プロローグ
初めまして、美界です。
連載小説2作目は初の恋愛小説でございます。
恋愛小説は苦手分野ではありますが、急にアイデアがわいて『どうしても書きたい』という衝動から書いたものです。
不慣れな部分もございますが、最後まで見て頂けると有難き幸せでございます。
時代は令和。個性や価値観が尊重される現代だ。
『同性愛』『事実婚』『別居婚』などの恋愛観結婚観も多様化する中、現在若者達の間で『恋愛キャンセル界隈』というのが流行っている。
お風呂や外出といった、日常生活の中で面倒くさいと感じることを表現した『○○キャンセル界隈』の1つで、最近新たに誕生したカテゴリーである。
理由として『理想とのギャップに疲れる』『タイパ・コスパが悪い』『趣味や1人時間を優先したい』など様々。近年技術の発展により、世間では1人でも楽しめる趣味や娯楽で溢れかえっている。
しかし時代が変わったとはいえ、『恋愛』にしろ何にしろデメリットばかりではない。『恋愛』をする中で生まれる喜びや発見、『恋』をすることで人が成長することはあながち嘘ではない。
そんな理想と現実の葛藤の中で私、花崎瑠衣は新たな『恋愛観』に出会ったのである…。
今日は週の後半、金曜日。世間では『華金』と呼ばれていて、暦通りの生活を送る人達にとっては待ち遠しい日だ。
5日間の激務を終えた後、飲みに行こうか買い物しようか夜更かししようかなど、意識は休日に向かってワクワクしだす。
私もその1人だった。
「あ〜〜〜〜。集中力切れた……」
時刻は午後4時。凝り固まった首を回すとポキポキ音が鳴る。
出勤してから会議用の資料を作ったりデータ入力に追われて、目や体は限界に達している。
終業まであと1時間…よし、エネルギーチャージしよう
私は鞄からスマホを取り出して、待ち受け画面を開いた。画面には、今人気急上昇中のアイドルグループ『かんさい男子』の1人、『チヒロ君』が映っている。画面の向こうのチヒロ君はウィンクしながら笑っている。
はぁ〜〜〜〜〜♡♡♡♡♡♡チヒロ君、マジ神♡♡♡♡♡♡♡チヒロ君しか勝たん♡♡♡♡♡
『チヒロ君』に癒されて、疲れが溶けるように消えていくのがわかった。
私が『かんさい男子』にハマったのは5年前。当時付き合ってた彼氏が好きだったアイドルグループだったのだ。最年少で中性的な可愛らしさを持つチヒロ君に心を奪われ、彼氏と別れた後もグッズを集めたりライブに行ったりしている。そう、私の趣味はいわゆる『推し活』だ。
よし、チヒロ君のおかげで頑張れるぞ!
しばらくしてチヒロ君を堪能し終わると、スマホを鞄に閉まい、ラストスパートに向けて束ねた髪を大きなシュシュで縛り直して再度仕事に取り掛かった。
終業時間ギリギリにやっと頼まれてた仕事を終えると、パソコンを閉じて帰り支度を始めた。
「瑠衣、今週も颯人君のとこ?」
支度を済ませて帰ろうとした時、隣りのデスクの戸田まりか先輩に声をかけられた。1つ年上のまりか先輩は、仕事が出来て皆から頼りにされているお姉さん的な存在。緩く巻いたセミロングヘアが印象的で、私は密かに憧れていた。会社では1番仲良くて、プライベートでも一緒に出かけたりする。
「うん。明日は『かんさい男子』のライブDVD見て、日曜日は買い物行くんだ」
先輩ではあるけれど、仲がいいから会社でもタメで話す。最初こそ敬語だったけど、先輩から『タメでいいよ』とお許しをいただいて、少しずつタメで話すようになった。
鞄のジッパーを閉めてコートを羽織ると、私は挨拶をして足早に退社した。
(花崎さん、楽しいそうだね)
(なんか土日は彼氏と過ごすらしいよ)
(えー花崎さん、彼氏いたんだ)
(いつもアイドルのことばっかりだったけど、ちゃんといい人がいたんだね〜)
(いいなぁ、彼氏持ちは)
他の女性社員の羨ましがる声に聞こえないふりをしつつ、私は背中越しに優越感に浸っていた。
