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13話 森の一日

 爽やかな朝だ。

 動物達が活発に動き、襲ってきたので痺れさせ、爽やかな朝の爽やかな散歩を楽しむ。

 バスケットをのぞき込み、美味しそうな朝食に満足して笑みを浮かべる。

「たまには自然の中もいいものねぇ」

 都会と違って人はいないし、変な人もいないし、安心して歩く事が出来る。それでもこんな場所に引きこもらないのは、そんなことをしたら寂しくてたまらなくなるからだ。

 綺麗な湖から離れ、ゆったりと歩く。

「まだ寝ているかしら?」

 まだ周囲は薄暗い。仕事があるわけではない彼らは、きっとまだ寝ている。

 だから、こっそり入って、驚かせてやろう。

「うん、そうしましょう」

 きっと二人の寝顔は可愛らしいから。




 朝、気がつけばフレアが竜のアディスにしがみついていた。

「可愛い! 可愛い! 可愛いっっ!」

 寝ていると思って眼鏡をかけていたはいいが、アディスのあまりにもの可愛らしさに我を忘れてしがみついている。そんな図だ。

 人間相手ではないからよけいに大胆になっている。

 聖良は迷い、普通に接する事にした。

「おはようございます」

「おはよう、セーラ」

 目を逸らしつつ、眼鏡を外すフレア。女装しているからフレアだ。

 壁側で寝ているアディスに壁側からのし掛かっているから、壁抜けして侵入したと分かる。

「あの、土足ですけど」

「あら、ごめんなさい」

 彼はアディスから離れてベッドから下りる。

「うち、家の中は土足禁止です」

「え、そうなの?」

「土足だとすぐに汚れますから。床は拭き掃除してるからキレイですよ」

 彼は素直に靴を脱いだ。温かそうな靴下を穿いている。

「で、何してるんですか?」

「ちょっと寝顔を見に来たの。そうしたら兄さんとセーラが可愛くって。ちっさな竜と、さらにちっさなセーラが、寄り添って寝てるから!」

 興奮して拳を作り力説する。彼女は竜を欲しがっていたし、ロヴァンを一番始めに飼っていた。つまり、適度に大きくて可愛い生き物が好きなのだ。

 そのロヴァンが声を聞きつけて部屋に入ってくる。最近は寒いから、家の中で眠る。昼間は好きなように狩りをして、獲物を自慢するように分けてくれる。

 野生の動物のせいか、遠吠えや威嚇する時以外は鳴かないのでとても静かな子で可愛い。

「フレアさん、ロヴァンが来ましたよ。フレアさんのこと覚えてたんですね」

「えっ、やだ、本当! おいでっ」

 フレアが手を伸ばすと、ロヴァンはベッドの前でちょこんと座る。

「お行儀がいいわね」

「アディスの方が上だから、ベッドに乗らないんですよ。動物の本能ってやつですね」

「なるほど。いい子ね!」

 フレアはロヴァンにもしがみつき、騒がしさで起きてきたミラに気付いて大人しくなる。

 ミラは部外者が悪意を持って玄関や窓から侵入したら殺しに来たが、フレアが壁を抜けていきなりアディスに抱きつきに行ったから無事だった。

 玄関から入らなくてよかったね、などと言える家でいいのだろうかと、いつまでも居候する三人を思いため息をつく。

「朝から何をしている」

「遊びに来たようです」

「いい匂い」

 ミラはくんくんと匂いを嗅ぐ。

 フレアはベッドの上に置いていた荷物をそっと持ち上げ、聖良に渡した。お菓子屋さんで見た包みと、いい匂いのするお重のような物がバケットに入っていた。

「朝食にと思って、美味しそうなのを買ってきたの。お菓子はセーラが好きだと思って」

 ミラが聖良に渡されたお菓子の包みを奪い取るようにして持ち上げ、包みを開けて嬉しそうに見つめた。

「それはおやつに食べましょうね」

「うん」

 よっぽど嬉しいのか、ミラが包みを抱えて部屋を出て行く。

 そして二人でまだ寝ているアディスを見た。

「よく起きないわね。兄さんはけっこう寝起きはよかったのに。やっぱり身体が違うと生活習慣も変わっちゃうんだ……」

 フレアが寂しそうにするので、聖良はいつものようにアディスを起こすことにした。ここまでされて起きないとは、さすがはネルフィアの息子。前はまだ緊張感があったから起きたけど、今はすっかりだらけきって起きない。だから仕方がない。

