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閑話 せっかくの休暇が台無しだよ(上)

一週間以上開けてしまいすみません:(´◦ω◦`):

今回は葉月ちゃん視点はお休みです。新キャラ視点です。

しかも閑話のはずが長くて二話に分けるとか、もう閑話じゃないよねっていう。


あとR15表現あります。

「……今食事中なんだけど」

『悪りぃな』


 不機嫌なのを露わにしながら電話口へ言う。いつもなら苦笑が返ってくるところなのだが、今日はどうやらそういうわけにはいかないらしい。


「それにあと五年は役割無いはずなんだけど」

『こっちも譲れねぇんだわ』

「はぁ……。今度はどこ?」

『日本だ』


 提示されたのは地球の反対側で、絶句した。


「……どうしてまた……」


 そう言いながらもなんとなく理由は分かっていた。

 父さんが連れ帰ったっていうパラヴィーナ。確かその子の出身は日本だったはず。

 十中八九その子の関係だろう。


『日本を安全な場所(・・・・・)にしろとの命令だ』


 やっぱりそうだ。父さんはてっきり食べるためにパラヴィーナを連れ帰ったとばかり思っていたのだけれど、きっとまたお節介が発動したのだろう。


「それってさぁ……全狩りしろってことでしょ?」

『話が早いな』

「え〜〜〜〜やだよ?行くわけないじゃん」

『はぁ!?』


 兄さんの声が五月蝿くて電話口を耳から遠ざける。

 上にいた男も顔を顰めた。

 そういや中断させたままだったね、ごめんごめん。

 目配せしたら待ってましたと言わんばかりに転がされ、背後から貫かれる。思わず声が出た。

 男が腰を振るたびに口から声が漏れ出る。乱暴にされるのは好きばないんだけどな。


『……おい、おっ始めてんじゃねぇよ』

「邪魔し、たの、はっ……どっち!」

『とにかく日本へ行け。マスター直々のご指名だ。おめぇにしか任せられないってよ』

「……そんなふっに言われ、たらっ……行くしか、ないっ……ちょっ、ストップストーップ!」


 寸止めされた男が苦しげに呻く。申し訳なく思ったけれど、優先順位は譲れない。


『後で詳しい連絡はする——邪魔して悪かったな。存分にやってくれ』

「ほんとだよ〜もう」


 電話が切れた瞬間に男は再度動き出す。

 この男、血は美味しいんだけど、相性は悪い。

 今まで寸止めされてて鬱憤が溜まってたんだろうね。めちゃくちゃ乱暴にされた。

 いくら治るって言っても、そこまでされると血が大量に必要になるんだけど……しょうがないなぁ。これが最後になるから許してあげよう。

 ただしお代はしっかり頂きますよ、お客様?





 後ほど確認すると兄さんからメールが来ていた。

 与えられた任務は全部で二つ。

 一つが「日本国内における吸血鬼の根絶」。そしてもう一つが「日本完全縄張り化」だった。

 つまり、吸血鬼達をぶちのめすか抹消するかなんなりしながら、「ここを誰のシマだと思ってんだコラ」すればいいのである。


 正直何年かかるかも分からないぐらい面倒な任務だ。父さんから頼まれたとは言え安請け合いしなければよかった。

 因みにこの仕事に対する報酬は日本(・・)。そんなに好みな国でもなかったけど、範囲の広さに負けた。しかも、事実上のここのシマのトップは父さんでいいとのこと。つまり父さんのネームバリューを笠に着てやりたい放題していいということだ。ちょっと魅力的だと思ってしまった自分が恨めしい。


「——て言ってもなぁ……大した旨みはやっぱり無いんだよねぇ」


 ビルの上で緩慢に呟く。ここからの眺めはなかなかにいい。が、いかんせん風が強い。髪の毛はとっくのとうにグシャグシャだ。

 

