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17話 神子と悪魔1



 青い海。

 白い砂浜。

 寄せる白波。

 遠く澄み渡った青い空。

 トロアの背から降りると、聖良は胸を躍らせて駆け出した。

「あはは、どこのリゾート地ですかって感じです」

 浮かれて波際まで走り、波が引けば追って、寄せては逃げた。

 赤い靴に波がかからないよう気を付けながら、白く粟立つ波と戯れる。

「確かにいい場所だ。夏に来たら最高ですね」

 憧れの白い砂浜というのが最高だ。潜ればおそらく色とりどりの魚たち。ひょこひょこと歩く蟹は、素揚げしたら美味しそう。

「あっちの岩場は貝とかたくさんありそう!」

「こらこら、浮かれるんじゃありません」

 アディスに後ろ首を掴まれ、彼女は我に返った。

 海産物が待っていると感情が高揚していた。

「今はまだ海は寒い。夏になったらまた来ましょう」

 彼女を見下げて、頬に掛かった黒い髪を耳にかけ、アーネスに扮したアディスは笑う。

「うう……ウニ」

「ウニ?」

「トゲトゲしている黒いの、ないですか?」

「ああ、グリーディアにたくさんありますよ」

「何で言ってくれないんですかっ」

 よく考えれば、ここより寒いグリーディアの方が、聖良好みの海産物が多いのは当然だった。

「海に浮かれるか、食い気に走るか、どちらかにしなさい」

「す、すみません。私、黒い砂浜しかこの目で見たことなかったから……。これだけ綺麗な海だと、食欲がわくし」

「モリィが見たいなら、どんなところにでも連れてきますし、食べさせて上げますから、遠慮無く言いなさい」

 呆れて笑うアーネスは、言葉遣いは似たようなものだが、笑い方の一つとってもアディスの時とは完全に別人だ。

 アディスの時のベタベタはひたすらしつこく甘えてくるが感じだが、アーネスの場合は少しだけ軽い。組織のボスが小さな子に甘えて擦り寄ってきたら皆が引くので、我慢をしているのだ。

「アディス、俺もセーラと遊びたい」

「ああ、トロアさん、送って下さってありがとうございました。迎えの方が警戒して出来てくれないかもしれないので、すぐに帰っていただけると嬉しいんですが」

「…………」

 トロアが絶句して聖良を見た。

「普通の生き物は竜が怖いから、ごめんなさい。お土産買ってきますね。あ、食事はいくらか作ってあるので、好きに食べてください」

 聖良はトロアに手を振った。

「ハーティはいいのに?」

「もう、子供の旅行についてきたいなんて我が儘言わないでください。ちゃんと私がみてますから」

 聖良は聞き分けのないトロアを見上げ、腰に手を当てて言う。

「この前旅行から帰ってきたばかりなのに……」

「アディスのお友達を作りに行くんです。相手の子が怯えるから、大人は来ないでください」

「セーラは教育熱心なんだな。ラゼスのお袋さんが、そんなタイプだったよ。

 わかった。帰る。ミラ、セーラの事は頼んだぞ」

 そう言って、トロアは宙に舞い上がり、一同はほっと胸をなで下ろした。

 ミラに頼む彼の見る目のなさが聖良には信じられなかった。

「よし、これで自由に何でも出来る」

 今までは愛想良くしていたアディスが、アーネスらしく微笑んだ。実に黒い微笑みである。

「出来る……はいいけどさ」

 今までやりとりを傍観していたユイが呟いた。

「僕はアディスの将来が色々と不安だよ」

「ユイ、アーネスだ」

「うん、アーネス」

 彼はため息をつく。

「魔術結社のボスのアーネスなんだよね」

「楽しいんですよ。秘密結社ごっこ。組織を運営、維持していくのって大変で、盤上の駒を動かすよりも面白いです」

 説得力を持たせるために、アーネスらしからぬ子供っぽい笑みを浮かべて言い訳をするアディス。

「なんというか、人間のアディスはどういう人だったの?」

「私はアディスの人格に大きな影響を受けていますから、いつもの私みたいなのが素だと思います。

 将来的にはアーネスの方だけは取っておくつもりだから、皆には秘密ですよ。モリィが竜って事になっているから、アーネスはずっと維持できるんです。組織を持っていると色々と役に立つんですよ。世界一の魔術結社です。便利でしょう」

