第1歩
♪〜♪〜♪
中学の頃の友達とカラオケへ行っているうちに聞き慣れた
若い女性に人気の男性グループの代表曲が流れてくる。
ああ、あのアニメのOPが歌いたい。
が、オタクを毛嫌いしているクラスメイトもいるであろう中で
そんなこと言えるはずもなく歌い始める。
歌は下手ではないと思う。演技力もそこそこある。声だって
綺麗かどうかはわからないが印象はいいと思う。
映像や画像に声を感情を吹き込むだけの『声優』それならできる。でも…
そんな事を思っていると曲が終わった様で
「いいねぇー!」
「すごいよ夕っ‼︎声キレーだし‼︎歌上手いわー‼︎」
褒められるのは嬉しいけど、この歌は低くて歌いにくいから
上手いとは言えないと思う…
「えっと、ありがとう…でも普通だよ…」少し吃りながら思ったことを口にする。
「夕は謙虚で可愛いなぁー‼︎このっ!」
頭を少し乱暴に撫でられる。髪型崩れちゃう…
「美帆ちゃん…髪型崩れちゃうよぅ…‼︎」
親友の穂村 美帆ちゃんは明るくて、可愛くてちょっと姉御肌で
私とは真逆で中学でもクラスの人気者だった。
高校でもすぐにみんなと仲良くなってて凄い!
美帆ちゃんには恥ずかしくて言えないけど憧れだ。
あと、中学からの友達で私の夢を知ってる 大切な友達。
「次だれ〜?」 「あ!私だー‼︎」
次の曲が流れ始めると 一層盛り上がる。今日は、高校入学直後の親睦会として
クラスのみんなでカラオケに来ている。
みんなもワイワイしていて楽しい雰囲気だけど
慣れない大人数と話した所為か少し気分が悪くなった。
「美帆ちゃん、ちょっとお手洗い行ってくるね」
凄い盛り上がりの中席を立っても気付かれないだろうけれど
一応美帆ちゃんに伝えて席を立った。
お手洗いの目印を見つけ、ドアノブに手をかけた
すると女子トイレの中から声が聞こえた。
「なんだっけーあの、地味子の名前w」
「あー、なんだっけwあっ!夕だよゆうw」
息が詰まった。
「アハハっ!以外とフツーの名前!」
「それなー‼︎貞子とかかと思った‼︎」
分かってる。前髪が長くて、気持ち悪いことも。
でも…自分の顔を見るたび、思い出すんだ。
本当の母親を……
母親に似た、醜くて、無様で、汚い私を隠したくてしょうがない。
自分に自信なんて、持てるはずのない醜い私を見ると気分が悪くなるから。
誰か、隠してくれればいいのにな。その日は、走って家に帰った。