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第23話 未来の香り――“合意”で作る新しい窓口

 ラフィア邸の応接間は、朝でも静かだった。


 窓から入る光は柔らかい。カーテンが風で少し揺れる。

 上品な部屋なのに落ち着くのは、「見せつけるための豪華さ」がないからだと思う。

 この家の品は、誰かを黙らせるためじゃない。場を整えるためにある。


 丸いテーブルの周りに、私たちは揃っていた。


 ラフィア。

 ノエル。

 私。

 セイラン。

 カイル。

 ミーナ。


 茶会の席とは違う。

 ここは、言葉を飾らなくていい場所だ。


 ラフィアが小さく咳払いをして口を開いた。


「昨日は……席を守れました。皆さまのおかげです」


 ノエルが短く頷く。


「守れた。だが終わってはいない」


 セイランが腕を組んだまま、ぶっきらぼうに言う。


「根本を止めないと、また同じことが起きる」


 ミーナが小さく頷いた。


「……今日は、その止め方を決める日ですね」


「そう」


 私は頷く。

 ミーナの言葉が少しずつ、相手に届く形になっている。成長が嬉しい。


 ラフィアが紙を一枚、テーブルの中央に置いた。

 そこには短い箇条書きがある。


「まず、ゴールを揃えましょう」


 ラフィアが指で順番に示す。


「ひとつ。すぐ確認できる仕組みを作る」

「ふたつ。偽の通達が入り込む入口を塞ぐ」

「みっつ。職人の名前を守る」


 セイランが即答する。


「名前を守る。ここは絶対だ」


 ノエルが淡々と補足した。


「確認が早くなれば、偽物は売れにくい。入口も塞げる」


 私はラフィアの紙を見ながら言う。


「どれも、誰かを潰すためじゃない。続けられない形にするためです」


 ラフィアが微笑んだ。


「ええ。喧嘩にしない。合意で進める」


 その言葉に、空気が少し軽くなる。

 政治の争いにすると、勝っても疲れる。

 勝った側が悪者に見えるやり方になりやすい。

 それは、私たちが守りたいものと合わない。


 ノエルが腕を組む。


「ただし、反対は必ず出る」


 ラフィアが頷いて、次の紙を置いた。


「反対する側を整理します」


 紙には、短い言葉が並んでいる。


「利権を持つ家筋」

「中間屋」

「代書屋の一部」


 利権を持つ家筋。

 あの重い紋章が、頭に浮かぶ。


 ラフィアが淡々と言う。


「彼らは“遅さ”から利益を得ています。確認が遅い。だから不安が出る。不安があるから、抜け道が売れる」


 セイランが舌打ちしそうになり、飲み込んだ。


「困ってる人から、金を取るやり方か」


「困っているように見せるのも上手い」


 ノエルが続ける。


「『秩序のため』『確認のため』と言いながら、遅さを守る」


 正しい言葉を使われると、人は反論しにくい。

 だからこそ、こちらも正しさで勝つ必要がある。


 私は言った。


「なら、正しい側が“待たなくていい正しさ”を出す」


 ミーナが小さく頷く。


「正しいのに、待たないで済む形……」


 ラフィアが次の紙を置いた。


「味方になり得る層です」


「商人組合」

「代書屋の良心派」

「執事連盟」


 ミーナが目を丸くする。


「執事連盟って……本当にあるんですか?」


 ラフィアが上品に笑った。


「表に看板はありません。でも“場を壊さない仕事”をする人たちは、横で繋がっています」


 私は納得した。

 上流の世界には、上流の助け合いがある。

 それは、悪いことじゃない。使い方の問題だ。


 ノエルが言う。


「商人組合が動けば、現場の声がまとまる。代書屋の良心派が動けば、書類の流れが整う」


 私が続ける。


「執事連盟が動けば、上の席でも揉めずに話を進められる」


 カイルが短く言った。


「騒ぎにならない方が、相手は逃げにくい」


 その通りだ。

 騒がせたくない人ほど、逃げ道が減ると困る。


 ラフィアは頷いてから、私を見た。


「リリア様。紅茶の使いどころを、どう考えますか」


 紅茶。

 私の紅茶には真実を話させる力がある。

 けれど今日は、嘘を暴くために使うべきじゃない。


 私は言葉を選んで言った。

 この場の全員が同じ方向を向けるように。