「まあ……わかってるよ」

 ユイの言いたい事はもっともだ。

 アディスは笑みを浮かべながら聖良を抱き上げる。

「モリィも、ちゃんと役になりきるんです」

「わかってます」

 いつもよりも軽く小さな身体で、子供らしくアディスに抱きつく。

 よそ行きのため、いつも以上に凝ったのワンピースは、もちろんアディスの趣味だった。お人形のように可愛らしくて、アーネスが相手でなければ微笑ましい光景のはずだ。

「あ、ハーティ」

 ここまでトロアと一緒に聖良達を背に乗せてくれた彼女が、物陰で着替えて戻ってきた。

「お帰りなさい」

「はい。ちょっと人の足だと遠くて。靴も砂浜を歩くにはちょっと」

 彼女の靴には低めのヒールがついている。慣れない物をはいて、歩きにくそうに足をもつれさせていた。

「でも可愛らしいじゃないか」

 アディスが選んだ新品の服は、ハーティによく似合っている。魔術師らしくも見える、紺色のワンピースだ。同じ生地の帽子も被っていてとても可愛い。

「アーネス様が選んでくださった物だから」

 相変わらずハーティは恋する乙女で可愛らしい。アーネスの姿だといつも以上に可愛いくなる。

「アディ……アーネス。僕は本当に君の事が心配だよ」

「ユイは気にしすぎです。せっかく面白い環境にいるのだから、楽しまないと。悲観するばかりでは、先の長い人生は悲惨です」

「いや、君のたらしっぷりがたまに不安になるんだ」

 アディスは首をかしげた。

「たらし? 私が?」

「…………」

 ユイはため息をついて肩をすくめた。

「アーネス、下ろしてください。食事の準備をします。朝食兼昼食です。小さな船で食べると酔いますからね」

「そうですね」

 砂浜に下ろされると、聖良は荷物から敷物を取り出して広げた。

「色々と旅行の用意していたから手抜きですけど」

 買ってきたチーズと自家製のハムのサンドイッチ。

「最近思うんですけど、鶏飼いましょうよ」

「鶏を?」

「卵が年中手に入るし、肉も美味しいです。大好きです」

 マヨネーズとあえて、卵サンドも作りたかったのだが、野生の鳥はこんな時期に産卵しない。

「それはいいと思うよ。うちでもたくさん飼ってたから、アドバイスは出来るし」

 サンドイッチを口に含もうとしていたユイが嬉しそうに賛成する。

「でも、春になったら帰るんですよね?」

「一度帰ったらまた来ればいいよ。僕の場合、神子として魔物退治するにはミラが怖すぎるし、神殿の切り札として大人しくしていればいいって思われているか……」

 ユイがサンドイッチを口の前で構えたまま固まった。

「ん?」

 皆がつられて振り返り、ぎょっとして固まる。

 何か不気味な生物が海から迫っていた。

「な、ななな、何!?」

 それをまだ一度も見た事の無かったハーティは慌てて立ち上がった。

「ええと、海草お化け?」

 浜辺に上がったそれを指さして聖良は言う。

「モリィ大丈夫ですよ。アレは普通の生き物です」

 聖良は怯えた振りをしてアディスの背に隠れ、頭に海草を載せた鱗族を見る。不気味すぎて一瞬固まってしまったが、誰が来るかわかっていれば驚くような事はない。

 しかし知らない相手という事になっているので、他人であると思ってもらえる事を口にした。

 ユイがそろそろと近づき、首をかしげた。

「えと……アスベレーグさん?」

「ああ」