「ちょっ、セーラ!? 何その石!」

「これで叩き起こすんです」

 まだ少し早いが、客が来たのだから起こすべきだと、持ち上げた石斧を振り下ろす。

 一撃では起きない。何度か繰り返すと、もぞもぞ動いて目を覚ます。

「痛いです」

「おはようございます。お客さんです」

 聖良はフレアを指した。アディスは寝ぼけ眼で彼を見ると何度か尻尾を動かして起き上がる。

「兄さん、平気なの?」

「いつもの事です」

 心配するフレアと、軽く受け流すアディス。

「それよりもどうしてこんな朝早くに?」

「今日はお休みの日だから」

「いつも自由に休んでいるくせに……」

 好き勝手してもクビにならない人材だからこそだ。これで無能だったら、まず今の仕事はない。十七にもなった何もしない男をそのまま囲っておく国などないと信じている。

「セーラ、お願いします」

「はいはい」

 アディスは毛布の下に潜り込み、頭を出してじっとする。そこに頭蓋骨をのせて呪文を唱えれば、可愛かった竜が、ただの男に成り下がる。

「どうして化けるの? 可愛かったのに!」

「うるさい。生活するにはあの格好は不便なんですよ。着替えるから出て行きなさい」

 聖良はフレアの背を押して部屋を出た。寝起きのアディスはいつもよりも少しだけ機嫌が悪い。

 やはり叩き起こすのがよくないのだろうか。




 聖良が朝食の片付けを終え、昨夜朝食用に仕込んでおいたパンを、昼食にしようとバスケットに詰め込んでいた時だ。

「兄さん、ご飯も食べたし、竜の姿で遊ぼう?」

 女言葉で何度も失敗したので、最終手段、可愛い弟の顔でおねだりするフレア。

 単純な作戦ほど、アディスにはよく効く。可愛いものに目がない彼は、弟のおねだりには弱い。弱すぎる。

「どうして竜の姿なんですか」

「だって可愛いもの。それに、私も背中に乗ってみたい! 飛んでみたい!」

「どうせ自分で飛べるでしょう」

「あんまり飛べないの。壁抜けとか転移は出来るけど、飛ぶのは少し苦手なの」

 ハノは転移が苦手だが、空を飛ぶのは得意だ。だから転移も出来る彼は、空を飛ぶぐらい簡単だと思っていた。

 人間の姿をしたアディスは嫌そうに腕を組む。

 竜の姿ばかり可愛がられるのが、彼はあまり好きではない。

「いいじゃないですか。背中ぐらい乗せてあげれば」

「また元に戻るのに、セーラの邪魔をしてお願いするんですよ。嫌そうな顔をされて、私は落ち込まなくてはならないんです」

「ご飯作ってる時に言うからです」

 便利な器具があまりないから、料理一つでも大変だ。火は簡単に熾せるが、調節は難しい。ガスコンロでは出来たチョロ火など不可能である。

「飛びたかったら、頭蓋骨を貸すから自分で飛びなさい」

 アディスは帽子掛けに刺さっているミリアの頭蓋骨を指す。万が一の時の聖良用なのだが、他人が使って怒るのはトロアぐらいだ。彼は今、実家に帰っているのでだれも何も言わない。

