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7話 魔道士 4

「セーラさん、泣きわめけとか、慌てふためけとか言わないけど、よくお茶なんて飲んでられるね」

 ハノの言葉にセーラはため息をつく。彼は出ていこうするアデライトを縛り付けている最中だ。

「だって、人外魔境の戦いなんて私には空の彼方の世界ですから、心穏やかにこうしてお茶を飲むのが一番なんです。私は昔からこうやって嫌なことを忘れて過ごしてきました。大丈夫です。問題ありません。例え天井がまっ赤になっていても、昼寝できます」

「あなたが言うと、何かとリアルだね」

 人生色々だ。

 色々といえば、ふと思い出した。

 お茶を置いて立ち上がり、階段を上って巣から頭だけを出す。

 なにやら妖怪大戦争のような光景が広がり、巣の前でその力は弾けてこちらまでこないという、まさにこの世の物とは思えない光景が繰り広げられている。それは主にアディスと対峙する女の子が起こしている。

 女の子はやはり可愛い。まさにお人形のように綺麗で、お人形のように表情がない。このような魔法合戦を繰り広げて、顔を歪めもしないとは。

 双方狭い場所なので手を抜いているのか、派手な見た目の割には互いに少し汚れているだけで、血は流れていない。

「アディス」

 呪文を唱えているので返事をしない。

「ここであまり血を流すと、お母さん興奮してまた夜中に火を吹きますよ」

 アディスの動きが鈍る。斬り殺されそうになっているもう一人の魔女を見て、顔色を変えた。なかなか善戦していたようだが、さすがにミラ相手では運がないとしか言えない。

「ミラさんストップ!」

「なぜ」

「殺るならお外に出ましょう」

「なぜ」

「家庭の事情です」

 ネルフィアは、いつも現場で獲物を食べるのだが、時々持ち帰り、大きいために少しずつ食べて血が流れ、その血のせいで夜中に寝ぼけて暴れるのだ。

「落とすか」

 ぐったりしている女の人を引きずって崖へと向かうミラ。

「ちょ、まって」

 イーザに聖良の隣まで連れてきたもらったアデライトが女性へと手を伸ばして言う。縛り方が足りなかったようだ。

「クセラをどうやったらあんな風に……」

 火気を持っている相手も問答無用である。食器棚はネルフィアから守るために巣の側にあるので無事だが、物干し竿と洗濯物が破壊されている。作ってもらったばかりの聖良の服に穴が空いていそうだ。

「殲滅の悪魔はただの噂ではありません。本当に街一つどころか、戦場を通りかかれば双方全滅させ、悪魔をくびり殺し、竜を斬首してきたような方です。悪魔本体が来ても、彼女に対抗できるかどうか怪しいところです」

