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11:恋人(仮)の風邪の思い出


 『ごめん。今週は一緒に居られない』


 金曜日。終業まであと数時間を切った頃に、颯人から来た1通のLINE。

 

 どうしたかな…?

 

 『どうした?仕事忙しい?』

 私は上司に見つからないようにこっそりLINEを返した。すぐに返事が来た。


 『風邪引いた』


 風邪かぁ…

 そういえば颯人って昔から季節の変わり目になるとよく風邪引いてたっけ。


 「颯人君からのLINE?」


 先輩がこっそり聞いてきた。

 「あ、うん。颯人風邪引いたって」

 「あらら。じゃあ、今週はいつもの『休日交際』はなし?」

 「うん。仕事終わったら颯人ん家行ってみる」

 「あら〜看病しに行くなんて、しっかり彼女としてやってるね〜」

 先輩がニヤニヤと茶化してくる。

 「えっ…!?ま、まぁ彼女…だからねぇ…」

 

 この間のことを話してから、先輩があからさまに茶化すようになった。

 まぁ、今日の夜からならちゃんと『休日交際』としてのルールは守っているから、『彼女』であることは間違いではない。ただ…前みたいにルールだから、『彼女』をしているのとは…ちょっと違う感じが……


 あーー落ち着け私!颯人が風邪引いて心配だからって、何も特別なことじゃないんだ。昔から颯人が風邪引いた時何度も看病したし。

 そう、ただの看病。慈善活動と同じなんだこれは!


 私は恥ずかしさを誤魔化すようにキーボードをいつもの3倍速で叩きまくった。



 仕事が終わって速攻会社を出ると、近くの薬局で風邪薬を買い、その後コンビニに立ち寄った。


 「え~と…レトルトのご飯とポカリと、熱冷ましシートと……」

 

 看病に必要なものを籠に入れている間、何故か緊張のようなドキドキ感を感じる。

 今日だけじゃない。最近颯人に会いに行く前になると途端に緊張してくるし、身だしなみも前以上に気を配るようになった。


 先輩のいうとおり、颯人のこと………


 



 ……いやいやしっかりしろ私!!

 颯人のことはずっと幼馴染みとしてみてきたんだ。今まで以上に距離が近すぎたせいで変な情が出てしまっただけなんだ。きっとそうだよね、うん。

 そう自分に言い聞かせて、早く買い物を済ませようとレジに向かった。

 レジで順番を待っている時、ふと陳列棚に置かれたミカンゼリーが目に留まった。

 

 そういえば、颯人風邪引いた時いつもミカンゼリー食べてたなぁ…

 たしか小学4年の時。颯人が風邪で学校を休んで、学校帰りに颯人の家にプリントを届けに行ったら颯人がミカンゼリーを美味しそうに食べていたなぁ…


 私はミカンゼリーを2つ籠に入れて、そのまま会計を済ませた。

 





 コンビニを出て歩くこと15分。颯人が住んでいるのは、都内一等地にある高層マンションだ。何度か遊びに来たことあるけど、改めて見ると圧倒されるわ、こりゃ。

 近くにオフィス街があるだけあって階層も見上げるほどあり、シンプルなデザインの高そうなマンション。

 私が住んでいるマンションとは大違いだ。アプリ開発会社ってそんなに儲かるんだろうか…


 私は入り口の前で颯人に電話した。でも颯人は出なかった。仕方なく前に教えてもらった暗証番号で入り口のロックを解除して、エレベーターに乗り込んだ。颯人の部屋の階に着くまで、マスク装着とアルコール消毒を忘れずに行った。


 エレベーターが着くと、颯人の部屋がある1番奥まで歩いた。

 玄関の鍵を解除するには指紋認証が必要らしいが、私はすぐに解除することが出来た。颯人が私の指紋も登録してくれたのだ。


 「颯人ー。お見舞い来たよー」

 玄関の扉を開けて颯人の寝室がある奥の方へ声をかけた。しばらくすると、奥の方でガタンッと鈍い音がした。心配になった私は荷物を玄関に放ったらかして早足に部屋に入ると、キングサイズのベッドの側で颯人がうつ伏せになって倒れていた。


