ」

 ふっふっふと、彼は遠くを見ていた。一体彼らには何があったのだろう。


「とりあえず、だ。我々は一旦退席させていただくよ。きみはしばらくその子の横に居てあげるといいだろう」

「はい、わかりました」

「寝込みを襲っちゃダメよ」

「わかってるよ」


 二人は扉の外へと出て行った。


 ああーッ! あそこは「わかってるよ」じゃなくて「するわけないよ」と答えるべきだった。これじゃあ僕にその気があるみたいじゃないか!


 言葉って難しいな……。瞬時に選んで発さなければならないのだから。

 そんな些細かもしれない悩みを抱えながら、横に居る彼女の手を握ってみる。


「あ、あったかい」


 手と、そのうじうじした心をしばらく温めて、ゆっくりと彼女の側に居るのだった。

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