 ユイが不気味な海草を取り除くと、彼は聞き覚えのある声で続けた。

「お前達が無事で良かった。さっき竜が降りてきたから様子を見に来たんだ」

「彼は私の知り合いですよ」

 アディスが聖良を後ろ手に庇うようにして立ち上がる。

「あなたが、アーネス殿か」

 アディスは不思議そうにアスベレーグを見た後、ふっと笑った。

「はい。今日は組織の事は関係なく、一個人としてここに来ました。船はどちらに?」

「ここから少し離れているのでお待ち下さい」

 アスベレーグは再び海に戻っていく。

 ワニが海を泳ぐ姿はどうにも奇妙で場違いだった。

 聖良はアディスから離れて、広げていたお弁当と敷物を回収する。仕方がないので、船で食べる事にした。

「相変わらず不気味ねぇ」

 ワニは嫌いなのか、女装の半悪魔、フレアが言う。

「お前もいなかった事になっているのだから、下手な事は言わないように。別にバレてもこちらは構わないのだからな」

「もう、アーネスになると冷たいんだから。兄さんが気付かなかったのに、気付かれるはずがないでしょ。念のために香水も付けてるし、髪もいつもより赤いのよ。お化粧も変えたの。綺麗でしょ?」

「はいはい、綺麗ですよ。ケバいですが」

 不思議な事に、フレアの時よりもエリオットとして異国の服に身を包んでいた時の方が可愛くて女の子のように見えた。

 今も女性のように見えるが、相変わらず派手でオカマっぽい。もう少しアディスの好みも取り入れたら、どう見ても女性になるはずだが、彼はオカマのような格好を気に入っているようだった。

「あら、来たわよ」

 船が来た。クルーザーだ。

「こういう船は初めてです」

「それはよかったですね」

「よくありません。船酔いします」

「薬を飲んだでしょう。大丈夫。あれは強力です」

 薬が効いて船酔いをしないと思い込むしかない。ミント系のアメも持ってきた。聖良は自分に言い聞かせ、アディスにしがみついた。

「すまないが、靴を脱いでここまで来てくれ。浅瀬だから服を脱ぐほどではない」

 アスベレーグは簡易な上着を羽織って船を操作し、かなり近くまで来て止まった。

「フレア」

「はいはい」

 フレアはアディスとハーティに触れて、次の瞬間に四人は船の上部にいた。船に立っているのではなく、空中に浮いているのだ。

「うわっ」

 海が見えて身がすくんだが、聖良が覚悟したよりもずっとゆったりと甲板に降りた。神子達はハノに引っ張られて、濡れることなく甲板に降り立つ。

「なかなかいい船だけど、この人数じゃ狭いわね」

 アスベレーグは呆けたようにフレアを見た。顔が引きつっている。

「は、半悪魔がもう一人?」

「悪いですが、この子達も連れていきます。ハノよりは悪魔と係わっている、グリーディアで最も悪魔に詳しい男です」

「男……」

 複雑な心境は理解できるので、誰もそれ以上は何も言わなかった。

 フレアだけは、少し不機嫌そうに、「やぁね」とだけ言った。

「ここは狭いのでキャビンでくつろいでください手前の部屋はリビングになっています。置いてある物は好きに飲み食いしてください」

「わぁ、部屋があるんですね」

 聖良は遠慮無く、子供の好奇心を発揮して船室に入った。

 ソファとテーブルが置いてあり、聖良の想像とあまり差はなかったが、クルーザーといっても、豪華な内装ではなく、こじんまりとしている。聖良がアディスの膝に座れば、なんとか全員が座れそうだった。