 「颯人大丈夫!?」

 私は慌てて颯人に駆け寄って声をかけた。颯人は「うーん…」と唸っていたが、生きているようだった。


 「あ゙―…瑠衣。ごめん…電話…気づかなくて…」

 声はガラガラ。顔は赤く火照っている。

 ベッドに寝かせて颯人のおでこに熱冷ましシートを貼った。颯人はシートの冷たさで心地良さそうな顔をする。

 体温計で熱を測ると、『38.7』と表示されてた。

 「うわっ高熱じゃん!医者行ったの!?」

 「一応…オンラインで…。薬は明日届く…」

 顔まで布団を被ってか細い声で喋る颯人。熱でだいぶ弱っているようだ。

 「とりあえず、寝てな。今お粥作るから」

 「へー…この前ハンバーグ焦がしたのに…作れるのか…」

 ムカッ

 「……やっぱ帰ろうかな?」

 「ごめんなさい…有り難くいただきます」


 具合悪くてもいつもの茶化す口振りにちょっとだけ安心して、買い物袋を持ってキッチンに向かった。

 

 全く失礼しちゃう!お粥くらい作れるっつーの!


 …まぁ、ハンバーグ炭になるくらい焦がしたのは事実だけど…


 

 シンプルなデザインだけど、沢山の料理グッズが置かれたキッチンスペース。冷蔵庫の中を確認すると、食材や調味料がぎっしり。

 料理が趣味って言うだけあって調味料は専門店にしかないような珍しいものがあるし、料理グッズも通販で見たことある高そうなものばかり。

 この間一緒に買い物行った時、調味料売り場で熱心に選んでたもんなぁ…。


 とりあえず難しい調味料やグッズには手を付けず、無難に鍋と塩を用意してお粥作りを始めた。



 「えーと…水ってどのくらいだっけ…?スマホで調べて…」


 「うわっ!?火強過ぎた!!やばい、焦げる!!…あちちちっ!!」


 「えーと…塩はこのくらい……いや、もう少し入れて……ってしょっぱ!!」








 作り始めて1時間。なんとか食べられるお粥が完成した。その間にりんごを摩り下ろして、ミカンゼリーを用意したりした。

 お粥と摩り下ろしりんごとミカンゼリーをトレーに乗せて、颯人がいる部屋に持っていく。


 「颯人、起きてる?お粥出来たよ」

 声をかけると、颯人はゆっくり起き上がった。

 

 「あ゙―…良かった。焦がさず出来たんだな…」

 「…お粥ぶっかけようか?」

 「すいません…瑠衣様ごめんなさい…美味しいお粥…作って下さり、ありがとう…ございます…」


 全く、具合悪い時くらい素直になればいいのに。

 私はサイドテーブルにトレーを置くと、


 「瑠衣……お粥…食べさせ…て」

 「えっ!?」


 心臓が飛び出るくらいびっくりした…

 あの颯人からまさかのあーんのおねだりなんて…


 私はちょっと恥ずかしかったけど、病人のおねだりを断るわけにはいかなくてしぶしぶ言うことをきいた。レンゲでお粥を掬って、軽く冷ましてから颯人に食べさせる。

 ゆっくりだけど、無心でお粥を食べる颯人の姿が赤ちゃんみたいでちょっと可愛くみえた…。

 


 「あ゙―良かった…塩と砂糖…間違えてなくて…」




 ……前言撤回しよう






 お粥を半分食べて、買ってきた市販の風邪薬を飲んで一息つくと、颯人はまた横になる。

 …残ったお粥はまた温めて出そう。あと、りんごとミカンゼリーは冷蔵庫に入れて…っと


 トレーを持って部屋を出ようとした時、何故か動けなかった。ふと後ろを見ると、颯人が私の服を引っ張っていた。


 「どうした?」

 聞くと颯人は服を離して手の平を上に差し出した。


 「…………て」

 「ん?」

 颯人が何か言っているが、声が小さくてよく聞き取れなかった。すると、颯人が私の手を握って自分の方に引っ張った。

 私は颯人に倒れ込みそうになったが、足で踏ん張って倒れるのを阻止した。急なことでびっくりしたが、颯人の近くにきたことで颯人が何を言ったかわかった。


 「手……繋いでて……俺が…寝るまで…」

 「んえっ!?」


 私は思わず変な声が出てしまった。こんなに甘えてくる颯人は見たことなかった。

 まぁ、風邪引いた時って甘えたくなるよね…


 「わかったよ。しばらくこうしてるから、ゆっくり休みな」

 私は風邪を言い訳に颯人の要望を叶えてあげることにした。


 「…今日の瑠衣、俺のお願い…叶えてくれて…嬉しいよ…」

 はにかんだ笑顔を見せる颯人。その顔に不覚にもドキッとしてしまう。

 「当たり前じゃん……だって…」

 「だって?」

 「………………恋人……だもん。……()()

