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スキルを一つ捧げよ。血の滲む努力で得た有用スキルを破壊し、Lv.を下げる僕は異端者として常識を裏切る。  作者: 丈禅


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第17話:躱し続けろ

俺たちは、湿った第二層の石畳を進んでいた。

リリィの持つランタンの光は、あたりに漂う濃い霧を弱々しく照らすだけだ。


「ここよ、ユーマ。このエリアにはシャドウ・ゴーストが常時出現するわ。目標は『回避スキル』の再会得。絶対に攻撃を当てようとしないで。ひたすら躱し続けるのよ」


リリィの声には緊張が滲んでいる。


目標の『シャドウ・ゴースト』が影から滑り出てきた。

半透明な体を持つ、モンスターだ。

その存在感は俺にとっては依然として脅威だった。


「来るわよ!鑑定したけどLvは12、流石にあなたのHPを一撃で削り切るモンスターではないわ!

ただ、数発でやられちゃうので注意してね!スキル取得に専念して!」


ゴーストは低く唸りを上げると、冷気を帯びた鋭い爪で高速の連撃を仕掛けてきた。


「くそっ!」


俺は反射的に後退するが、動きが速すぎる。

素のステータスと反射神経だけで躱し続けるのは限界だ。

俺は回避も防御もできず、クリティカルヒットをもらってしまった。


「ユーマ、二度目の被弾はダメ!下がりなさい!」


リリィが声を上げ、聖なる光を放つ回復魔法をゴーストに向かって放った。


光はゴーストの薄い実体を貫き、悲鳴と共にゴーストを弾き飛ばす。


「ハァ、ハァ……助かった、リリィ」


「回復魔法はアンデッド系モンスターには特効よ。私がこうしてサポートできるうちに、絶対にスキルを掴むの。行くわよ、二戦目!」


俺たちは何度もゴーストの攻撃に挑んだ。


躱し続ける。ひたすら、躱す。


しかし、攻撃を当てるための『短剣術』とは違い、『回避』というスキルは感覚が掴めない。

なぜ、あの攻撃が躱せないのか。どのタイミングで体を捻るのが正解なのか。


(俺、以前どうやって獲得できたんだっけ?)


二戦、三戦と失敗を重ねるたび、全身の疲労と被弾の冷気が、思考を鈍らせていく。


不運なことに三戦目が終わったところで休息を取る暇もなくゴーストが急に現れ攻撃をしてきた。

四戦目。もうHPはギリギリだった。


ゴーストの爪が、俺の顔スレスレを通過する。

体が無意識に動くが、間に合わない。リリィが回復魔法を使おうとしているが、おそらく間に合わないだろう。

致命的な一撃が胸に向かって振り下ろされた瞬間、俺は咄嗟に持っていたトラッパーナイフを胸の前に突き出した。防御のつもりだ。


「ガキン!」


実体の薄いはずの爪が、ナイフの刀身に重い衝撃を残す。

その時、ナイフの切っ先が、ゴーストの「核」のような部分を、偶然かすめた。

ゴーストは一瞬のけぞり、そのまま静かに霧散した。


【シャドウ・ゴースト Lv.12 を撃破しました】


その場に、光を放つ一つの青い羊皮紙が落ちた。

リリィが駆け寄り、回復魔法をかけながら叫んだ。


「ユーマ、危なかったわね!ただ、かなり幸運ね!それはスクロールよ。ゴーストが急に来る可能性もあるからすぐ使用して!」


俺は震える手でスクロールを掴み、その力を吸収した。


毒攻撃スリップ・ポイズン Lv.1 を習得しました】


地味だ。正直、喉から手が出るほど欲しかった『回避』スキルなどの防御系・回避系のスキルではない。


リリィは少し落胆したように言った。


「毒攻撃……。悪くはないけど、今欲しいのはそれじゃないわ。でも、何もないよりはマシよ。回復するわよ」


「毒攻撃は今は置いておく」

俺はナイフを鞘に戻した。


「リリィ、次だ。俺の防御方面を強化しないと。攻撃は後でいい」


五戦目。


俺は毒攻撃に頼ることも、短剣術で反撃することもせず、

ただ目の前のゴーストの動きに、全身の意識を溶け込ませる。


極度の疲労と恐怖。

何度も致命的な攻撃を食らいかける中で、ふと、意識が研ぎ澄まされる感覚に陥った。


ゴーストの動きが、少しスローモーションに見える。


冷気を帯びた爪が振り下ろされる。

その軌道。その速度。


俺はそれを避けようと考えるよりも先に、体が動いていた。

頭を僅かに下げ、腰を捻り、紙一重で爪を躱す。


続けてくる二撃目、三撃目も、意識が追いつかないほど高速なのに、体は最適な角度で、最小限の動きで、ギリギリではあるが躱し切る。


体がふっと軽くなった。

同時に、脳内に声が響く。


【回避 Lv.1 を習得しました】


「…っ、これだ!」


体幹が安定する感覚。『短剣術』と同じく、体が自動的に最適な防御の姿勢を取ろうとする。


「取れたぞ!」


リリィが歓喜の声を上げる。彼女は残りのゴーストを回復魔法で一掃してくれた。


俺は荒い息をつきながらも、体に宿った新しい感覚を確かめた。

俺はリリィと顔を見合わせ、安堵と、未来への強い決意を抱いた。


「よし。行こう、リリィ。少しづつだが以前と同じくらいには動けるようになってきているはずだ」


俺は新たな力を携え、暗い古代都市の奥へと足を進めた。

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