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星屑の漂流者―ロスト・メモリーズ―  作者: くろめ
ロスト・メモリーズ 上
5/85

1 クールな会長

    ★☆★


 小鳥の囀りが、外から聞こえてくる。

 ああ、朝が来たんだ。昨日は色んなことがあったなぁ。

 買ってもらったカレイドスコープを持って、夜中に探索しに行って、星屑ヶ原へ行ったら金髪の女の子に変なこと言われて、かと思えば隕石が降ってきて、その落下地点に人が……。


 …………あれ。


 僕、その後どうしたっけ。

 その人をお姫様抱っこして、また森の中に入ったんだ。そしたら入ってくる時とはまるっきり地形が違ってたのか。

 その結果、哀れなぐらいに迷って、気絶して。


 そうしたら、今は森の中?


 僕は初めて目を開いた。

 しっかりふかふかと気持ちのいい羽毛の布団がかかっている。ご丁寧にダメになっちゃいそうな枕まで。ずっとここに居たら、また眠ってしまいそうなほどだ。


 って、そもそもここ、どこなの。


 周りを見渡してみるが、自分が見ず知らずの部屋だった。自分の部屋はもっとシンプルだし、残念ながらこんな準高級そうな、人をダメにしそうな布団は持っていない。

 部屋はそれなりに広くて、かと言って豪邸並みに広すぎる訳でも無い。そんな窮屈さを感じさせない空間だ。


 もしかして僕、死んじゃったのかな。ここは神様が住む天国だったりして。


 現実を直視しないかのように妄想に浸っていると、ここの住人らしい女性が入ってきた。

 三つ編みで茶髪で、クールな面持ち。顔だけ見れば厳しい人ってイメージの人だ。

 彼女は横になっている僕のもとへ来た。


「ごきげんよう。目覚めはどうだったかしら」

「……良好です」


 言うと、ならよかったと返されたが、こちらとしてはあまり良くない。僕の心にはいくつかの疑問が残っているからだ。


「あのっ」

「ん、何?」

「あなたは一体……」


 彼女はハッとしたように、一瞬だけ表情を変えた。


「あたしは『天ノ峰(アマノミネ) 光里ヒカリ』。幾つか思うことはあるでしょうけれど、とりあえずはあなたと一緒に居た子を含めて、それらは全部説明させてもらうわ」


 ああ、察しが良い人だなあありがたい。真面目に他人の意見にも耳を傾けてくれそうな、委員長タイプとして向いていそうな気がする。


「ねえ、僕が一緒に連れていた女の子はどこ?」

「それも分かりやすいように順を追って説明する。まあ無事だから安心して」


 彼女は優しい笑顔を向けてくる。

 よかった。安否が分かればそれ以上に嬉しいことは無い。


「やっぱり君が助けてくれたんだね」

「そういうこと。で、あなたに一つだけ文句が言いたいのよ」


 文句……? 森の整備されていないルートに、勝手に入っていって迷ったことだろうか。


「あんたねえ。中学生になるんだから漏らすな。負ぶったときじっとりして気持ち悪かった」


 ああ、それはもうしわけないことをしちゃった……。

 自分は気絶する際に、何故漏らしたのかを思い返してみる。


 僕は宵闇と生き物の鳴き声に怯えた挙句、身体が緩んで催してしまったんだ。


 どうにか耐えて耐え忍んで、歯を食いしばって歩いていたその時、突然草むらからコウモリの大群が飛び出していった。

 びっくりしすぎてそのまま……ああ、うう。しかもその後叫んで気絶のトリプルパンチ。


「……いやあ、申し訳ありませんでした」

「あんたのニオイが少しこびりついてるのよ」


「面目ない」


 彼女は表情を変えてはいなかったが、若干怒っているようにも見えるし、僕を

馬鹿にしているようにも見える。

 それとも真面目に言われているのだろうか。


 良く解らないし、自分でもあまりほじくり返したくない思い出なので、この話を更に続けようとは思わなかった。


 って、今気が付いたけど、彼女の苗字。


「……ねえ、「天ノ峰」って苗字だけど、もしかして」

