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 ――ああ、また一から始まるのね。



 もう何度目か分からないけれど、見慣れた馬車の中の光景に無意識に目を細める。


 ちらりと私をこの馬車に乗せた人物を見やり、小さくため息を漏らした。



「お前を見たら、セレスはどんな反応をするかな……喜んでくれると良いんだが」



 私の頭をゆっくりと撫でながら、そんなことを呟くのはディズ様だ。その表情はどこかそわそわしていて、幼いこともあって可愛らしさもある。


 この馬車の行き先はセレスさんの居る屋敷だと、私は既に知っている……何度目かはもう分からないけれど、この光景は幾度も繰り返されているからだ。



 私の名はミリアン――けれどあの時セレスさんと対峙したミリアンではなく、本当のミリアンといった方が正しいだろうか。



 幼い頃私は高熱を出して、その時私の魂は別の魂に乗っ取られてしまった。急に身体の感覚が無くなってしまったことに、あの時は本当に驚いたわ。


 戻ろうと頑張ったけど、私の体に入り込んでしまった魂の方が力が強かったらしく、結局戻れなくて私は自分の周りをずっとさまよっていた。


 身体が成長し学園に入学すると共に、私の中に入った魂――彼女の行動に驚きを隠せない。


 見目良い有力貴族の方々と接触し、それぞれの心の弱い部分をまるで知り尽くしているかのように、その方々の心を虜にしていく。


 その様は言うなれば神に近い所業で、皆に見えないところでは下卑た笑みを浮かべ「逆ハーエンドも簡単に行けそうね」などと、よく分からない単語を言い私は首をひねったが、要は彼女は有力貴族の方々を侍らせたいらしい。


 もし私がそのまま成長していたならそんなこと畏れおおくてできる訳がないし、数多の男性を侍らせるなどはしたない行為だ。



 そんな日々が一年以上続いたある日――彼女が裏庭で呟いた言葉を聞き、怒りを露わに可愛らしい女性が現れた。


 その子はセレスさんというらしく、どうやらディズ様の婚約者であるらしい。


 ただ私はディズ様に婚約者がいるという話は初耳で、それは彼女も同じだったらしく馬鹿にしたような表情でセレスさんを詰る。


 嘘つき呼ばわりし小馬鹿にしたところでセレスさんの逆鱗に触れたらしく、彼女は突き飛ばされ地面に尻餅をつく。


 そこへ偶然にもディズ様が現れ、セレスさんを責め立てる。セレスさんは顔色を青くし、ガタガタと身を震わせていた。



 何事かを更に言おうとしたディズ様の手に――ウサギが飛びかかり、その手に食らいつくように噛みつく。



 だがそれをディズ様は振り払い、落ちて嫌な音を立てたウサギを、汚いモノを見るような目で見下ろす。 



 それを抱き上げセレスさんは涙をポロポロと落とし、嫌みを言ってから立ち去ろうとする彼女達に恨みの籠もった眼差しを向け、何かの魔法を発動してしまう。



 その眩い光に包まれ――気が付けば私は、その魔法のせいでかこのウサギとなっていた。


 セレスさんが放ってしまったあの魔法はきっと、始めからやり直しをする魔法だったんだと思う。


 ただ魔力が暴走しながらの発動だった為か私とウサギの魂が合併してしまい、私だけ前回の記憶を持ったまま今こうして再びこの時間を過ごしている。



 けれど私はあくまでウサギの魂にくっついているだけで、このウサギを動かせる訳じゃない。



 だからこの時間の流れを止めたくてもどうすることもできず、同じ時間の中をずっとさ迷い続けている。


 そうこう思考を巡らせている内に馬車が屋敷前に停まり、私はディズ様に抱き上げられ幾度目かのセレスさんとの出会いを果たす。




 実はウサギはこの時――セレスさんに恋をしていた。




 元々このウサギは大人しい性格だったので、出会うまでは一応ただの野生のウサギの状態。


 だけど鼓動が通常よりも早く脈打ち、ウサギの魂が淡い桃色の光を放っていた為私が勝手に推測した。


 セレスさんが学園に行ってしまってから数ヶ月後、セレスさん会いたい一心でメイドさん達の目を盗み屋敷から脱走してしまう。野生の勘とでもいうのか学園のあるところへと駆けていき、そしてあの現場を見てしまった。


 傷付いた表情を浮かべるセレスさんを見て、自分を連れて来てくれたディズ様にウサギは憎しみの感情を抱き食らいつくように噛みついたのだ。 



 そして、ウサギは殺されてしまうのだけど――セレスさんの魔法により、幾度も時間を繰り返している。もう数える事が疲れるくらい、何回もだ。




 そしてまた今日が始まり――あの日に終わる。




 これはもしかしたら、不可抗力とはいえ私が自分自身を離れてしまった罰なのかもしれない。


 離れてしまったあの時意地でも身体に戻ろうとしていれば、こんな悲劇は起こらなかったと思う。 



「セレス、今日は君にプレゼントを持ってきたんだ」




 ――私はあと、何回廻れば許されるのでしょうか?




これにて、廻るウサギは完結となります。


書き始めた当初、本当はウサギ(中身)はセレスかディズにしようかと思っていたのですが、話を書いていくとどこか辻褄が合わなかったり色々ありまして…急遽、元ミリアンにする事にしました。


ただこうなってくると、転生とは違うと思われるので転生タグは削除させていただきました。

ややこしくしてしまいすみません(汗)



読んでくださった皆様、拙い話ではありましたが最後まで読んでいただき有り難うございます!

また機会があれば、別の話でハッピーエンドモノでも書けたらなと思ってますf^^;

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