第8話:続レベルアップとスキルの獲得
翌朝、俺はリリィと共に再び森の奥深くへと向かっていた。ポイズンスライムでは経験値が得られなくなったため、次の狩場への移動だ。
「Lv.5からLv.10へのレベル上げは、ポイズンスライムのように安全な場所はないわ」
リリィは前日の夜にこの森の次のレベルに進むためのモンスター情報を教えてくれていた。
「次のターゲットはフォレストウルフ。Lv.7〜10の個体が多く生息していて、ポイズンスライムとは比べ物にならないほど敏捷が高いわ。でもその分、経験値効率はいいわね」
俺は前日のステータスアップで多少自信をつけていたが、Lv.7のウルフと聞くとやはり肝が冷える。俺の敏捷はLv.5で19だ。
「ウルフの敏捷はだいたい30~40。今のあなたの敏捷では、通常の動きで攻撃を避けるのは不可能よ」
「マジかよ、安全マージンは?」
「安全マージンを取っていては、Lv.10にはいつまで経っても到達できないわ。」
リリィは立ち止まり、俺に真剣な目を向けた。
「概念スキル以外のスキルもあなたは少ないし、弱いわ。新しいコモンスキルは、反復練習か高額なスクロールでしか覚えられない。あなたにスクロールを買うお金はないわよね?だから、戦闘中にウルフの攻撃を躱し続けることで、『回避スキル』を自力で覚える。これが今日の目標よ」
(この女めちゃくちゃ厳しいな。ウルフって狼だよね?普通にめちゃくちゃ怖いんだが。あとスキルって反復練習で覚えられるんだな。スクロールってのもあるみたいだし、できればそんな命懸けの反復練習じゃなくて、スクロールを大量に仕入れてスキルを覚えたい。俺の安全マージンはどこにあるんだ?)
回避のスキル自体は自分よりレベルが高く、俊敏が他ステータスと比較して高いモンスターに対して回避活動を集中して実行することで覚えられることがあるらしいので、このモンスターで覚えておきたいとのことだった。
森を進み、獣道のような場所でフォレストウルフに遭遇した。
「鑑定!」
『フォレストウルフ:レベル7』
Lv.7のウルフは、まるで矢のように速い。そして、鋭い牙と爪が獲物を狩るための純粋な殺意を秘めていた。
「HPは40!あなたの攻撃では、1回の攻撃で4〜5しか削れないわ。約10回は短剣を叩き込む必要がある!」
ウルフは俺に向かって低く唸り、一瞬で間合いを詰めてきた。
(早い!なんだこのスピードは!?)
俺は本能的に短剣を構えたが、ウルフの爪は俺の予想より遥かに速く、脇腹を深く裂いた。
「ぐっ!」
「今の攻撃でHPが19から14に減ったわ!!」
(強すぎだろ!?俊敏だけ高いとかじゃないの?!)
俺は指示通り、ウルフの次の攻撃を回避しようと横へ跳んだが敏捷が足りず、再び肩を浅く切られた。
(くそっ!避けたつもりなのに追いつかれる!)
ウルフの攻撃はまるで予測不可能で、俺の反射神経を凌駕していた。HPがみるみる減っていく。これは、安全マージンどころか即死マージンだ。
「回避!回避!回避を繰り返すのよ!」リリィの指示が響く。
俺はもはや反射で動いていた。ウルフの牙が自分の喉元を狙った瞬間、体を紙一重で捻り、爪が頬を掠めた瞬間、足を軸に半回転してその場を離脱する。
命の危険に晒されながら、俺の意識は「どうすればウルフの攻撃が当たらないか」という一点に集中していた。
結局回避らしい行動ができたのは1回だけで、HPが0に近づき見かねたリリィがウルフを倒した。
その後もリリィの回復魔法でHPを回復しつつ、フォレスト・ウルフとの戦闘を繰り返し、5回目の戦闘でやっと「回避Lv1」を手に入れた。
新しいスキルを獲得したが、あくまでもLv1なので漫画みたいに相手の行動がスローモーションに見えるとかそういうわけでなかった。ただ、ウルフの鋭い突進が、少しだけゆっくりに感じ、「どこに動けば避けられるか」という情報がなんとなく分かる感覚だ。
(今はなき火魔法とかと比べると、めちゃくちゃ有用だな。あのクソ魔法、線香花火しか出せなかったからな。マジで生贄にして正解)
俺は初めてウルフの攻撃を完全に躱し、背中に短剣を突き刺した。
「ヒュウッ!」
ウルフは甲高い悲鳴を上げ、HPを一気に削られる。
(いける!このスキルがあれば!)
俺はその後も、新しい『回避Lv.1』を使いこなし、ウルフの攻撃を紙一重で躱しながら、その隙に短剣を突き立て続けた。リリィから回復を受けながら、俺は丸一日かけてフォレストウルフを十数匹倒した。
「ステータス!」
【ユーマ・カエデ】
種族:人間(異世界転移者)
レベル:10
HP:27 (27:31-4)/ MP:31(31)
筋力:27(25+2) / 魔力:34 / 耐久:30 / 敏捷:28
コモンスキル:『鑑定Lv.3』『短剣術Lv.2』『生活魔法Lv.1』『錬金術Lv.1』『回避Lv.2』
概念スキル:『刹那の停滞エターナル・モーメントLv.0』
武器:錆びた短剣
レベルが10に上がり、HPとMPが大きく増加し、『鑑定』と『回避』のスキルレベルが上がった。
夕方、俺はリリィと並んで帰路についていた。
「よくやったわ、ユーマ。これで概念魔法の実験もできるわね。その分、あなたのHPは危なかったけど」
安全マージンを取って強くなりたいと思っていたが、この世界では死にかけなければ、コモンスキルすら得られないという、痛すぎる現実を思い知らされた。
(最初からいくつかスキルがあったのは幸運だったのかもな。ごめんな火魔法)
帰って夕食にした後、リリィは今から概念魔法の実験をしようと提案してきたが、俺は疲れ果てていたため、明日の朝にしようと丁重に断りを入れた。
(明日いよいよ概念スキルの実験か。リリィは今からやろうと話をしてきたが、いつこの場所が教団に見つかるかわからない危機感から言ってたんだろうな。リリィと一緒に生活してレベル上げして、なんだかんだ俺は少し余裕が出てきてしまっているかもしれない。改めて気を引き締めて頑張ろう)
そんなことを考えながら深い眠りについた。