 以前ダブルデートの時に颯人が言った言葉を思い出して、照れくさかったけど同じように返した。

 颯人は少し驚いていたが、安心したのか気づいたら静かに眠っていた。


 颯人の小さな寝息が響く部屋。颯人に手を繋がれてて動けない私。

 仕方ないから、颯人の寝顔を観察した。

 手入れされた眉に肌、くっきりとした鼻筋と長い睫毛に薄い唇。

 普段眼鏡のせいで埋もれているが、颯人ってかなりイケメンなんだと改めて思う。

 こんなにイケメンで性格良くて仕事も私生活も完璧な男が、私みたいな女と一緒にいるのが奇跡のようだ。『幼馴染み』っていう特権がなかったら、私なんて見向きもされないだろう…。


 しばらくそんなことを考えていると、いつの間にか私も眠くなってきた。時計を見ると夜10時を回っていた。

 仕事終わりに色々世話を焼いていたら、さすがに疲れてきた。ちょっとだけ仮眠しようと、布団に頭を乗せて目を瞑った…。









 『ゲボッゴボッ』


 あれ…?私…咳してる?

 今映っている景色に見覚えがあった。私の小さい頃の部屋の中だった。

 

 あぁ…そうだ。私昔一度だけ風邪引いて寝込んだことがあったな。確か小学…5年だったかな…?



 コンコンッ


 扉をノックする音が聞こえた。


 ガチャッ

 『瑠衣ちゃん、風邪大丈夫?』

 扉を開けて入ってきたのは、小学生の頃の颯人だ。感染予防にしっかりマスクを付けている。


 うわ~。颯人昔はこんなに小っちゃかったなぁ…。


 『プリント、届けに来たよ』

 そう言うと、颯人は私の勉強机の上にプリントを置いた。


 『は、颯人君…』

 私はか細い声で颯人を呼んだ。

 『瑠衣ちゃん、どうした?』

 

 私は小さい手を颯人の方に伸ばした。


 『手…つないで…私が、ねるまで…』


 あれ?これさっき颯人が私にお願いしてたのとおんなじだ。


 『えっ!?えっ…と……わかった』


 颯人はちょっと慌ててたけど、両手で私の手をギュッと握った。


 『…起きたら…おかゆ…食べさせて…』

 『う、うん。起きたら…ね』

 

 



 あぁ…思い出した。


 私も颯人と同じようにおねだりしてたんだなぁ…。まぁ、あの後起きたら颯人もう帰ってて結局お粥食べさせてくれなかったけど…。


 私も結構、甘えん坊だったんだなぁ………。









 ………………


 …………………………


 …………………………………



 「……………んっ…」

  

 眩しさで目を覚ます。いつの間にか朝になっていた。

 肩には羽織った覚えのない毛布があり、ベッドには颯人の姿がない。


 「颯人……?」

 「おはよう、瑠衣」


 後ろから声がして振り向くと、昨日より調子良さそうな颯人がお粥が乗ったトレーを持って来た。



 「颯人…具合大丈夫なの…?」

 「あぁ。まだ本調子じゃないけど、昨日よりは良くなったかな」


 念のためおでこに手を当てると、確かに少し熱が下がっていた。

 颯人はトレーを私の前に置くと、口を開けて待っている。


 「どうしたの?」

 「またお粥食べさせて」

 

 またおねだりかい!!何歳だよお前は…って言いたいところだけど…


 「…風邪治るまで…だからね…」

 「やった♪」


 こんな上機嫌なら、もう風邪治ってるんじゃね?


 なんて思いつつも、颯人が温め直したお粥を食べさせている自分がいるのだった…。





 こうして風邪が治るまでの間、颯人の要望に答える休日を迎えるのであった…。

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