「しかも……なんでこんないっぱいいるかなぁ……」


 想像以上の数にやりたくない思いがむくむく沸き起こる。大体こんなに密集しててどうするんだろう。縄張り争いはそんなに生易しいもんじゃないというのに。


 吸血鬼ってのは血を吸う生き物だ。それは食事と同義であり獲物に罪悪感は感じないようにプログラミングされている。つまり人を死なせることに罪悪感は生まれない。

 だから彼らが密集すると不可解な殺人事件が横行する。そんなことが続けば人間側も不信感を抱かざるを得ない。当然警戒される。この結末は迷惑以外の何物でもない。

 だからこそ縄張り争いってのがある。ある程度の範囲を自分だけの狩場とし、他の者に食事をさせないようにすることで注目を浴びないようにするのだ。

 因みに人気なのは人が多く混沌としている街。殺人事件、人身売買が横行していて行方不明者が出てもほっとかれるような所がベストだ。

 だから日本は長年不人気で長く吸血鬼のいない場所だった。偶に訪れたとしてもすぐに離れる。ここの息苦しさは他に類を見ない。狭い国だからか噂は直ぐに広がるし。田舎町でも不可解な事件はすぐに報道されてしまう現代では尚更だ。


 なのに——この狭い範囲で少なくとも数匹の気配があるのはどういうこと。


 この任務を聞いた時は正直日本縦断で終わりかなと思っていた。冗談抜きで。

 本当にそれだけ吸血鬼がいない国で有名だったのだ。にも関わらずこんなにも吸血鬼がいる理由は一体何なのだろう。



——少しだけ興味が湧いてきた。



 謎は嫌いじゃない。この国に何があったのか、それを解き明かすことは面白そうだ。暇つぶしにもなる。

 でもやっぱり……面倒は面倒だ。

 眼下に広がる街を見る。そこには沢山の人間の群れ。アルコールの匂いが凄い。


 吸血鬼は太陽が嫌いだ。

 陽の光に当たれるが、好きではない。できる限り陽の光を浴びたくない。それはきっと吸血鬼全員が思うことだ。

 何というか……陽の光を浴びるとヒリヒリ痛むのだ。すぐに再生するから外見は何ともないが、皮膚の下は大パニックだ。兄さん達は凄い。あんなに灼かれている感覚があっても顔色全く変えないんだから。


 ルシアン曰く吸血鬼の体にメラミンはない。体内に注入された毒に分解されてしまうそうだ。更に、その毒は細胞を変化させる時にメラニンを作る器官を消してしまう。

 代わりにその毒が色素の役割を果たすのだが、……本物に代替品が敵うはずもなく、吸血鬼の肌は紫外線に灼かれ続ける。

 とは言え灼かれている間は常に再生しているし、吸血鬼は細胞が再生し続けるので癌の心配もなく実害はその時の僅かな痛みぐらいしかないので、父さん達は気にせず出歩く。


 だが、自分は出歩きたくない方だ。というか大抵の吸血鬼がそう。あの痛みを知れば陽の光を浴びたら灰になるって噂が立つのも理解できる。ほんと燃やされるかと思うもん。

 慣れると兄さん達は言うけど代理人の仕事は断っている。暇つぶしにはなるが、日中外出しなければならないのは御免だ。


 そういう理由もあって夜に出てきたのだけれど少々誤算があった。

 

「めんどいなぁ……もうっ」


 真夜中に近い時間にも関わらず照明は煌々としていて、酔いどれ客がうじゃうじゃしている。まずは首都圏から片していこうと思っていたが失敗だったかもしれない。

 明るくて人がいっぱいいるとなるとライフル(相棒)が使えない。

 頭を撃ち抜いた後始末も大変なのに、誰にも知られずに処理するなんて、……やろうと思えばできるけれどやっぱり面倒くさい。


「聞いときゃよかったなぁ。兄さんは一度やってんだもんなぁ」


 どこで片付けたかぐらいは聞いておけばよかった。片付けるのにはそれなりに時間はかかるし、痕跡一つ残さないとなると難易度はかなり高い。


「——まっ、それでも子供の遊びのようなものだけど」


 ビルから音もなく飛び降りた。とりあえず一匹と、路地にいた吸血鬼の背後から蹴りかかり頭を失った体を抱える。ボールのように飛んだ頭も髪の毛を掴んで引き寄せ、取り敢えず目玉を潰す。奥深くまで指をつき刺して**を****して声ひとつ出せないようにするのは鉄則だ。これを怠って酷い目にあった数は……うーん、もう思い出せないや。


