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21話 世界の厄介者達2


 フレアに連れられたのは、知らぬ建物の中。石造りでギリシャの神殿のような雰囲気があり、聖良には何か儀式をする場所のように見えた。

 この世界で一般的な、神殿の様式とは、違うように見える。

「土着神の神殿ですね。国にとっては歴史的な価値があるため、神殿の手から逃れたのでしょう」

「へぇ。偏執的な一神教なのに、歴史的な価値とか認めるんですか」

「元々、他の神は自分達の神の違う姿だという主張ですからね。よほど自分達の思想に反しない限りは認めますよ」

 聖良は部屋を見回した。

 そのような理由で保護しているのなら、この部屋は宗教的には使われていないのだ。

 人の立ち入りが少なく、国に保護された場所。

 半悪魔をこっそりと招き入れるにはちょうどいい場所である。

「外からも見てみたいです」

 聖良は文化遺産的な建物を見回しながら、興奮を抑えきれずにフレアに頼んだ。

「そうしましょう。出口はこっちよ」

 フレアは聖良の手を引いて歩いた。

 聖良は日差しを気にして帽子を被った。そして帽子よりも少し明るい色の、アリスのような青いエプロンドレスの裾を押さえて、神殿の外に出る。あまり大きくないので、迷いもせずに出られた。方向音痴気味の聖良にとって、幸先の良いスタートだと喜んだ。

 右手から来た衝撃に吹き飛ばされるまでは。


「っつ」


 気がついたら、日陰の中でひっくり返っていた。どうやら階段に手摺がなかったため、そのまま落ちたようだ。

 顔も痛いが、両の肩が痛い。地面で打った左側は骨折して、痛みのあまり動けない。右側を眼球だけを動かして確かめると、焦げていた。

「あああっ!?」

「大丈夫ですかっ」

 頭上から声が掛かると、アディスが聖良の隣に着地した。

「おろし立てのワンピースが焦げたっ!」

 肩も焦げていたが、当然服はもっと焦げていた。

 可愛くて可愛くて、モリィの姿に似合いすぎていた、アリス風エプロンドレスの袖が、見るも無惨な姿になっていた。

「もう少し顔や肩を気にしなさい」

 アーネスの冷たい印象の顔を呆れたように歪めて、アディスはため息をついた。

「…………だって……痛い」

 骨折している肩が、なかなか修復されない。ぽろぽろと涙がこぼれる。

「ああ、砕けているから、時間が掛かりますね」

 綺麗な骨折は瞬時に治るが、複雑な骨折は時間が掛かる。

 瞬時に治ると、歪んで引っ付く可能性があるから、都合が良いのだという。

「とりあえず固定させましょう。ハーティ、荷物を」

「はい」

 ハーティーが背負っていた荷物を下ろそうとすると、カランが奪い取って階段から飛び降り、白い布を取り出す。

 どうやら心配してくれているようだ。聖良の教育方針は間違っていなかったのだ。

 子供の人間らしい成長を喜びつつ、簡単に肩を固定してもらったところで、

「モリィっ!」

 血相を変えたマデリオがやってきた。

 混乱しすぎて、転移を忘れて走ってきたようだった。

「だ、大丈夫かっ」

「大丈夫なわけがないだろう。お前は何をやっているんだっ」

 アディスが珍しく声を荒げた。

「あ、アーネスかと思ったんだよっ」

「どこをどう見てるんですか、まったく。だいたい私ならいいとはどういう了見ですか。

 説教は後です。綺麗に引っ付くように、すぐに医者に診せないと」

 聖良はアディスの言葉を聞いて、首を傾げた。

 この身体はモリィの姿だ。

 この状態で骨折で骨が歪んでしまったら、聖良の身体にも影響があるのか、モリィの姿に影響があるのかすら分からないのだ。

 アディスが作った術だから、そのような前例は未だ無く、予想される結果は、想像でしかない。






 聖良は肩を紐で結ぶワンピースを身につけた。

 左肩が上がらないので、袖を通せないのだ。

 数時間で完治すると言っても、着ていたアリス風ワンピースの右側はボロボロで、べっとりと血もついていたため、着替えないわけにもいかずに、医務室でこのワンピースを借りたのだ。

「ああ、アリスワンピ……可愛かったのに」

 アリスなんて縁起でもないものを可愛いと思って、その服装を好んでしたのが悪かったのだろうか。

「似たようなデザインの服を作りましょう」

「どうせまたすぐに破れるんです。気に入った服を着ている時ほど、汚れるんです。私なんかが、可愛い服を着るのが間違っていました」

「使い捨てだと思えばいいじゃないか。どこぞの国の姫君は、一度袖を通した服は二度と着ないそうです」

「どんな極端な例ですか。そういう無責任な噂が、パンが食べられないならお菓子を食べればいい、なんてひどい台詞を捏造するんです」

「どんな可哀相な人ですか、それ」

「とある国の王妃です。民衆が反乱を起こし、断頭台行きになりました」

「王族も大変ですねぇ」

「まったくです」

 聖良は先ほどまでは焦げていた右腕を動かし、出されたお茶を飲んだ。骨折よりも火傷の方が治りが早いのだ。

 マデリオは深く深く反省して、現在は床の上で正座をしている。

 当然おやつは抜きだ。

 しかも、誰も彼には目を向けない。エスカでさえ怒って無視をしてしまっている。

「そうだ。この際だから、この国の可愛い服を買いに行きましょうか。

 前回はその時間はありませんでした。これからグリーディアも温かくなるから、ちょうどいい。たくさん買いましょう」

「置き場はどうするんですか」

「春になったら増築します。あんな狭い家に、何人も押し掛けられるのが何年も続くのは嫌でしょう」

「そうですねぇ」

 リビングで雑魚寝していたユイ達を思いだしてため息をつく。

「可愛い物をたくさん買いましょう」

 アディスは聖良の額を撫でて言う。

「ついでに欲しがっていた糸も買いましょう。グリーディアよりもよい物がありますよ」

「そうですね。パジャマに出来そうな綿の服が欲しいです。大きめのを買えば、大きくなっても着られますし。ハーティとカランのも買いましょうね」

「先に両替しないと。アスベレーグ、この国の両替はどうなっていますか?」

「代金ならば、ドレスの弁償も兼ねてこちらで持ちます」

「そうですか。では、モリィの可愛い服を買いましょう。可愛い刺繍の華やかな外出着とか。せっかくお気に入りだったよそ行きのワンピースですからね」

 チクチクとした嫌味を言うのを決して忘れない。

 マデリオにはいい薬だ。これで少しは落ち着きが出る。


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