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12:恋人(仮)とドキドキ温泉旅行 前編


 季節は春真っ盛り。厚手のコートはしばらくおさらばだ。

 花粉症の人には申し分ないが、私は春が1番好きな季節だ。

 冬の憂鬱な寒さが終わり、暖かい気候に包まれて命が芽吹く始まりの季節。


 そして今私達がいるのは……







 「見て颯人、京都タワー!」

 「ホントだ。現物見るのは初めてだよ」



 そう。ここは日本文化の街、京都。

 平日にも関わらず、京都駅前は観光客で賑わっていた。

 私と颯人は鞄とキャリーケースを持って京都駅の改札を抜けると、目の前にそびえ立つ京都タワーに歓喜する。


 なんで平日に私達が京都にいるかというと、遡ること1週間前。

 颯人が新しい料理家電を買いたいと言って一緒に買い物をしてた時、レジで福引きの抽選会がやっていた。三千円以上の商品を買うと1回クジが引けるルールらしい。

 ちょうど三千円の家電を買ったので、早速颯人がクジを引いた。どうせポケットティッシュくらいだろうと期待していなかったが、

 「大当たりー!1等は高級ホテル1泊券!!」

 



 ……………は?

 



 ガランガランと鳴り響く鐘の音と湧き上がる歓声と拍手。

 まさかの1等大当たり。賞品は京都の有名な高級ホテルのペア宿泊券。しかも平日宿泊すればドリンク飲み放題の特典付き太っ腹プレゼントだ。


 というわけで、私と颯人はお互いの都合に合わせて有休を取って1泊2日の京都旅行に繰り出した。のだが……


 「颯人ー。またこれやるのー?」

 「そうだ。そもそも、俺の幸運のおかげで豪華なホテルにタダで泊まって旅行を満喫することができるんだぞ。なんなら瑠衣だけ自腹でもいいけど?」

 「ぐっ……わかった」

 

 …さっきから何の話をしてるのかって?

 そう、颯人のプレゼン企画『リクエスト希望デート第二弾』の打ち合わせ中だ。


 前回、颯人のカメラを壊してしまったお詫びにとしたこの企画が思いの外颯人が気に入ったみたいで、今回は颯人が宿泊券をGETしてくれたお礼という名目で行うことに。

 しかも今回はご丁寧に颯人が念入りに計画した旅のしおり付きだ。


 「じゃあ、始めようか♪」

 「…はーい」

 上機嫌で手を繋ぐのを促す颯人と、しぶしぶ答える私。

 こうしてまた、リクエスト縛りの謎のデートが始まったのだった…。






 

 京都駅前でタクシーに乗り、まず始まったのは観光名所巡り。定番の清水寺から金閣寺・銀閣寺を散策し、満開の桜をバックにそびえ立つ建築物に魅了する………ところなんだが、私はそれどころではない。

 散策中ずっと手を繋いでいなきゃいけないし、記念撮影といって観光客の人に写真を撮って貰う時に颯人が私の肩を抱いてきたり。颯人が企画したリクエストに集中しなきゃいけなくて観光どころじゃなくなっている。


 観光のあとは、名物のおばんざいが売りのレストランでランチ。五種類のおばんざいとローストビーフがついた定食ランチを2つ注文し、向かい合わせで食べる。料理が趣味な颯人は、食べながら一品一品味の感想や今後の料理の参考にとメモを取ったりとイキイキして楽しそうだ。一方の私は、


 「あーん」

 ここでも颯人のリクエストの「デザートの食べ合いっこ」だ。

 2種類注文したチーズケーキを交互に食べ合う私達。颯人が一口くれたブルーベリー味のチーズケーキが全然喉を通らない。周りには他のカップルや女子グループもいて、2回目だけどやっぱり恥ずかしかった。

 すると、後ろにいた女子大生くらいの女子グループ達のヒソヒソ話が聞こえた。


 「ねぇ、前のカップルの彼氏めっちゃ格好良くない?」

 「わかる〜。爽やか系って感じでいいよね〜」

 「モデルとかかな?」


 女子グループの話を聞いて、改めて颯人を見る。

 今日はいつもの黒縁メガネではなく、細いフレームのお洒落メガネ。服装も黒のカーディガンに白Yシャツにグレーのチノパン。シンプルなモノトーンコーデだけど、チェックのストールでお洒落な着こなしをしている。

 普段の性格や馴れ合いで忘れているけど、颯人って結構モテるのかもしれない。



 「…でも、彼女の方はなんか地味だよね」




 えっ………今のって、私のこと?