 アディスが怯え混りの、暴れた後のネルフィアを見ている時の目を向けて言う。彼はああいう強い女性が苦手なようだ。母親ならまだしも、ミラの場合は他人である。

「アディス、その程度も始末できないのか?」

「いや、なかなか楽しくて。楽しいと、技術だけで張り合ってみたくなるでしょう。魔力は有り余ってますから、技術だけで対抗しないと」

「子供だからといって、遊んでばかりではいけない」

「あはは」

 アディスも妙なこだわりを持つ。技術に自信を持つ彼らしいとも言えるが。

「血が流れるのが問題なら燃やせばいい」

「それはそれで臭いが……」

「凍らせて落とすか」

「凍らせるとかは苦手で……ほら、燃やすのが専門じゃないですか」

「なるほど。ではユイが」

 アディスはユイを見つめる。

 ユイはぶんぶんと首を横に振る。

「今の合戦を見せられた後、僕に何ができると思う?」

「ユイは自分に自信がない。それはよくない。お前は自分で思っているよりは出来るはずだ」

 ミラに諭されて複雑そうな表情を浮かべるユイ。頑張る気が起きないのも理解できる。

「ヘレナ、帰ってセシウス様に諦めてもらうように言った方が……うぅ」

「傷が開いてますよ。安静にしてください」

 アデライトはイーザに支えられ、巣の壁からずり落ちそうになるのをなんとか留まる。

「殲滅の悪魔がいたと言えば、ルシウス様も面倒くさがらずに止めてくれると……」

 痛むのか脂汗をかいてぜいぜいと肩で息をしている。

「貴方は、どうしていつも怪我をするのかしら」

「今はそんなことはどうでも」

「私はけっこう面白かったけど、クセラさんのお相手は面白いとは言えない方のようですね」

 ヘレナは目を伏せて言った。面白そうにしているようには見えなかったが、それが顔に出ない人なのだろう。

「クセラさん、意識は?」

「なんとか……。ざっくり真っ二つ。竜殺しと同じ素材なのにどうやったら……」

「あらお気の毒に」

 冷静沈着な女の子だ。モリィ並の美少女で、技術がすごいのなら、アディスが鼻の下を伸ばしても仕方がない。

 クセラの方は真っ二つになった、筒を見て涙している。

「神子、その二人は帰してやってくれ」

 アデライトは真っ青な顔をしているのに、わざわざまたはい上がってユイへと顔を向けた。

「帰すと思うか」

 融通皆無のミラは、突き落とすのをやめるつもりはないらしい。

「セーラを狙っているという事実に変わりはない。帰せば大挙して押し掛けられる。ヒトとはそういうもの」

 ミラの言葉は自分を操るユイへと向けられる。ユイは否定できないため、視線を逸らす。

 双方の気持ちは理解できるが、これが自分のために起こっているのだと思うと、ミラを支持すべきと言う気持ちもある。そんなときだった。

「ヘレナぁ、いるのぉ?」

 突然の第三者の声にセーラは硬直した。

「あ、いた…………ん?」

 現れたその人は、首を傾げた。

「なぜフレアがここにっ!?」

 アディスは彼を見て声を上げた。

 赤いドレスを身に纏う、鞭を腰に引っさげた派手な美人、半悪魔のフレアがそこにいた。

「え…………なんでにっ……」

 フレアは驚きのあまり足をもつれさせて転ぶ。

 セーラも階段から足を滑らせそうになり、イーザに支えられて巣の壁になっている布にしがみつく。

「……どうしてアディスが……セーラもっ!?」

 アディスが固まっている。しかしはっと我に返り、ヘレナを指さした。

「この人達がセーラを誘拐しようとするからこんな事に」

 こんな言葉ですべてをうやむやにしようとしている。誤魔化すに誤魔化せない。いや、前の時に竜の関係者なのはもう知られてしまった。

 竜の知り合いという事で通せば、なんとか……。

 アディスが竜になるのを見たのは、このアデライトだけである。

「…………」

 聖良とアディスに見つめられ、アデライトは脅えて顔を引っ込める。まるで今すぐ始末されると怯えているようだ。

 少ししか考えていないのだが、殺意が表に出ただろう。

「セーラを誘拐? ああ、あの変態が? ヘレナ達が来たからおかしいと思ったらっ!」

「変態って、自分の実の父親でしょうに」

「いやよ! あんなの親でも何でもないわ!

 それにセーラをあの変態に合わせるなんてダメよ! 絶対にダメ! どうしてあなた達があの変態のために動いてるの!? ルシウス様は何ておっしゃってるわけ!?」

 向こう側のはずのフレアが、仲間を責めている。

 聖良は複雑な心境で様子を見つめた。

「自分の魔女が竜の巣なんて怖いと言うから、百年前の賭けを持ち出されたそうです」

「セコい。ジジイって本当に昔の事ほどよく覚えてるわよね」

「アデライトが怪我をして誘拐する予定の方に介抱されていますし、神子はいるし、何をしに来たのだか」

「割に合わない仕事をさせられてるわね。アディスだけでも厄介でしょうに」

「アディス……ああ、そんな名の魔術師がいましたね」

 アディスがちらと頭を引っ込めたアデライトの方を見た。彼は今ようやく気付いたようで、青ざめている。その様子が見えていないはずのアディスの顔に、抹殺の二文字が見えた。