「おや、いい酒が並んでいますね」

「アーネスが来るからでしょ。頂いちゃおうかしら」

「浅ましいまねはやめなさい」

「自分が飲めないからって妬まないで。あらおつまみもあるわ」

 聖良は飲む気のフレアを横目に、食べかけの弁当をもう一度広げた。

「酒飲みに主食は不要ですね」

「いや、私も食べるぅ」

 酒を棚に戻し、フレアはサンドイッチを手に取った。彼は人一倍寂しがり屋なので、こうして仲間はずれにしようとするとこうなる。

「私、アスベレーグさんにお裾分けしてきますね」

「それなら私が。あまり話をしてはバレてしまうかもしれません」

 知らない人に食事を持っていくのもおかしいか。

 ハノが立ち上がり、サンドイッチをいくつか見繕って布巾に包んだ。アディスが腰を浮かせた聖良の頭を撫で、膝の上に乗せた。

「私達も食べましょう」

「私はいいです」

「なぜ」

「胃に物を入れるのが怖いから。アーネスは食べてください」

「そうですか。ではお先に」

 アディス達は食事を再開する。

 揺れる船は、もう動き出しているはずだ。大きな船に移るのはどれぐらいかかるかと不安に思った。

 ため息をついた時、船室のドアが開いてハノが戻ってきた。

「三時間ほどでほどで港に到着するそうです。この船、グリーディアのモーター付きで速いそうですよ」

 純粋な帆船でないと知り、聖良は少しショックを受けた。

 生まれて初めての帆船で優雅?な旅を期待していたのに、モーターなどついているとはがっかりだ。

「それは高い買い物を。しかも操縦者が高い魔力持ちでなければ機能を使いこなせないじゃないですか」

「そうなんですか?」

「魔力を動力に変える魔道具なんですよ。自然に吸収できる魔力だけだと、手こぎよりははるかに早いですが、補助の魔力を使った時と比べれば半分ほどの速度です。一人で動かせるものなら、その装置だけでもこれよりずっと大きな船が買えるぐらい高価ですよ。しかも他国で完璧に使いこなせるのは、使い魔がいる神殿連中ぐらいです。彼はそれなりに魔力があるので、使えている方だと思いますが」