 フレアは頭蓋骨を見て一瞬だけ驚いたが、すぐに気を取り直して手を叩いた。

「面白そう!」

 フレアは喜んで飾られる頭蓋骨を手にした。

「でも、飛ぶのには練習がいりますよ」

「いいじゃない。時間はたくさんあるもの。人形を作って話し相手にし出すぐらいには」

「それもそうですね。無趣味とか悪趣味はよくありません」

 アディスにも趣味を持たせないと、そのうち幼い少女を誘惑しに町に繰り出すのではないかと不安になる。

 今はのほほんとストーブの前で寝ころんだり、魔術の研究をしているアディスだが、魔術に飽きたらどうなるか。

 だから同志はいた方がいい。フレアはそれが可能である。

 些細なことでぎくしゃくした関係のままでいさせるのはよくない事だ。

「アディスが教えてあげればいいんですよ」

「こういうことは自分で覚えるものです。私だって一人で覚えました」

「私も一緒にいますから」

「なら……」

 アディスは渋々と立ち上がり、伸びをして服を脱ぎながら部屋に戻る。

「でも、あれって裸よね? なんだか寒そうだわ」

「いえ、竜の姿の方が寒くないんだそうです」

 聖良が言うと、フレアは目を見開いた。

「ええっ!? あんな冬眠しそうな外観なのに!?」

「そうじゃなかったら、寒い山の上でなんて暮らせませんよ」

 聖良も驚いた事だ。冬になって冬眠されたら嫌だなと、密かに思っていたのだ。夏は夏で火を吐かなければそれほど暑くないとラゼスが言っていた。

 アディスが言うには、魔力が無駄にあるから無意識に体温調節に使っているのでは、と。

 必要な事だけは高度な技術も身につける、腹の立つ種族だと彼は言っていた。今は彼も竜なのに。

 アディスが竜の姿で出てくると、フレアが飛び上がって喜んだ。

「動くとますます可愛い!」

「眼鏡もかけないで何を言っているんですか」

 その言葉に、彼は眼鏡を掛ける。じっと見つめ、すぐに外す。

「やっぱり可愛かった!」

 確認したらそれでいいようだ。

 彼は浮かれた調子で外に行こうとしたので、アディスが止めた。

「服を脱ぎなさい」

「ええっ!? ここから!?」

「竜に化けてみたいのでしょう。服が破れますよ。毛布でも羽織ってきなさい」

 彼は納得して寝室で服を脱いで戻ってきた。外に出ると、フレアの頭に頭蓋骨を乗せて、聖良は呪文を唱える。

 アディスよりも一回り大きな竜に化けさせると、聖良はその姿をよくよく観察する。

「うん、可愛いです」

 いつもは自分がなるからなかなか実感が湧かないが、ミリアはとても可愛らしい竜だ。

「セーラ、ずるい、私も」

 ミラがアーネスの頭蓋骨を持って聖良の髪を引っ張った。それを見てアディスがぴゅっと鳴く。

「ミラさんはダメです。セーラを見てるだけならともかく、掛けたら下手すれば覚えるでしょう。それだけはダメです。絶対に」

 ミラは新しく作り出すのは苦手だが、覚えの速さと応用力が高く、それが彼女を殲滅の悪魔たらしめる。

 アディスが警戒するのも無理はない。

「どうしてダメ?」

 ミラが不服そうにアディスを睨み上げる。

「く……クレアが死……老衰するまでは。何が何でもダメです」

 途中で老衰と言い直したのは、彼がクレアを好いている証拠だ。ミラ相手だからこそ。

「いつ死ぬ?」

「さあ。まだ五十年は生きるでしょうね」

「五十年か。ウルはあっという間だと言っていた」

 ミラが嬉しそうに言う。

 彼女だから仕方がない。三つ子の魂百までというように、幼少期に形成された根本的な性格はまず治らない。

 アディスが目を逸らしてこそこそと湖の方へと歩き出す。

 アディスは今、この人達はいつまでいるのだろう、と思っている。恐いし不愉快ではないのでそんな事は言わないが、たまに不思議そうに見るのだ。聖良もそう思うのだから、彼が思わないはずがない。