 もちろん聖良は止めない。

「とにかく、セーラを連れていくなんてダメよ絶対に。許さないわ」

「なぜあなたが?」

 ヘレナは必死になって反対する半悪魔を見つめて問う。

「とにかくダメなの! 分かるでしょ!」

「……ああ。会わせたくないんですね」

「当たり前でしょ!」

 よく分からないが、あの人形師の父親だ。恐ろしい変態に違いない。

「変態って、世の中に溢れてるんですねぇ」

「セーラ、なぜ私を見るんですか」

「いえ、他意はないんですよ。ただ、多いなぁって。ミラさんも、きっとそういう人達ばっかり見てきたんじゃないかなぁって」

 ミラは首をかしげる。変態の定義を理解していない可能性もある。害ある者は皆殺しだから。

「とにかく、帰って変態に伝えなさい。くだらないことで他人の魔女を殺す気かって。ここは何とかしておくから」

「分かりました。アデライトはどうしましょう。まだ怪我をしているそうですが」

 その言葉を聞いて、アディスが階段を上って巣の中に入る。

「おやおや、まぁた血が出てるじゃないですか。アデライト君、無理はいけません。帰る前に止血しましょうか」

 笑顔が怖い。

 アディスはかなりの早口で聞いたことのない呪文を唱えながらアデライトに迫ると見せかけ、イーザの首を掴んだ。

「何をっ」

「エンデール」

 最後の言葉と共にイーザが力を失い、アディスはそれをぽいと捨ててろくに動けないアデライトの頭を掴む。

「エンデール」

 仕事を済ませた彼は、満足した様子で本当に治療をしてからアデライトを抱きかかえて外に出る。

「さあ、これで問題ありません。傷はありますが、安静にしていれば治ります。しばらく記憶が混乱しているかもしれませんが、後遺症なので変なことを口走っても何か言ってると軽く受け流してあげてください」

 彼は爽やかに微笑んで言う。笑顔の似合う顔をしているから、かえってアーネスの姿でやるよりも腹の中が黒く見える。

「アディス、記憶を操作したのなら、いっそ全員やればいいのでは?」

「これは負担がかかるからあまりやりたくないんですよねぇ」

「チビの方はやれ。頭がよい方の記憶はどうにかした方がいい」

 ヘレナはアディスを睨み上げ、頭部を庇う。その仕草が可愛らしい。そのため、アディスの顔に自然な笑みが浮かぶ。

「見てもいないのに分かるんですか」

「この手の術は頭部に触れなければ効果は薄くなります」

 じりじりと後退している。顔に出ていないだけで危機感はあるようだ。

 ミラは剣を鞘に収め、それを見たユイが驚く。

「ミラ、殺すのは諦めたの? 珍しいね」

 ユイが話題を変えるように言った。記憶を弄るという事は、殺さないという事だから。

「腑抜け魔女ばかりだというのが本当なら、これ以上は無い。私は必要のない労力を使って、悪魔の巣を殲滅したいとは思わない」

「そうなんだ……」

「悪魔を殺すと、別の悪魔に興味を持たれる。もう来ないように洗脳すればいい。ウルに一匹借りてくるか?」

「や、それはやめた方が。今度はアディスが危ないから」

「そうか」

 ミラでも殺せばいいといういう以外の考えがあるのだ。彼女を今まで誤解していたようである。

「……やっぱり殺すか?」

「いやいやいや、とりあえずもう少し様子を見ようよ。ここまで半悪魔が来たということは、悪魔も状態を察知しているということだよ。様子を見た方がいいよ。

 上にはしばらくここの様子を見ているって伝えてもらうから。

 悪魔関係って言ったら許可降りないはずないし」

 ミラはしばし考え、笑う。笑った。

「……セーラと一緒にいられるのがそんなに嬉しいんだ」

「うん」

 ミラは即答した。

「ウルは一緒にいると神経がすり減るけど、セーラはそれがない」

 ミラにも他に友人がいたようだ。あのミラが神経がすり減ると言うぐらいだから、ろくでもないタイプなのだろうが、彼女の場合は悪友だろうがいないよりはいた方がいいに決まっている。