「はーい、体の方も大人しくしててね〜」


 鎖骨の下に指先をまっすぐ落とす。骨を砕いたその先にある心臓をギュッと握りつぶす。この絶妙な抵抗が癖になると言えばそうなのだけど。


「やっぱヘッドショットが一番楽だよねぇ」


 **と赤い液体で汚れた指先をついつい舐めてしまってうえぇと顔を歪める。


「まっずぅ……」


 苦くて苦くてとてもじゃないけど飲む気にはなれない。舐めるのはやっぱり人間の血に限る。

 汚れた指先を吸血鬼の服で拭きながら暗い空を見上げる。

 ビルの合間から建設中の塔が見えた。世界一の高さにするらしい。

 人間は不思議だ。高いものを象徴としたがるその感覚が理解できない。


「昔、人間だったはずなのにな……」


 吸血鬼になってからもう千年以上も経つ。既に人間としての感覚は残っていない。

 そのことが偶にとても勿体ないような気もするのだが、そんなこと言って戻ってくるものでもない。多分感傷に浸りたいだけなんだ。



 それからその吸血鬼の体を素早く細かく分けてゴミ処理場に運び込む。

 忍び込むなんてもうお手の物。カメラに映るようなヘマなんて絶対にしない。

 危なげなく運んで炎の中に放り込む。それに火が灯ると一瞬だ。爆発的に炎が広がってあっという間に消し炭になる。炭になってもそれは更に燃え、灰になったのを確認してから施設を出た。