そう、私には推し活と同じくらい大事な彼氏がいるのだ。
会社から出ると、近くのスーパーに立ち寄る。土日必要な食料を買い込んで、ものの10分で買い物を終わらせてスーパーをあとにした。
スーパーから歩いて10分、住宅街の中にある7階建てのマンションに入る。エレベーターで最上階まで上がると、突き当たり1番奥の部屋のドアの鍵を開けた。
「ただいまー」
玄関を開けて中に入ると、奥から黒縁メガネのイケメンが顔を出す。こいつが今の彼氏、月島颯人だ。
「おかえり、瑠衣」
颯人は多分料理中だったんだろう。チェックのエプロン姿に右手にフライ返しを持って立っている。
背が高くて細身な体型。パーマをあてたお洒落な黒髪に、ファッションだからといって掛けている度数が入ってない黒縁メガネ。エプロンの下は仕事で着る白Yシャツとグレーのチノパン。
見た目だけならモデルと間違われるくらい綺麗に整っている。しかし、颯人は外見だけではない。
「あ、この匂い…もしかして焼き鮭?」
奥からバターと醤油の香ばしい匂いが漂う。
私は焼き鮭はバター醤油で食べるのが大好きだ。さすが颯人、私の好みがわかってる。
「うん。もうすぐご飯出来るから、先着替えて来なよ」
「はーい♪」
こんな感じで、颯人は料理上手で気が利く奴だ。
私は上機嫌で着替えるために別の部屋に入った。
着替え終わった頃には、テーブルに2人前の料理が並んでいた。
ご飯と豆腐とワカメの味噌汁、メインの焼き鮭に付け合わせの肉じゃがとほうれん草のお浸し。自分の大好物を中心に、栄養バランスの整った夕食に思わずよだれが出そうになる。
「颯人ってホント料理上手だよね。今までの元カレなんて料理どころか家事ひとつ出来なかったもん」
「まぁ、俺は料理が趣味みたいなもんだからね。仕事の息抜きにもなるからね」
颯人が温かい緑茶を用意すると、そのまま仲良く食卓を囲んだ。
夕食が終わると、一緒に片づけをしてソファに座ってテレビを見る。別々にお風呂に入って交互に髪の毛を乾かし合う。
平日の激務に耐え、温かいご飯とお風呂を堪能したからか急に眠気に襲われ眠ってしまった。
朝になり目を覚ますと、キングサイズのベッドの中にいた。颯人は既に起きていて朝食を作っていた。
トーストと目玉焼きに無添加のウィンナー、サラダとフルーツヨーグルトにオレンジジュースの洋風な朝食の代表格だ。
朝食が終わると、掃除洗濯などの家事を2人でこなして、それが終わると私の希望で『かんさい男子』のライブDVDを一緒に見た。
昼食の後は颯人の希望で映画を2、3本見た。2人で夕食を摂ってまた朝を迎える。
日曜日は、一緒に買い物に出かけた。ショッピングモールで服を選んだり、雑貨店で小物を見たり、道中ずっと手を繋いでいた。
すれ違う人達は皆『素敵なカップルだね』と微笑ましく見ていた。
そう、私達は誰から見ても仲睦まじいカップルだ。
でも、夕方になると私達の空気は一変する。
「もうすぐ時間だね」
「…そうだね」
買い物が終わってマンションに戻ると、部屋の荷物を持ってマンションを出る。手を繋がず歩き、途中のT字路で止まる。
「じゃあ、また金曜日に」
「うん、またね」
そういうと、私達は別々の方向に歩きだした。
しばらくして、私は本来の自分の家である2階建てのアパートに着いた。
先ほどのマンションとは打って変わって1Kの部屋。
小さなキッチンを抜けると、奥は『かんさい男子』のグッズが所狭しと置かれたヲタク要素全開の寝室。
荷物を置くと、そのままの格好でベッドにダイブする。
お泊りして一緒にご飯食べて映画見て買い物に行く。これが私達が望む理想の『恋人』の形だった。
また明日から頑張ろう…
私は部屋着に着替えると、眠る直前までライブDVDを見た。
私と颯人は、普通のカップルではない。
週末だけの、『休日限定カップル』なのだった…。




