西園寺蘭子の霊感情話番外編 八木麗華の傍若無人
ウチは八木麗華。関西では知らない人は知らないくらい有名な霊能者や。
は? 当たり前やて?
いちいちつまらん突っ込み入れんといて。
ウチ、ホンマは「ガラスのハート」やねん。
前説はこんなもんやな。
さて、本題や。
ウチには一番の友人に西園寺蘭子ゆうお人好しの塊みたいな女がおる。
蘭子は時々只働きをするらしい。
考えられへん。
ありえへん。
ウチやったら、支払渋る阿呆は許さん。
どんな手を使ってでも取り立てる。
副業で、サラ金の回収を手伝うたりしとるくらいやからな。
これは蘭子には絶対内緒やで。
知られたら、絶交されるさかい。
おっと。横道に逸れたな。あかん、あかん。
今日はその副業の方や。
それも東京や。
蘭子とバッタリ会わへんかと冷や冷やしとったが、ウチはホンマに運がええ。
蘭子は今、東京におらんのや。
心配やから、メールで予定訊いといてん。
弟子の小松崎瑠希弥と北関東に行ったらしい。
北関東て言うたら、あの生意気な女がおるとこやないか。
まさか蘭子の奴、慶君(生意気な女の兄貴や)にチョッカイ出す気ィやないやろな。
もしそうやったら、いくら親友でも許さへんで。
いや。
ここだけの話、蘭子には敵わんから、蘭子が慶君を「ご所望」なら、ウチは全面撤退や。
さてと。今度こそ、本題やで。
「ここか」
ウチが取り立てを頼まれたんは、ヤクザの事務所やった。
貸したまではええが、返してもらえんようになったらしい。
アホやで、今回のクライアント。
「毎度、鳥楯ローンでおま」
ウチはにこやかな顔で事務所のドアを開いた。
「何だ、姉ちゃん? 何しに来た?」
ごつい顔で息の臭いオッサンが、ウチに顔を近づけて来た。
いきなり喧嘩する訳にもいかんから、
「ご用立てさせていただいた貸し金のお支払をお願いにあがったのですが?」
と下手に出た。ウチにしたら、かなり我慢してるんやで。
「何の事だ? 言いがかりはやめてもらおうか」
口臭いオッサンはウチを鼻で笑って言いおった。
「いえ、言いがかりではございませんので。ここに契約書もございます」
ウチが提示した「金銭消費貸借基本契約書」を口臭いオッサンが鷲掴みにし、
「そんなもん、知らねえよ」
と目の前でビリビリと破り捨てた。
ウチの堪忍袋の緒は、最近のガキより切れやすくできとる。
「ほォ、さよか」
ウチは巨乳の谷間からお札を取り出し、ばら撒いた。
「ほなら、返してもらえるまで、こいつらここに置いてくんで、よろしゅう頼んます」
お札からそれほど強力でない悪霊が飛び出し、事務所中を飛び回る。
「うわあああ!」
ヤクザ共はちびりそうなくらい驚いて、逃げ回った。
「ほな、さいなら」
ウチは委細構わず、そのまま事務所を出る。
三十分もしないうちに、クライアントから連絡があった。
組長が直に詫びを入れて来たそうや。
これでウチの任務は完了や。
悪霊を呼び戻し、また次に備える。
これで回収金の二割をもらえるんやから、ボロい商売やで。
もちろん、交通費は別途請求や。
え? 弁護士法に違反しとる?
知らんがな。
警察に駆け込まれても、誰も信じてくれへんしな。
大丈夫や。心配せんといて。
一番困るんは、蘭子に知られることや。
それだけは気ィつけんとな。
ほな、またな。