「じゃあ、お前達帰っていいぞ」

 急に機嫌良くなったミラは魔女達にしっしと手を振る。クセラは傷ついた身体でアデライトを受け取り、

「イーザは?」

「ああ、中ですね」

 ハノが抱えて外に連れ出してくれた。

 せっかく仲良くなったのに、もう帰ってしまうと知って、聖良は喪失感を覚えた。

「ああ、セーラ、落ち込まないでください。今度、もっと可愛い犬を飼いましょう。小さくて、セーラに似合う可愛い犬を」

「私、大型犬がいいんです。乗れそうなの」

 もういるようなものじゃないかと、ハノが小さく言ったが無視をした。

 アディスは可愛いが、ペット扱いしたら怒るに決まっている。

 ヘレナはイーザの尻尾を掴んでズルズルと片手で引きずり、挨拶も無しに消えた。一人残ったフレアは、魔女達に手を振って見送る。

 なぜか彼はこちらで見送っているのだ。

 気がすむと、フレアは聖良に向き直る。

「ところで、セーラはやっぱり竜と繋がりがあったのね。モリィちゃんだったかしら。あの子は?」

「お出かけしてます」

「そう。でもモリィちゃんはアーネスと一緒にいたのよ。どうしてアディス、あなたがここにいるの?」

「人には色々あるんです」

 詮索は無用である。

 もう隠すのも空しくなりそうになるが、まだ同一人物だとはまったく気付いていない。

「……まあ、話してくれるとは思っていないけど。

 もう一つ気になるんだけど、どうして洞窟の中にこんな布で出来た大きな鳥の巣みたいなのが」

「この高さがあれば、子供の竜は外に出られないからです。自分の大きさを自分で操れない子供は、大きくて重量があるからこういうふうに育てるんだそうです」

「へぇ」

「納得したところで、早く帰ってください。もうすぐ家主が帰ってきますよ。

 ミラさんは元々お友達だったけど、フレアさんは半悪魔だから嫌われて食べられてしまうかもしれません」

「ぶぅ」

 フレアは子供のように頬を膨らませる。

「あ、帰ってきてますよ。ミラさんがいるから獲物を生きたまま持ち帰ってますね」

 振り返り、牛をつり下げた竜を見てさすがにフレアも慌てた様子で出ていく。

「セーラ、ここら辺に住んでるんなら、今度遊びに来るわね」

「来なくていいですよぉ」

 アディスが手を振って言うと、フレアは崖から飛び降りた。

 豪快な帰り方である。






 ネルフィアが帰ってくると、首を切られて血抜きされた状態の牛を差し出した。

 聖良が牛だと判断できる程度に首が半分取れかけているのは、うちの中で血を流すのはやめて欲しいとお願いしたため、ちゃんと飛んでいる最中に血を抜いてきてくれた。

 周りはさぞ迷惑だっただろう。

「今夜は焼き肉ですねぇ」

 聖良はさすがに牛の解体など無理なので、やってくれるというハノに任せた。

 大きな生き物を相手にミラはたまらず、ばっさばっさと豪快に切るので、食べるには向かないらしい。その点、実家が牧場だったというハノとユイは慣れている。

 奥の川で切り分けた肉を、ユイがさらに部位ごとに小さく切る。聖良とアディスはそれぞれタレを作り、互いに味見をした。聖良は柑橘系のさっぱりとしたタレを作ったが、アディスが作った物はもっと色々な香辛料が混じっている。どちらも美味しそうだ。

 それが終わると作ってあったブイヨンのスープに具を入れて暖め、肉の筋を取るのを手伝った。アディスは外で鉄板代わりの石を焼いている。

 準備が終わると、いよいよ肉を焼く。肉の焼ける香ばしい匂いが食欲をそそる。

 アディスが洞窟の外に向けて風を作っているので、中が臭くなることもない。

 肉がほどよく焼けると、タレにつけて口に含む。硬めの肉だが、日本人の好みからしたら硬いだけで、皆文句を言わずに食べている。聖良はもう少し薄く切ったのが好きだが、噛みしめて味わって食べるというのも悪くはない。

「あ、そうだ。アディス、お家作らないと」

「おうち?」

 アディスが肉を焼く手を止めて顔を上げた。

「ここに住んでるって思われるわけにもいかないじゃないですか、フレアさんに」

「ああ、それもそうですね」

「だから、別の場所に簡単な家を造りませんか?」

 アディスはぼうっと考え込む。その間に焼けた肉をミラに取られる。アディスは中までしっかり焼いた肉が好きなので、こういう人がいる場合はつきっきりで肉を守らないとなかなかありつけなくなるのに、あまり熱心ではない。