 食事の準備が大変だというのが聖良の本音だが、手伝ってくれるので良しとしている。




 竜の姿をしたフレアは、まず普通に動き回る練習をした。

 人間の感覚が抜けないと、飛ぶどころか普通に動く事すらままならない。

 竜としては一番経験の多いハーティは、人の姿で不思議そうにその様子を見ていた。

「アディス様、飛ぶ練習じゃ?」

「だいたい、一日はこれをやらないと危ないですからね」

「一日も?」

 声を上げたのはフレアだった。

「気長にやるんでしょう? セーラは気長にやりましたよ。ご近所をお散歩したり」

「ロヴァンみたいな子はたくさんいるかしら?」

「いますが、寄ってきません。竜は魔物の頂点ですからね」

 フレアは不服そうに尻尾を動かす。

 やはり、あれは自然に動いてしまうのだ。

「フレアさん可愛い」

「え、可愛い?」

「可愛いです」

「自分じゃ自分が見られないわっ」

 彼は尻尾を動かして悔しがる。可愛すぎるので思わず撫でると、フレアがアディスのように眼を細めて擦り寄ってくる。

 さすがは兄弟。

「そういえば、ハーティもこの近所しか散歩なんてした事がありませんでしたね。今日はあのエルフ達の家ぐらいまで行ってみますか?」

「そうですね。寒くなってから、あまり見てませんし、元気なのか気になります」

 アルティーサが天然過ぎて少し心配だ。その分二人の子供達がしっかりしているが、心配だ。彼女の魔法の腕前はかなりのものだが、心配だ。人間の使うような学問でもある魔術と違い、彼らの使うのは竜が火を吐くのに近い、考え無しで行える技だ。だから聖良の一人歩きよりはよほど心配ないはずなのだが、心配でならない。

「じゃあ決まりですね。ミラさん達はどうします?」

「行く。あのエルフの薬、好き」

 珍しく彼女が他人を認めている。彼女が竜の里に来たのも、薬のためだった。彼女が認めるのは、鍛冶屋と武器屋と菓子屋と薬屋までは判明。服屋は一番どうでもいいだろう。着られればいい。それでも、一緒に買い物したから少しは興味を持つようになった。素晴らしい進歩だ。このまま女に目覚めて、オシャレで今時な簡単に殺さない女の子になってくれればいいのだが……無理だ。

 ミラが行くのでユイ達が行かないはずもなく、皆はぞろぞろと歩き出す。ハーティが並んで歩く竜二人をじっと見つめていたから、竜の姿になったらどうだと言ってみたが、彼女は顔を赤くして首を横に振った。年頃の女の子は扱いが難しい。

「この周辺で迷ったら、木に登ればあの崖が見えるから分かりやすいですよ。出っ張っているように見える部分には、前に来たうちの巣があります。下からじゃ少し分かりにくい位置にあります」

 その辺りの事はちゃんと考えたらしい。子供を守るのは母親の勤めだ。

 足場の悪い森を進んで行くと、茂みの中から『へくしゅ』とくしゃみが聞こえた。皆は一斉に立ち止まり、代表してハノが茂みを覗いた。

「アルティーサさんじゃないですか」

 聖良は目を丸くした。そんなところで、彼女が一人でいるなど考えられない。あの兄妹がほっとくはずがない。

「あらぁ、ハノさん。ごきげんよう」

「これからうかがおうと思っていたんですよ」

 彼女はカゴを片手に立ち上がる。薬草を探していたらしく、綺麗な顔が土で汚れていた。

 フレアがすごい美人だとはしゃいでいる。さすがにそういうところは『男の子』だ。

「こんな時期に薬草生えてるんですね」

「ええ。ちょっとあの子達、熱があってぇ」

 熱がある。

 あの二人に熱がある。

 アルティーサを一人でほっとくほど熱がある。

 つまり重病。

「大変じゃないですか。あそこ、寒いでしょ!?」

「うーん。ちょっと寒いかも知れないわねぇ」

 ストーブもないのだ。彼らは寒い地域の生まれで、これぐらい平気だと言っていたが、熱があるならいいはずがない。

「と、とりあえず様子を見て、やばそうだったらうちに連れていきましょう? うちにはストーブがありますし、熱がある時は温かくしないと危ないです。悪化して肺炎とか、大変ですよ」

「そうねぇ。温かい部屋があったら、治りもはやいかも?」

 彼女の言葉はまったりしているが、わざわざ一人でこんな所まで薬草を探しに来た事から、本気で心配しているのは伝わってくる。

 その行動に、あの二人から生きた心地を奪うのだと、彼女は気付いていないが。

「ごめんなさいねぇ、心配をおかけして」

「いつも心配させているのは私達の方ですから」

 アルティーサがもう一人増えたような気分だとすら言われるほどに。

 お裾分けももらうし、こういう時は助け合いが大切である。




 綺麗な兄妹をベッドに寝かせたフレアは、その顔を覗き込む。かなり熱が高そうで、苦しそうに眠っている。

 本当に綺麗な男の子と綺麗な女の人。

 背負って帰ったり、空を飛んで帰るよりはと、フレアが変身をといて近所まで連れて転移したのだ。着替えはセーラが運んできてくれたので、裸でうろついたわけではない。

 看護のために、セーラとアルティーサ。あと運ぶためにアディスも転移で連れてきた。他の四人は悪いが自分の足で帰ってもらう事になった。あまり大人数では転移しにくいからだ。

