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スキルを一つ捧げよ。血の滲む努力で得た有用スキルを破壊し、Lv.を下げる僕は異端者として常識を裏切る。  作者: 丈禅


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第19話:毒が効かない

俺たちは、ダンジョンの第2層と第3層を繋ぐ重い石の扉を押し開けた。

途端に、空気が一変する。


湿った冷気と、鉄が錆びたような独特の匂いが鼻を刺した。

これが第3層の空気だ。


「ここよ、ユーマ。第3層のモンスターはLv.16から19が中心みたい。

 Lv.17のあなたなら戦えるはずだけど、油断しないで」


「まずは毒攻撃で削りながら進むぞ」


俺たちは慎重に足を進めた。

第3層の通路は第2層に比べると石造りの壁が分厚く、

古代の巨人が住んでいたかのような圧迫感がある。


そして、最初の獲物が崩れた柱の影から姿を現した。


「ストーン・ゴーレムだわ!Lv.19よ!かなり耐久が高いモンスターよ!」


リリィの声が緊張を帯びる。

巨大な岩塊が、鈍重な足取りでこちらに向かってくる。


俺はトラッパーナイフを構え、即座に行動に移った。


「ハッ!」


岩の巨体の隙間を狙い、踏み込んでナイフを突き立てる。

感触は、硬い岩に浅く刃が食い込む程度だ。

おそらくほとんどダメージを与えられていないはずだ。


ナイフを引き抜いた瞬間、【毒攻撃 Lv.2】が発動し、薄緑色の霧がゴーレムの岩肌を覆う。


「よし、これで時間稼ぎだ」


俺は【回避 Lv.2】でゴーレムの鈍い振り下ろしをいなし、

毒のスリップダメージが発生するのを待った。


しかし、ゴーレムに毒が効いている様子がない。


「……なんだ?」


俺が目を凝らすと、ゴーレムの岩肌に付着した薄緑色の霧が、

まるで乾燥した岩に水が染み込むように、すぐに霧散していくのが見えた。


「ユーマ!伝えられてなくてごめんなさい!このゴーレムは毒が効かないわ!」


リリィが叫んだ。


「このゴーレムは物質系よ!毒や状態異常をほとんど受け付けない耐性を持っている!」


俺の戦術の根幹が、一瞬で崩れ去った。


「くそっ!」


毒による『確定的な削り』という切り札を失った今、俺の攻撃手段は【短剣術 Lv.2】のみだ。


俺は焦りながらも短剣術で何度もゴーレムの急所を狙い続ける。

ナイフがゴーレムに当たるたびに、鈍い金属音が響く。


「削れない!Lv.2の短剣術じゃ、こいつの耐久を崩すのに時間がかかりすぎる!」


Lv.17の素の筋力と、Lv.2のスキルでは、

Lv.19の物質系モンスターの耐久力を崩すには決定的に火力が足りない。

リリィがヒールで俺の消耗を支えるが、このペースでは彼女のMPが先に尽きるだろう。


「だめよ、ユーマ!毒による継続ダメージがない消耗戦は最悪だわ!この戦術はもう通用しない!」

リリィの声が切羽詰まっている。


俺はゴーレムの岩の腕を躱しながら、強く歯を食いしばった。


(毒という一点突破の戦術が駄目なら、純粋な火力を上げるしかない。

ランダムドロップに頼るのは危険すぎる。体得で覚えるしかないスキル……)


俺の脳裏に、リリィの過去の言葉が蘇る。特定の動きを極限まで反復することで、スキルは覚醒する。


「リリィ!この状況で反復練習で覚える可能性があるのは、純粋な火力スキルだ!」

俺は叫んだ。


「このゴーレムとの戦闘で、ひたすら自分の筋力を限界まで押し上げる攻撃を試してみて!そうすれば、『筋力ブースト Lv.1』のようなスキルを覚えられるかもしれない!」


俺は【短剣術 Lv.2】を一旦頭から締め出す。

ナイフの「斬る」という概念を捨て、ナイフを「鈍器」として使うことを意識した。


「うおおお!」


俺は全身の筋力を一点に集中させ、ナイフの峰に体重を乗せてゴーレムの岩肌を破壊するように叩きつける。


ガツン!ガツン!


短剣術とは異なる、素の筋力頼りの野蛮な攻撃。

俺の筋力が限界まで引き出され、ナイフが軋む。

リリィのヒールがなければ、確実に自滅行為だ。


だが、どれだけ叩きつけても、システムメッセージは流れない。


そして、ヒールを連発していたリリィのMPが限界に近づく。


「ユーマ!もうMPが持たないわ!スキルは!?」


「くそっ、間に合わない!」


俺は焦燥に駆られながら、最後に渾身の力を込めてナイフを振り抜いた。

短剣術でも筋力ブーストでもない、ただの素の筋力と勢いを乗せた一撃が、

ゴーレムの岩の核をかろうじて貫く。


ゴーレムは動きを止め、その巨大な体が崩れ落ちた。


俺は地面に膝をつき、荒い息を吐いた。体に満ちる疲労感。

しかし、頭の中は冷え切っていた。


「ギリギリ勝てたが、ボスでもない通常モンスターにこの苦戦度合い……」


リリィが駆け寄ってくる。彼女の顔も疲れ切っていた。


「毒攻撃が通じないどころか、毒攻撃を活かすための火力スキルも得られなかった。この層は、短剣という細い武器と、Lv.2のスキルのままでは通用しないわ。次の戦闘スキル、特に火力の高いスキルを、急いで獲得する必要があるわね」


俺たちは、第3層の厳しさと、今の自分が持つ力の限界を痛感した。

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