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スキルを一つ捧げよ。血の滲む努力で得た有用スキルを破壊し、Lv.を下げる僕は異端者として常識を裏切る。  作者: 丈禅


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第20話:苦労した先に

「……はぁ、はぁ……」


ストーン・ゴーレムの巨体が崩れ落ちた後、俺とリリィはその場に座り込んだ。

肩で息をしながら、霞む視界の中でリリィを見る。

彼女の顔も青ざめ、杖を支えにようやく立っている。


「結局、何も覚えられなかったな……筋力ブーストも、他の攻撃スキルも。

このままじゃ、次も消耗戦だ。」


俺の言葉に、リリィは小さく首を振った。


「ええ……。毒が無効化されるだけで、ここまで戦術が崩れるなんて思わなかった。

あなたの【短剣術 Lv.2】と素の筋力では、この階層の耐久力を持つモンスターを倒すには効率が悪すぎるわ。

私のMPも限界。このままゴーレム狩りを続けるのは自殺行為よ。」


「……打つ手は?」


リリィは少し考え込み、バッグから古びた羊皮紙を取り出した。

その地図には、赤い印がいくつも記されている。


「これ、リアンから買った“旧調査地図”よ。

商会がかつて第3層の魔力脈を調べて記したものらしいの。

魔力が循環する交差点、つまりアイテムドロップが発生しやすい場所が印で示されているわ。」


彼女の指が、地図の中央をなぞった。


「ここ。“迷路区画”。過去に希少スキルが落ちた記録もあるけど……

同時に、被害が多いエリアみたい。」


俺は短く息を吸い込み、うなずいた。


「危険でも、やるしかない。」


「わかってる。でも、絶対に無理はしないで。」



途中、何度もストーン・ゴーレムと遭遇した。

さらに、地面を這うように突進してくる『マッド・クローラー』(Lv.16)が現れる。


「くっ……!」


ヌルリとした体躯が跳ね上がり、俺の肩を掠めた。

リリィのヒールが追いつかなければ、すでに何度も致命傷を負っていた。


「ユーマ! あいつら、毒も通らない! 物質系と軟体系が混ざってるわ!」

「……知ってる! だが、逃げてばかりじゃ前に進めねぇ!」


【回避 Lv.2】で爪を躱し、反撃の短剣を突き立てる。

だが、粘着質の外皮に刃が滑る。致命傷には程遠い。


(回避は通じる。だが、火力が……足りない!)


浅い傷が積み重なり、リリィのMPも目に見えて減っていく。


「このままじゃ、ポーション代も稼げない……どこかで打開しないと!」


焦燥が喉を焼く。

決定打に欠ける俺たちは攻撃をしつつも倒しきれず、

なんとかモンスターから逃げながら目的地を目指した。



数時間後、ようやく“迷路の広間”に辿り着いた。

広大な空洞に無数の通路が絡み合い、足元には魔法陣の亀裂が走る。

そこは、確かに異常な場所だった。


「ここが……高ドロップ地点、か。」


「ええ。でも、モンスターの密度も異常よ。」


リリィの言葉を裏付けるように、通路の奥から次々と現れる影。

ストーン・ゴーレム、そして鋼の鎧に八本脚を持つ『スパイダー・ナイト』(Lv.18)。


「くそっ……! これが“高ドロップ地帯”か!」


俺は毒が効かない敵を避け、スパイダー・ナイトに狙いを定めた。

こいつなら毒が通る可能性がある――それだけを信じて短剣を構える。


「――刺せッ!」


刃が甲殻を貫き、淡い緑の霧が立ち上る。

ようやく“毒ダメージ”の表示が出た。


「通る……! このタイプには効く!」


連戦。

1体、2体、3体――しかし、ドロップするのは魔石や汚れた鎧の欠片ばかり。


「リリィ! 成果は!?」


「……素材だけ。スキルは落ちてないわ。」


息を荒げながら、リリィが答える。

その顔には焦燥と疲労が混じっていた。


「このままじゃ、私のMPが尽きる。

それに……この広間、湧きすぎてる。倒しても、すぐ次が来るわ!」


振り返ると、通路の奥から複数のゴーレムが追いかけてきているのが見える。

背後にはスパイダー・ナイトの群れ。完全に挟まれた。



「――逃げ場、なし、か。」


俺は歯を食いしばった。

残る手はひとつだけ。


「リリィ、下がれ!」


「まさか、使う気!? 今のHPで――!」


「ここで死ぬよりマシだ!」


胸の奥が灼けるように痛む。

俺は右手を握りしめ、叫んだ。


「――刹那の停滞!」


世界が凍りついた。

音が消え、時間の流れが止まる。


全身の血が逆流するような感覚の中、俺は短剣を握り直す。

今のステータスで、HPをある程度残したまま発動できる時間は――せいぜい四秒。

動かぬ世界の中、俺だけが動き、敵の急所を突き抜いていく。


刃が甲殻を裂き、粘液を散らす。

そして胸の痛みが訪れ、スキルの効果が終わる。


世界が再び動き出した瞬間、スパイダー・ナイトが数体崩れ落ちた。


「っ……ぐ、ああああ!」


胸が締め付けられる。視界が赤く染まった。


「わかってる……でも、これで……逃げられる!」


俺は荒い息のまま立ち上がり、倒したモンスターのドロップを掻き集めた。



そして、その中に――異質な光。


小さな羊皮紙の巻物が、淡い青光を放っていた。


「スクロール……! スキルドロップだ!」


迷う暇はなかった。

俺は即座にそれを使用する。


システムメッセージが、脳裏に浮かぶ。


【コモンスキル『錬金術 Lv.1』を新規に獲得しました】


一瞬、呼吸が止まった。


「……は?」


リリィも呆然と立ち尽くす。


「錬金術って……それ、あなたが最初に“生贄”にしたスキルじゃ……」


「くそっ……よりによって、一番いらないやつが戻ってくるとはな……!」


握り締めた拳が震える。

求めていたのは火力、攻撃、突破口――

それなのに戻ってきたのは、“かつて捨てたもの”。


リリィは、わずかに微笑んだ。


「でも……概念スキルの生贄に使えるわ。

無駄じゃない。今は、生き延びることが優先よ。」


俺は無言で頷き、血に濡れたナイフを鞘に戻した。


「くそ……! 行こう。ここから抜けるぞ。」


リリィの灯すヒールの光が、静かな暗闇を再び押し返していく。


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