「ええ、そうよ。この町の代表者一族よ」


「え。え!?」

「やっと驚いてくれた」


 数十分も経過していないはずが、僕の中ではとうに数時間を越えている気がした。

 僕もう疲れたよ……。


「あたしについて、少し話しておくよ」


 天ノ峰 光里。年齢は十三歳で、春から中学二年生。

 僕が春から通うことになる、私立天ノ峰中学校の理事をお父さんと二人で務めているらしい。

 つまるところ、彼女のお父さんは理事長さんということになる。


 理事長、つまり創始者。

 正直こわくて偉い人ってイメージしかないかな。


 それだけではない。なんと彼女の両親はこの町の町長を代々務めてきていた。「天ノ峰」という名前の由来は、この家族から来ているらしい。


「ちなみに、天ノ峰の「ノ」も漢字だよ。カタカナじゃないの」


 存在したんだね、そんな漢字。


 そして彼女は、町中のみんなの顔名前性別までを把握しているようだ。流石にプライバシーまでは筒抜けではないらしいけれど、大概は理解しているらしい。恐ろしい。



「で、あの子は何者?」

「僕も初めて会ったんだもん。わからないよ」

「え、何よ。その年でネット恋愛でもしてたの?」

「違うよ……」


 言っても尚、彼女は聞き入れるつもりはないように、続けた。


「それで森の中に運んで愛を営んだのね」

「だから違うってば……」


 意地悪のつもりで言ったのだろうけれど、表情があまり変わらないせいで本気かと思った。彼女が飽きるまでしばらくはこんな調子で弄られ続けたよ、恥ずかしい。


「で、本当はどうなの? どちらにせよ、あんな所に居たわけだし、事情を聞きたいわ」


 ようやく誤解が解ける、といった思いであの時星屑ヶ原へ行ったこと、そこで起きたことの全てを彼女に話した。


 自分ではあったことを話しただけなのに、酷く呆れられてしまった。


「頭でも打ったんじゃないの? 少なくともそんな流星はこの町から見えなかったわよ。それにね」


 彼女が妙に不審な面持ちをするから、僕も思わず身構えてしまった。


「そんな場所、存在しないもの」


 え?


 ……いやいやそんなはずはない。だってこの目でしっかり見たんだから。あの子を助けたんだから。


「でも一つだけ、あなたがそんな幻覚を見た理由を挙げられるわ。予想に過ぎないけれど……森の妖精よ」

「これまたオカルトチックな」

「ファンタジックかメルヘンチックと言いなさいよ」


 曰く、彼女自身も、謎の金髪少女と遭遇したようだ。その時の話を全て聞くと、なるほどよく似ていた。それこそが妖精だったのではと彼女は言う。


 つまり。


「その妖精が見せた幻覚ってこと?」

「ご名答」


 いやいや、信じたくない。

 実際に眼の前であった。風も感じた。衝撃も受けた。彼女の体温も感じたし、星も綺麗だった。


 それが全部幻覚だった、で片付けられるなんて、そんなの、悲しすぎるよ。


「まあ、ここまでは建前で話してきたけど、本音ではあたしも信じてる。まだ見たことがない場所もあるし、もしかしたらあるのかも。そうじゃなきゃ、あの赤髪の女の子が存在する理由が明らかじゃないから」

「……さいですか」


 疲れてきた。

 この人はもしかして、僕を弄んでいるのではなかろうか。反応を楽しんでいるのではなかろうか。


「もしかして、反応楽しんでません?」

「ええ、地味に世間ズレしている所とか、大げさな所とか特にね。気付いてないみたいだけど、大分表情が豊かよ、あなた」


 バレた……どこの誰にもバレていないと思っていたのに……。

 この人はこれから何かしらの脅威になる。そんな気がする。学校生活の先行きが不安だ。


「さあ、行きましょう」

「行くってどこに?」


 彼女は僕に右手を差し出して、僕が見たかった、硬くない笑顔を見せてくれた。


「決まっているでしょう、ルイ。あなたが助けた人の所よ」

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