「嘘を見つけて責めるためじゃなく、同意を取って本音を引き出すために使います」


 セイランが眉を上げる。


「同意?」


「はい」


 私は頷く。


「この仕組みが必要だと思う人に、『協力します』って言ってもらう。無理やりじゃなく、納得して」


 ノエルが少しだけ目を細めた。


「相手の口から言わせる。後で逃げにくいな」


「逃げにくい、って言うと意地悪に聞こえるけど」


 私は笑う。


「責任を分け合うためです。一人に背負わせないため」


 ラフィアが頷く。


「上品で、強い」


 そこへミーナが、手を上げた。

 学校みたいで少し可愛い。


「……私、上品に聞く練習してもいいですか」


「どうぞ」


 ミーナは咳払いをして、姿勢を正した。

 急に、声が丁寧になる。


「恐れ入ります。差し支えなければ、ひとつだけ確認してもよろしいでしょうか」


 セイランが吹き出した。


「おい、誰だよお前」


「ミーナです!」


 ミーナが真顔で返すから、余計に面白い。


 ラフィアが口元を手で隠して笑い、ノエルもわずかに口角を上げた。

 カイルは表情を崩さないが、肩が一回だけ揺れた。笑っている。


 私も笑ってしまう。

 笑いがあると、会議は続けやすい。


 ミーナは照れながらも続けた。


「その書類は、どこで確認できますか。……今、この場で確認できますか」


 私は頷いた。


「うん。すごくいい。相手を追い詰めないのに、逃げられない聞き方」


 ミーナが少しだけ胸を張る。


「役に立てるなら、嬉しいです」


 ラフィアが話を戻した。


「計画を形にしましょう」


 ラフィアは紙に、短く項目を並べた。


「公開の場で、確認できる番号を出す」

「照会を担当する人を決める」

「掲示板を、公式のものとして使う」


 ノエルが頷く。


「番号があれば、誰でも同じ確認ができる」


「担当が決まっていれば、窓口の混乱も減ります」


 私が言うと、カイルが短く言った。


「掲示が公式なら、勝手な話は通りにくい」


 ラフィアが小さく頷く。


「噂は早い。でも、公式の掲示が早くなれば、噂は弱くなる」


 セイランが前のめりになった。


「番号の話なら、俺に案がある」


 セイランは紙を出した。簡単な図だ。


「欠けとか癖とかじゃない。番号だ。刻印番号」


 ノエルが眉を上げる。


「紙に番号を入れる?」


「そう。印だけじゃなく、番号もセットで登録する。印影も登録して、番号で引けるようにする」


 私は頷いた。分かりやすい。


「番号が本物か、すぐ確認できる」


「番号だけなら偽造される。だから登録が要る。登録印影と照合できる形にする。完璧じゃなくても、手間が跳ね上がる」


 ノエルが低く言う。


「手間が増えれば、商売になりにくい」


「商売にならなきゃ、続かない」


 セイランの言い方は荒いが、結論はまっすぐだ。


 ラフィアがまとめる。


「私たちは、抜け道を潰すのではなく、安心して使える公式の道を作る」


 私は頷いた。


「そのために、合意を集めます」


 ラフィアの目が少し強くなる。


「まずは商人組合を味方にします」


 ノエルが確認した。


「いきなり上の家に当たらない?」


「当たりません」


 ラフィアは即答する。


「下から固めます。商人組合が『これが必要だ』と言えば、上の席でも無視しにくい」


 ミーナが小さく言った。


「みんなが困ってることですもんね……」


「そう」


 私はミーナに頷く。


「困ってる人が多いほど、味方は増やせる」


 カイルが短く付け足す。


「味方が増えると、相手は荒い手を使いにくい」


 その通りだ。

 荒い手を使えば、相手の顔が悪く見える。

 上の人ほど、それを嫌がる。


 私はテーブルの紙を見た。

 番号。照会担当。公式掲示。

 難しい言葉はない。

 でも、王都の形を変える力がある。


 真実を押しつけない。

 真実を、みんなで守れる形にする。


 そして最後に、言葉をまっすぐ置いた。


「真実は一人で守れない。だから、味方を増やす」

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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