表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/58

護衛が一番危ないです(上)

えー、遅ればせながら明けましておめでとうございます

新年早々体を壊してぶっ倒れた馬鹿がこちらです

…………お待たせしてしまい誠に申し訳ございませんでした!:(´◦ω◦`):

こんな酷い奴ですが見捨てないでください……


あとR15?入ります




 きっかけはスケジュール帳に書かれた、西暦を見たことだったと思った。

 確か……そうだ、三日前の昼間だ。

 その時は確か、オフィスに私とジュードしかいなかったんだ。





「……うーん」

「何唸ってんだ」


 顔はあげずに「少しいただけないことがあって」とだけ答える。目線はスケジュール帳に向けたままである。


「内容言ってみろって」

「大したことじゃないから、構わず仕事しなよ」

「いいから言ってみろって」

「しつこい」


 本当に大したことじゃないのだ。人様に相談するようなことでは、断じてない。

 ふと思い出しただけだ。自分の干支とやらを。

 そして、気がついただけだ。自分が今年の年女であるということを。

 因みに今はもう四月である。気付くのが我ながら遅いと思う。せめて年明けに気がつくべきだった。


 私があの化け物に襲われた時からもうそんなに経つのだなぁ……——手の中のスケジュール帳をパタリと閉める。あと半年もすれば二十四回目の誕生日がやってくる。そろそろ結婚を考えてもおかしくない歳だ。

 日本にいた友人の中にも結婚している人はいそうだ。何人かには子供もいるかもしれない。

 幼馴染も結婚したりしているのだろうかと想像してみる。ことあるごとにお前が売れ残ったら貰ってやる、と言ってくるような失礼な男だった。あいつはやたらと容姿だけは整っていたから、きっと白の婚礼衣装も颯爽と着こなすに違いない。

 寄っかかった椅子の背もたれが、小さな音を立てながらも、私の体にフィットするように傾く。一つ十数万かかるそうな。驚くべきはこの椅子と同じものを、この会社の社員は全員が使っているということだろう。勿論全て会社持ちとのこと。

 ジュードの言葉を借りるなら、金は惜しむべきところに惜しむ。社員の働きやすい環境作りは惜しむところではない。彼らに最高の仕事をしてもらうための初期投資は、最も重要な事業であり金に糸目はつけない。

 さすがスヴェルドルフというべきか。おそらくこんな状況下にいなければ近づく事も一生なかった会社だ。

 社員をこれ以上なく大事にしているからこそ、優秀な人材が世界中から集まる。皆のモチベーションも非常にいい。おかげで業績は常にトップクラス。現に数年前のリーマンショックでも業績は落ちることがなかった。私はまだ日本にいた頃の話だから伝聞でしかないが。

 あの頃から見ると世界の景気はだいぶ良い方向に来ている。あの恐慌からこれだけ持ち直すぐらいの時間が過ぎたということだ。


 