「いいですねぇ。なんだか、二人の愛の巣みたいで」

「巣ならあるでしょう。家が欲しいんですよ」

「もう、照れちゃって。いいですね、家。近所の方達にも手伝ってもらいましょうか。結界陣を敷けば地上に作っても野生動物に襲われることもないですし、冬の間は壁のないここよりも温かいかも知れませんね。素材は何にしましょうかね」

 アディスは計画を立てていく。

 フレアのような、ここには来て欲しくない人を通すためだけの場所のつもりだったのだが、アディスの中では住むことになりつつあるようだ。

「家を造るのかい。なら、うちからデテルとルルトでも連れてこようかね」

 残りの肉を大きなままで食べていたネルフィアが首を突っ込んでくる。

「いやいやいや、そんな悪いですよ。あんなところからわざわざ」

「悪い? どうしてだい?」

 やってもらうのが当たり前らしいネルフィアの態度に、息子は深く深く息を吐く。言うだけ無駄だ。

「それがいい」

 ミラが肉を焼く手は止めずに言う。

「ギセル族なら住みよい家の作り方を心得ている。素人が集まってやるよりは、指示できる者、いた方がいい」

 ミラはその間にもステーキサイズの肉を焼きながらナイフで切り分けて半分聖良の皿に入れて、半分自分の皿に入れる。聖良は何もせずに皿に肉が溜まってしまった。

 肉はもういいので、野菜を焼くことにした。

「ミラの言うとおりだよ。あの二人は外に行くのが好きだから、たまにこっちに来れば喜ぶよ」

「そういえば、時々人間の街まで行くって言ってましたね」

 人の良い夫婦は、他のギセル族に比べて活発なようだった。この巣に通すのはやはりどうかと思うので、客室的な家は欲しいところだ。

「では、何かお礼がいりますね。ギセル族は何を喜ぶんでしょうか」

 アディスは真面目に考えながら、聖良の焼いた野菜をさっと奪っていく。仕方がないのでもう一度焼く。

「お礼なんていらないよ。まあ、大きな街に連れて行ってやれば喜ぶかも知れないけどね」

「うーん。でしたらお願いできたら有り難いですね。さすがに大工も呼べませんし、作るなら見栄えもいい方がいいに決まってます」

 アディスは家の構想に夢中だ。

 アディスに取られる前にと、焼いた芋に塩を振りかける。しかしバターの存在を思い出し、浮かれながら保冷庫に走った。乳製品は便利である。少し皿にとって帰ると、芋が無くなっていた。アディスが食べている。

「なんで私の芋を……」

「え?」

「私、野菜大好きなのに」

「あ、いや、トイレにでも行ったのかなぁって。焦げるかなぁって」

 聖良はふくれて自分の皿のさめた肉をアディスの皿に移す。

「アディスは竜らしく肉でも食べてればいいんです! お肉食べないと大きくなれないって、ラゼスさんにも言われてるじゃないですかっ! 何より私のお野菜取らないでくださいっ!」

「ご、ごめんなさい」

 アディスは反省して、まだ少し赤いところのある肉を火が通るまで焼いてから食べた。

 生肉が好きではないのは知っているが、焼けば食べられるのだから子供の内はちゃんと食べないといけないと、ネルフィアにも言われている。

 竜は大きさを変えられるが、大きくなる限界は自分の素の状態の大きさが関係しているらしい。あまり食べないと小さいままになってしまうと言われている。それでは体力のない子になって、良くないのだそうだ。

 こうして怒らないとしっかり食べないこの駄目な中身大人の竜は、ミラに目をつけられてどんどん食べさせられた。

 彼もミラには逆らえないらしく、肉ばかり食べ始める。さすがに、少しだけ可哀相になり、仕方がないので、焼けた野菜の半分は、アディスの皿に乗せてやった。

 食物繊維を取るのも大切なのは、雑食である以上きっと竜も人も変わらない。


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