「へぇ」

 ハイテクなのかローテクなのか、聖良には判断がつかず、アディスの腕の中で丸くなった。

 辛い船酔いをする前に、アディスに何が何でも眠らせてもらう事にした。






 聖良が目を覚ますと、アディスの硬い膝の上ではなく、清潔なシーツが敷かれた硬いベッドの上にいた。

 横になったまま部屋を見回す。

 部屋が広いのでクルーザーではない。何よりも揺れが少ないが、わずかに揺れている。

「大きな船……?」

「おや、モリィ、おはよう」

 ラフな格好で聖良の隣で横たわる『アーネス』が身を起こした。あまりにも当たり前の光景で、気にもしてないかった。

「ここは?」

「エキトラの客船です」

「……そんなに寝てたん……ん?」

 聖良は言葉を切った。

 足下に何かがいる。

「ミラさん……なわけないか」

 足下にいるなんて、彼女は絶対にない。ではフレアかと思い身を起こすと、知らない子供達が寝ていた。

「え?」

「おはよう」

「おはようございます」

 どことなく雰囲気が似ている男女の子供は、笑みを浮かべて聖良に挨拶をした。

「お……おはようございます」

 聖良はベッドの上に座り、着ていたパジャマの裾を直す。

「…………このパジャマは誰が?」

 聖良が寝る前は、ふわふわのワンピースを着ていたはずだ。

「ハーティですよ。私が着替えさせようとしたら、ミラさんを巻き込んでダメって」

 自分の身体ではないが、アディスに着替えさせられていない事に安堵した。疑惑が晴れたところで、二人に笑みを向けた。

「貴方達はどなたですか?」

「ぼくはマデリオ」

「わたしはエスカ」

 男の子の名前は聞いた事があった。悪魔の名前だ。悪魔なので、どこにいてもおかしくはない、可愛らしい男の子だった。

「私はモリィです。

 貴方達は悪魔と神子の方ですね。船に乗ってたんですか」

「いや、エスカが暇だから見に来た」

 さすが悪魔。自由奔放だ。

「だから内緒な」

「内緒」

 一応、悪い事だと思っているらしく、口を隠すように手を当てた。彼等は子供で、楽しみを我慢できないのは仕方がない。

「わかりました。内緒です」

 聖良は彼を真似て口を手で隠した。

 その隣で、アディスは至福の笑みを浮かべている。彼好みの可愛らしい子供達だからだ。

 二人とも黒髪黒目で、ラテン系の人種に近いように見えた。

「でもどうしてこの部屋に?」

「この部屋はいつもぼくらの部屋だから。一番いい部屋」

「ああ、なるほど。おもてなししていただいてるんですね。ありがとうございます」

「うん」

 短気で傲慢な子供なら、自分達の部屋を使われれば怒る。

 こうして笑顔で許してくれているという事は、アディスの対応がよかったか、彼らが本当にいい子か、どちらかだ。

「お前はいくつだ?」

 マデリオの唐突な言葉に、聖良は目を丸くした。

「いくつ?」

「歳だ」

 モリィの年齢の設定をしていないから、聞かれて困り、アディスを見た。彼は小さく頷いて、聖良の代わりに答えた。

「エスカよりは年上かな。そして私よりは年下だ」

「アーネスさんはいつく?」

「二十六」

 本当は二十四。もうすぐ二十五らしいが、もう少ししたらアディスとしての年齢を数えるのはやめるらしい。

「二十六だと、やはりハーネスと関係があるの?」

 マデリオは好奇心丸出しでアディスに問う。

「おや、君達はハーネスの事を知っているのか。確かに、私は生まれた時の魔力の高さから、ハーネスの軍に買い取られました」

「どうして秘密結社のボスになったの?」

「今の国は規制が多いからですよ。せっかく持って生まれた才能を、規制で縛り付けられたくありませんからね。

 秘密結社と言っても、ただ国に禁止されている魔術の研究をしているだけで、悪い事はあまりしていません。

 あなた方が神殿から隠れて暮らしているようなものです」

「そっか。アーネスも隠れているのか」

 同じと知って、喜ぶ子供達。

「誰かの決めたルールに従わないでいるには、隠すのが一番です。そうすれば争いもなく、のんびりと暮らせます。現状に満足できるのに争っては、いらない物を背負い、大切な物は失います。

 貴方達はまだ若いのに、賢い選択をしていますね」

「そ、そうか?」

 嬉しそうにはにかむ悪魔が可愛い。

 フレアの父とは全く違う。

「足音が近づいてきます。誰かが来るかもしれないから、そろそろ帰りなさい。話なら国に着けばいくらでも出来るから」

「わかった。エスカ」

 二人は手を繋ぎ、手を振ってから姿を消した。

 アディスはふぅぅぅ、と深く息をついた。

「さすがに、少し緊張しました」

「楽しんでいるように見えましたけど」

「見るだけなら楽しいですよ。可愛らしい子でした」

「何を話したんです?」

「彼らが着たのはモリィが起きる少し前です。私達が話をしていたから起きたんでしょうね。

 自己紹介をして終わりですよ」

 聖良は納得してベッドから降り、伸びをした。揺れているが、今のところは気にならない程だった。

「そういえば、悪魔の見た目ってどういう基準で決まるんですか? あの双子とか灰色でしたけど、マデリオ君はエスカちゃんに似てましたよ」

「それは私にも分かりかねます」

「そりゃそうですよね」

 聖良は周囲を見回して、立派な部屋の中身を確認する。

 照明は綺麗な光る石。クローゼットの中には、着ていたワンピースが入っている。

「お腹がすいたでしょう。そろそろ朝食です」

「朝食?」

「はい。丸一日寝ていたんですよ」

 言われて初めて、猛烈な空腹を感じた。

 朝食は何が出るのだろうか。聖良の世界では、ラテン系の料理は美味しい。

「エキトラの料理は美味しいですか?」

「美味しいですよ。エキトラの国土はそれほど大きくありませんが、資源豊富で土地も豊かです。そうなると自然と美食は発達します」

「豊かなんですか?」

 軍事力の強い国は、それ以外がないからそうなるのだと聖良は思っていた。

「豊かだからそこ、他国から狙われ続けた結果です。山々では様々な鉱物が産出され、水も豊かで、土地も肥えています。セーラが好きそうな料理がたくさんありましたよ」

 安心して上陸できる事を知り安堵する。もしも激マズ国家に行き着いたら、聖良はストレスで死ぬ。聖良は日本人だからだ。

「じゃあ、あっちを向いていてください」

「はいはい」

 聖良はアディスが振り向かないように監視しながら、ワンピースに着替えた。



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