 長いような、短いような。

 このぐらいの速さで時間は進んでいって、私は日本に帰らないまま年老いて、やがて死ぬ。別に問題は無い。問題は無いのだけれど——


「……しっかし、なんで私の周りは売れ残るのを前提にするんだ……」

「何が?」

「……ううん。なんでも無い」


 ジュードは聞きたそうにしていたが、ぷいとそっぽを向く。

 お前も私のこと貰ってやるとか言ってたもんな、そういえば。

 吸血鬼は恋も愛も何もしないくせに。どうしてゴールは想像するのか。摩訶不思議なことである。


「……まぁいいけどよ、お前外に行かなきゃとか何とか言ってなかったか?」

「あ、そうだ、店の下見行かないと……」

「行くんならちゃんと持ってけよ」

「大丈夫だよ。いつでも持ってるし、それに」


 ピアスも付けてるしと見せると、分かってるよとジュードは苦笑した。

 最近となってはただのアクセサリーと化している硝子のピアス。このまま使わずに終わるのであればいいが、まぁ物事そんなうまくいくわけがない。

 ……と私は思っていたのだが、ジュード達はどうやら違うらしい。


「いや、大丈夫だろ。最近吸血鬼の気配そんなに感じないしな」

「そりゃあ……十人もいたらねぇ、吸血鬼だって恐れなして逃げるでしょうよ」


 美味しいものを食べに来て、死ぬなんて本末転倒と誰もが考えたらしい。残っていた古参も狩られる前に殆どがニューヨークから消えた。


「先週ならまだしも、あいつも戻ってきたからな」

「ああ……例の護衛(・・)さん?」

「強調すんなよ……」


 何やら用事があると言って護衛が姿を消したのが二週間前、一週間前に戻ってきたと主から聞いた。

 護衛のいない一週間は常に主と行動させられた。おかげで色々な国に行けました。そして、とっても疲れました。

 主の多忙具合はスケジュール管理をしているのだから知らないわけじゃない。それが想像を絶していたというだけだ。

 恐らく主が人間であれば一年と経たず体を壊していることだろう。

 吸血鬼は殆ど寝ない。寝ることはできるがあまり必要ないとのこと。

 睡眠を必要としない不思議な生き物である吸血鬼。彼らは一体何を以って休養とするのか、未だに分からないことは多い。


「あいつ見かけに寄らずかなり強いから、そんなに心配することねぇよ」

「見かけも何も、私未だに会ってないんだけど」


 ——間。そして、沈黙。


「……ジュ〜ド〜??」


 落ち着けよとジュードは言うが、それは無理なお願いだ。


「ま、吸血鬼と遭遇したら会えるだろ」

「……あんた達本当に天下のスヴェルドルフの代理人なの?にしては漏れ多くない?私が仕事始めるときだってこんなことあったよね??」

「ガタガタうるせぇぞ。あいつと会ってないってことは食われそうになってないってことだろうが。食われるよりいいだろ」

「こいつとうとう開き直りやがった……!!」

「俺、会議だから。じゃあな——そのまま会わずにいられるといいな」


 捕まえる間もなく華麗に逃げられる。悔しい、悔しい、悔しい!あいつを呪いたくて呪いたくて仕方がない。


「『そのまま会わずにいられるといいな』だって……?」


 机にガンと押し付けたボールペンの先がぐしゃりとひしゃげる。


「日本じゃそれをフラグって言うんだよ……!」


 あんの馬鹿がーーー!!!




 ————とまぁ、こんなのが三日前の顛末でして。


 私の叫び声は一階にいた社員まで聞こえたとか、何とか……。お恥ずかしい限りです。

 え?「結果は?」ですか?

 ……聞いちゃいますか、聞いちゃいますよね。

 そうですよねぇ。気になりますよねぇ。

 ……しょうがないので、内緒ですよ?



 ジュードが立てたフラグは、なんと。




 

「今、回収されたとこだよ!畜生!!——っと、あっぶな!」


 牙をすんでのところで躱した私は、地面に手をついてバランスをとる。

 ほんのちょっとメインストリートを外れただけだったのに、もう遭遇するとは。


 ……まだ一分も経ってないんだけど。


 本当に吸血鬼の数は減ってきているのだろうかと心配する。

 この遭遇率が、メインストリートを外れた時のデフォルトならば、とんでもなく高い数値になりそうだ。

 とりあえず帰ったらジュードをどついて憂さ晴らしすることを決め、私は再び前に集中した。

 そこには、……言ってしまえば、普通の人が立っていた。つい先ほど私の喉を噛みちぎろうとした以外はフツーーの人。茶髪に茶色の目。少しホリが深い以外は日本にいそうな平凡な顔。本当、そこら辺にいる普通の人だ。

 吸血鬼って美形ばかりだと思っていたのだけれど……とかなり失礼なことを考えるが、この人が吸血鬼と言われても俄かに信じがたい。

 最近は慣れてしまって余り威圧感を威圧感とも思っていないのだが、それでも主にときたま恐怖を感じる時がある。大抵話が上手く纏まらなかった時だが、そういう時、ブランは絶対に近寄らない。そして私が撫でられるのだ。……それがどうしてか、あんなことに雪崩れ込むのも度々……って、今考えるような事柄じゃないね!

 赤くなった頬を冷ますべく、再び男を注意深く窺う。

 目の前の男は、本当に、普通の、平々凡々な、男だ。圧迫感を覚えることもなければ、恐怖を感じることもない。

 この男が千年以上生きているとは到底思えない。が、ここに今生きているということは、つまり、そういうことなのだろう。

 油断は禁物というわけだ。


 それにしても……いやはや、私はどれだけ美味しそうな匂いがするのだろう。『私の血がいい香りだから吸血鬼が集まってきている』という話だったが、匂いの良し悪しなんてわからない自分にとっては眉唾な話だ。

 いくら人通りの少ないところとは言え、白昼道道の犯行に衝撃が走った。ほんの数メートル先には人もいるというのに。目立つのを嫌うという吸血鬼らしくない。

 もっと人通りの少ない方にも、人がいないわけではない。飢えてるのであればそちらを狙えばいい。被害者を増やすことを望んでいるわけではない、単純にどちらが楽かという話だ。

 存在を知られるかもしれないという危険を冒してまで、私を食べようとする理由は?

 そうまでして喰いたいと思うほどに、私は美味しそう?

 しかし、そんなに美味そうなら今頃私は生きていないだろう、恐らく。何せ、私は毎日四人の吸血鬼に囲まれているのだから。きっと主だってあっさり食べて今頃骨と皮ってとこだろうか。

 ここに矛盾があることに、私は結構前から気付いていた。襲われることがないまま三ヶ月が経った時、私は一つの仮説を立てた。


 ——実は吸血鬼の集まる理由は私の血の匂いのせいではなく、他に何か原因があるのでは?