 これを幾度となく繰り返す面倒くささに頭をかかえる。数ヶ月前の自分を呪ってしまいたかった。




 焼却場から出た後は当てもなくブラブラ歩いた。気分がノらない状態ではあまり成果が出ないので無理しないことにしている。

 暗い方を目指して向かっていた足は、フラフラしているうちに工場地帯に来ていた。

 工場が軒を連ねたここは、さっきまでの場所とは違い人気がまるでない。

 今夜の寝床はここにしようと決める。別段腹も空いていない状態ならば、誰かの家に転がり込む必要はない。そして今の自分の腹はどちらかと言えば満たされた方だった。

 そこらの草の上で寝てもいいのだが、太陽に灼かれて起きるのはどうしても避けたい。

 人間は苦痛どころか清々しさを感じる〜とか言うけど、それ以上に最悪な目覚めなんて知らないよ。


 いいや、もう寝よう。

 丁度良く積み重なった板を見つけたのでその上に体を横たえた。そこで雑念を振り払って目を閉じようとした、まさにその時。


 何とも不思議な光景を目にした。


 女の子。

 そう、まさしく女の子——が自分の遥か頭上を軽々と飛んでいったのだ。


 考えるよりも早く体が動く。気づけばその子の後を追っていた。

 女の子は工場の屋根をひょいひょいと飛ぶように駆けていく。

 長い黒髪が少女の動きに合わせて踊るようにくねっていた。


 その姿が急に消えた。少女が消えた地点に来てああと納得する。そこで工場は終わっていて、今度はその先に住宅街が広がっていた。

 路地の角をまがる少女の姿が見えて再び走り出す。追いかけて何をしようとかは特にない。単に気になったというだけで追いかけていた。

 何度か曲がった先で少女はこちらに背を向けて立っていた。その向こうには電車の架線が敷いてあって、線路の向こう側へ行くためにトンネルが掘られている。

 足を止めると同時に少女が振り向く。その瞬間違和感の正体に気が付いた。


「こんばんは」


 少女がにっこり笑うのでつられて挨拶を返す。

 少女が話したのが流暢な英語だったのも驚きだったが、初めて会った、しかも明らかに不審者な自分に笑顔を向ける彼女の心中が少しばかり気になった。


「この先で何が起きたか、あなたは知ってますか?」


 問に答えずにいると少女が教えてくれた。曰くここで不可解な事件が起きたらしい。

 遺体なき殺人事件とでも言うべきか。第一発見者が見たのは中身が散乱したカバン、歪んだ自転車、大量の髪の毛、そして血だった。

 何かが起きたのは明白だが、そこにあるべきものがなかったために捜査は混乱を極めた。それが遺体だ。

 警察は行方不明となっていた小野葉月が被害者であると推測した。

 後日DNA鑑定からも髪の毛の主は小野葉月であることが分かり、そこでようやく被害者が確定したそうだ。

 しかし、手がかりが全く無く捜査はすぐにどん詰まりとなる。

 遺体は無くとも出血の量から生きていることはありえないと断じられ、結局被害者の捜索は事件発生から三ヶ月を以って打ち切りになったらしい。


 そしてその事件の現場がここというわけだ。


「当時この道路は真っ赤に濡れていたそうです。もう足が滑るくらいに」


 へぇと素直に感心する。

 そんな状態でよくあの子は生き延びたものだ。普通は失血死するところなんだけど。


「……でも普通はそんな死に方したら何かしら残るんですけどね……死体が無いなら尚更」


 少女は真面目な顔でよく分からないことを言っていた。が正直そんなことはどうでもよかった。


 違和感の正体、それは彼女から漂うはずの香りがない。

 少女からは匂いというものが一切嗅ぎ取れなかった。


 普通どんな生き物でも必ず匂いはある。

 吸血鬼はその嗅覚で獲物を探すため、より鋭敏な感覚と言える。その鼻を以ってしても少女の匂いが分からない。


 ……そんなことってありえる?


 自分の体に問いかけてみても答えは出なかった。


 ——強いて言うなら壁だ。

 少女を囲うように透明ば硝子の壁がある。

 入り口はないから勿論漏れ出ることはない——それぐらい少女から発せられる匂いは何も無かった。

 女の子を見ていると不意に視線が絡まった。大事にしまっておいた宝物を暴かれたような、そんな感情が内に広がった。


「私はもう帰りますけど、あなたは?」


 少女の言葉に我に帰った。


「……帰る」

「そうですか、夜道は暗いのでお気をつけて」


 彼女は笑って小首を傾げる。どうしてかその姿から目が離れなかった。なんでだか世界から自分と彼女だけが切り離されたような気分だった。

 地に足つけてないようなよく分からない状態に混乱していると、少女が苦笑した。


「……あなたとはきっとまた会うことになりそうですね」

「……どうして?」

「勘です」


 自信に満ちた声。

 根拠は一体どこにあるのやら。でもなんとなくそんな気もするのはどうしてだろうね。


「……また会えるといいね」


 言いながら歩き出す。もう空も白けてきた。

 早く何処か屋根の下に入らなきゃ。そんなことを考えていた自分の背中に声がかかる。




「——さようなら、吸血鬼さん」




 風船が割れたような音がした。


 耳を押さえて振り返る。声は耳に囁かれたようにはっきりと聞こえた。

 振り向いた先に誰もいなかった。

 さっきまで確かに少女と話してたはず。

 しかし、そこに少女の残り香はなく、少女が本当にそこにいたかどうかすら証明ができないことに気がついた。

 まるで夢から目が覚めたような気分だ。その場に呆然と立ち尽くしていると、やがて夜が明けて朝日がコンクリートを真っ赤に染め上げていく。


 血みたいだ。


 ポツリと呟かれたその言葉に返答はない。

 不意に背筋がぞくりと泡だった。両手で覆った口元は歪んだ弧を描いていた。



 ————ああ……ああ、堪らない。

 なんて不思議で、なんて面白そう。



 面倒は嫌いだけど、退屈はもっと嫌い。

 ……その点この国は退屈しなさそう。



「……楽しみだな、ふふっ」



 太陽に肌を灼かれていてもこの時だけは気にならなかった。


今回初出の言葉があると思いますが、そのうち解説入れますので。

本編では入れないかもしれませんが、必ず書きますので。


気になった方は調べてもいいかも?

でも余計に混乱するかも知れませんね……全ては語学力の低い風花のせいです。すいやせん(´・ω・`)


あと、*は何となくで自主規制です。隠す必要ないようなら普通に書きます。


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