 「あー確かに」

 「ブスってわけじゃないけど、隣りに並ぶとなんか、ねぇ…」

 「あれだったら私の方が可愛いし」


 ズキッ…


 彼女達の心ない言葉はズキズキ刺さる。

 私今どんな風に映ってる?

 颯人の隣りにいる私って、そんなに地味かな?

 彼女っぽく見えないのかな…


 心の中がどんどんドス黒く濁っていきそうだった。


 「…瑠衣?」

 目の前が真っ暗になりそうだった時、私は颯人の声でハッと我に帰った。


 「大丈夫か?顔色悪いぞ」

 「えっ…ううん、大丈夫。……ちょっとお手洗い行ってくる」

 無理に笑顔を作ってトイレへと向かった。



 トイレに入るや否や、すぐに洗面所の鏡を見た。

 今日の服装は水色Gジャンに小花柄のワンピースに黒のレギンス。今回も颯人が選んだコーデだ。決して地味じゃなく春っぽい装いだけど、問題は他にあった。

 最低限の化粧しか施していない顔。髪型もシュシュで束ねただけのお団子。変ではないが、あまりぱっとしない地味な感じだ。


 『隣りに並ぶとなんか、ねぇ…』


 さっきの女子大生達の言葉を思い出す。

 今まで推し活ばっかりに時間もお金も使っていたから、化粧とかに興味すら湧かなかった。

 仕事の時は最低限の下地やリップでどうにかなっていたし、家にいる時や颯人の前ではほぼすっぴんでいることが多かった。今までの元カレ達の前でもそうだった。


 こんなんじゃ愛想尽かされて当然だよね…。


 今まで振られたのは全部元カレが悪いとばかり思っていたけど、自分にも非があったかもしれない。改めてそう思った。

 いくら颯人が優しいからって、それに甘んじてたら駄目だ。せめて『休日交際』の間だけでも綺麗に着飾って、可愛い彼女として堂々と颯人の隣りに居られるようにしよう。一緒にいて颯人が惨めな思いをしないためにも。


 そう決心して、颯人のところに戻った。



 