「フレアさん、二人にこの濡れ布巾を額に乗せてあげてください。氷のうがあればいいんですが、浮かせておくやつないですもんね」

 セーラはストーブで部屋を暖め布と水桶を準備すると、すぐに湯を沸かし出した。アルティーサが薬を作るためだ。

「セーラ、私は何をしましょうか」

 アディスが退屈なのか聖良に指示を仰ぐ。

「えと……じゃあ、今夜は上で寝てください。アディスが寝るところがありません。最近上で暮らしてないから、ちゃんと整えた方が良いですよ」

 アディスは小さく項垂れ、セーラに言われるがまま、しぶしぶと家を出て行く。彼は幼い少年が熱にうなされているのに、邪魔だと言われた程度で怒る小さな男ではない。

 先ほど見たエルフ達の寝床に比べれば、この家の環境はずいぶんといい。もちろん、都会の家ほどではないが、魔物が跋扈する森の奥と思えば、天国のような場所だ。その場所を二人が治るまで譲るのは、やぶさかではないはずだ。

 フレアは水の中に氷を作り、よく冷えた布を額に置いてやる。冷たかったからか、妹だという女性が目を開けた。

「大丈夫?」

「うん」

「寒くない?」

「うん?」

 彼女は身動ぎし、身を丸める。するとつるりとしていた肌にわさわさと毛が生え、獣の姿になった。

「え? ええっ!?」

 眼鏡を掛ける。

 見間違えではない。

「どうしたん……ああ、リーザさんは獣人とのハーフなんだそうです。可愛いでしょう」

「すっごく可愛いわ。可愛いわ。でも、どうやって乗せればいいの?」

 彼女が動いてずり落ちた布。

「リーザさんはアルテ君よりは丈夫ですから、温かくしてれば大丈夫だと思いますよ。私も犬の看病の仕方は分からないですし」

「そうよねぇ」

 犬の看病、まさにそれだ。さらりと迷い無く犬と言い切ってしまうセーラが可愛い。

 しかしリーザは本当に可愛い。元気に走り回る姿はさぞ可愛らしいに違いないと、想像して身が震える。

「あ、みんな帰ってきましたね」

 羽ばたきの音が聞こえ、セーラが窓を少し開けて確認した。

 綺麗な少し赤っぽい竜が見えたので、フレアはアルテの額に濡らした布を置いて家の外へと走った。外履きのサンダルを足に引っかけ、竜の姿をしたハーティを見上げる。

「可愛い! ハーティ、ハーティよね!? 可愛いわ! すっごく可愛い!」

 彼女は複雑そうに顔を歪めた。

 竜に竜の姿を褒めたのに、あんな表情をされるのは心外だ。アディスが好きで、人のようになりたいと思っているにしても、彼女は竜である。

 彼女の背からミラ達が下りると、セーラが玄関から顔を出した。

「ハーティ、せっかくだからフレアさんを背中に乗せてあげてくれませんか? アディスはなんか割り切れてないっぽいですから。

 楽しそうに遊んでいる二人の姿を見たら、寂しがり屋だから混ぜて欲しがりますよ?」

 彼女の言うとおりだ。

 少し拗ねていても、ほっといて遊んでいるとすぐに機嫌を直して混ざりたがるタイプだ。彼は一人では生きていけない、賑やかなのが好きな男だから。

「ハーティ、乗せて!」

「まあ……断る理由もないけど」

「ハーティ大好きっ」

「人の姿の時と、態度が……」

「可愛いもの! 綺麗だし」

 彼女はため息をついて身をかがめる。

「お昼ご飯までには帰ってきてくださいね。で、出来ればアディスが不必要に帰ってこないようにしてくださいね。ほっとくと寂しがるんですよね」

 まるで鬱陶しいから面倒を見ていてとでも言いたげで、少しだけ彼に同情した。

 家の中に戻るセーラに手を振り、ハーティはため息をつく。

「ハーティ、ため息ばかりついていると可愛くないわよ」

「それはほっといて……」

「せっかく可愛いのに」

「この姿で言われてもあまり嬉しくない」

「人の姿の時も可愛いわよ? 女の子は何もしなくても可愛くていいわね」

 彼女は再びため息をついてから、空に飛び上がった。

 森の中というのも、存外騒がしくて面白い。


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