 一度思ったらそうとしか思えなくなった。美味しそうだとか言ってるのは彼等流のお世辞のようなもので、本当に吸血鬼を集められるような効果はない。

 そう考えたら今の状態が少しバカらしくなった。自分の血が吸血鬼にとってご馳走だなんて、どっかのお話にもあった。つまり、現実に起こりえないことだと思ったら今の警戒が馬鹿らしくなった。

 その油断が路地裏を通るという愚行をさせた、わけだが。

 

「……本当に私の血を目当てに来たのやら……」


 迫る吸血鬼の姿にビビることなく、まずはヒールの高い靴を、蹴飛ばす勢いで脱いだ。

 こんな状況に居ながらも、全く焦りのない自分に苦笑する。

 ジュードと毎日していた組手のせいで危機感というものが無くなってしまったのかもしれない。ヒヤリとした、という感覚が最近全く感じられないのだ。

 組手をする中で運動能力は飛躍的に向上した。それは確かだ。前には出来なかったような動きを今の私は当たり前に出来るようになった。

 しかし、それ以上に向上したものがある。それはとても曖昧すぎて言い表す言葉がないが、なんというか分かるのだ。

 今、何がどこにあって、何がどういう動きをしようとしているのか。

 目が見えない時期があったことが大きく関係しているように思う。目に頼ることを止めた時、私の耳はよく聞こえるようになった気がする。肌の感覚も敏感になった気がした。

 そして、それらが気のせいでなかったことに気がついたのがジュードと組手をしていた時だ。


 予備動作による衣摺れの音、風の一瞬の動き、それに気付きさえすればジュードの動きの予測はとても容易いことだった。

 問題は反応についていけない自身の身体だった。一年殆ど運動のしなかった私の身体は衰えた筋肉、凝り固まった関節により思う通りに全く動かせなかったのだ。

 だが、その問題はジュードと組手をしていく中でクリアし、今や思いのままだ。コンディションの良さは全日本へ出場した時の自分を遥かに凌駕している。今なら表彰台も夢じゃない。



 牙を剥き出しにした吸血鬼が私目掛けて跳躍する。私は敢えて一歩前に出ると首元目掛けて右脚を振った。

 強い衝撃が来る。まるで鉄の塊でも蹴った気分だ——が、そのまま振り抜いた。ジャストミートってやつです。

 吸血鬼はもんどりうって背中を打ったが、すぐに起き上がった。その顔を見てうわぁと声が出た。

 なんと。

 彼の首が。

 折れて——プランプランしていたのだ。


 わ、私も本気で蹴ったけど……えぇぇ、普通折れる!?


 その見た目はホラー映画でも少々刺激が強い。

 一瞬やりすぎたかと罪悪感に襲われた。今まで本気で他人を害そうとなんて考えたことなかった。そんな人間は、他人を傷付けると酷く狼狽する。良心が痛むのだ。

 だが、吸血鬼が両手で頭の位置を修正した途端ゴキン、と関節にはまる音がして後は元どおりに。頭は何事もなかったのように首の上にあり、口元は不気味な笑みを湛えている。

 その様を目の当たりにしながら思った。良心を返せ、と。


 微妙な気分に陥りながらも頭蓋に打撃を与えるべく再び構える。脳を揺さぶってしまえば吸血鬼でも復活に一、二分は要する。その間に逃げろというのがジュードの言だった。

 本当は違うことを強要されたのだが、それは言うのも憚られるほど悍ましく、想像しただけで吐き気がしたので断固拒否した。

 想像しただけでえづくのだから、そんなこと実行に移せるはずがない。

 そもそも、ジュードの最初の案では頭蓋をかち割るか、目から警棒を突き刺すかしなければならない。他には、喉奥から突き上げるか。……力量不足が否めない。それを実現させるために必要な所まで腕力も、速さも足りないだろう。現実的ではないし……それから、幾ら彼らがそんなことじゃあ死なないとは言え、それをかき混ぜた感触は手に残るはず。誰がやりたいと思うのか。私は嫌だ。当たり前だ。

 結局、代替案として出されたのが『吸血鬼と遭遇した時は、脳に振動を与えて速攻逃げる』だった。散々言い含められたおかげでシミュレーションはばっちりだ。

 

 固い地面を爪先が蹴る。

 同時に男も前に出る。


 男は吸血鬼で、傷がすぐに再生する。だから、男は避けるといった行動を取らない。さっきやった時に分かったことだ。そして、それは私にとって幸いと言える。

 ——狙うは頭の側面。

 上足底が、男のこめかみに突き刺さった。

 その瞬間、私の生存は決まったようなものだった。

 今まで、私の全体重をかけたハイキックをもろに受けて尚、倒れなかった人はいない。正真正銘の必殺技なのである。


 私は足を引くと、男の焦点があってないことを確認してからその場を離れる。

 あの状態では男も追うどころか、マトモに立っていることさえ難しいはずだ。その間にメインストリートに戻れば私の勝ちだ。

 メインストリートはもう鼻の先で、負ける要素は何一つなかった。



 その気配に気付くまでは。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