 レストランをあとにすると、次に向かったのは着物のレンタル店だ。

 豊富な種類の着物が揃っていて、着付けやヘアセットはすべて専門のスタッフさんにお任せしてもらえる、カップルに人気のお店だった。

 ちなみにここでもリクエストがある。『お互いに似合う着物の色を選ぶ』だ。





 「うーん…こっちのストライプもいいけど…やっぱ颯人はシンプルな色が似合うかな」

 私は颯人に似合う紺色の着物を選んだ。


 「お、なかなかいいじゃん」

 「颯人はもう選んだ?」

 「うん。俺が選んだのは、これ」


 颯人が選んだのは、ピンクの桜模様が描かれた水色の着物だ。私はどちらかというと、黒や紫が良かったけど…。 


 「あー…こんな明るい色、私似合わない気が…」

 「そんなことないよ。瑠衣肌白くて綺麗だから、こういうピンクとか映えると思うよ」


 私は自信がなかったけど、颯人はゴリ押しで勧めてくる。

 今までピンクとか可愛い色は似合わないと思って避けてきたけど、ちょっとくらい冒険するのも…悪くない…かも。


 「……わかった。これにしよう」

 悩んだけど、私は着てみる決心をした。

 「わかった。なら先に着付けてもらえよ。俺は草履とか選んでくるから」

 そういうと、颯人は草履や足袋がある棚に移動した。私はスタイリストの人にお願いして着付けもらいに行った。


 10分後。あっという間に着付けが終わり、次はヘアセットをお願いした。美容室にありそうなセット台に移動され、私は鏡の前に座った。


 「セットですが、どのような感じにしますか?」

 「そうですね…」


 『なんか地味だよね』

 『あれなら私の方が可愛いし』


 お団子ヘアを(ほど)いている間も、さっき言われた言葉がずっと頭の中で流れてくるから、私は思い切った。


 「この着物に似合う可愛い感じにして下さい」

 「あ、はい。わかりました。…でもお姉さん、今でも十分可愛いですよ」

 接客業特有のセールストークだろうけど、今の私には響かない。


 「そんなことないです。…やっぱり男って女っ気ないとすぐ飽きられるんですかね?」

 「えっ…?」

 スタイリストさんの手が止まるが、私は話を続けた。

 「私、それでいつも振られるんですよ。『女っ気ない』『地味女』って。今一緒にいる奴は優しいからそういうこと一切言わないんです。でも…私のせいで、そいつにまで嫌な思いさせたくないんです。地味女連れてるって周りから言われないように、せめて今だけでも可愛くなれたらなぁ……って!?ど、どうしました!?」

 

 話をしている途中ふと前の鏡を見ると、スタイリストさんが目頭を抑えて泣いていたのだ。


 「彼氏さんのために…可愛くなろうなんて……素敵じゃないですか!!彼氏さんが羨ましいです!!」

 スタイリストさんが某熱血芸能人ばりに熱く語っている。

 あちゃ〜。もしかして、彼氏のために綺麗になろうと努力する健気な彼女に見えたのかな?そういうつもりじゃなかったのに。うちら『休日』だけのカップルってだけなのに…


 あらぬ誤解を与えてしまったことをちょっと反省していると、

 「わかりました。スタイリスト歴25年のキャリアにかけて、私があなたを誰もが認めるくらいの美女に生まれ変えて差し上げます!!」

 「いや……そこまでしなくていいです…普通くらいでいいので…」

 無駄にスタイリストさんの闘志に火をつけたことを後悔しつつ、終わるまでただひたすらじっと待つしかなかった……。






 全部のヘアセットが終わり店を出ると、入り口の向かいのベンチに颯人が座って待っていた。颯人は私に背中を向けて景色を眺めていた。

 

 颯人気づいてないなぁ…。よ~し、ちょっと驚かしてやるか。


 私は颯人に気づかれないようにゆっくり近づく。そして…


 「颯人っ!!」

 「わっ!!」


 後ろから呼ぶと、颯人は肩をビクッとさせて驚いた。もう絵に描いたような驚きっぷりだった。


 「びっくりさせるなよ瑠…」

 振り返った颯人は私を見て固まる。

 そりゃそうだろうなぁ…あんだけスタイリストさんが時間かけてセットしてくれたから。


 正直自分でもびっくりしている。

 マスカラとアイシャドーで目を大きく見せ、頬は着物に似合うように薄くチークを塗り、着物の色と同じ薄いピンクのリップで血色良く見せる。

 髪型も同じお団子ヘアだが両サイドを編み込み、着物と同じ桜と白いパールの髪飾りで仕上げている。

 自分でも惚れ惚れする仕上がりだ。成人式でもこんなに着飾ったことはない。


 「どうよ!なかなかの出来でしょ?馬子にも衣装って感じかな……ん?」

 我ながらの出来を堂々とお披露目していると、颯人がずっと手で顔を隠して目線を逸らしている。

 「ちょっとーちゃんと見て…」

 颯人の顔を覗き込むと、耳まで真っ赤になっていた。

 「………すごい、可愛い…よ」

 ギリギリ聞こえるか聞こえないかくらいのか細い声で、颯人はそう言った。



 えっ………………

 今………可愛い……可愛い…って……言った?



 …………えーーーーーー!?


 今、聞き間違えじゃないよね!?


 『可愛い』って!!

 『可愛い』って言ったよね!?


 やばいやばいやばいやばい!!


 顔がブワーッと赤くなっていくのがわかる。心拍数も一気に速くなる。



 「……………」

 「……………」


 お互い顔を真っ赤にしたまましばらく沈黙が続いたのだった………。



                〈後半に続く〉

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