昼下がり、甘い時間の中で
あの事件は、誰ひとり死ぬことがなく乗り切った。窒息してしまっていたものの、すぐに処置を始めていたおかげであろう、と思う。あるいは魔法の力が、偉大だったのかもしれない。とにかくなんとか乗り切った。
それからしばらく経っているが、ヒューマギオン教からのちょっかいは今の所無い。クラリティアが去り際に、招待状などと言い残していることを考えると、また何か仕掛けてくるかもしれない。
私は薬膳ティーに口をつける。オリーが入れてくれた薬膳ティーは、相変わらず美味しい。
「どうですか? ミケ……お店に出す予定の薬膳ティーです」
オリーがそう微笑んだ。
「えぇ、美味しいです」
私も微笑み返す。
昼下がり。カフェのカウンター席に私が座り、オリーがバーカウンター内のキッチンに当たる場所に立っている。
私達はカフェを開くことにしたのだ。薬膳ティーのカフェ。貰った店舗は少し改装が必要だったが、ロラン公からかなりの額の、諸々の依頼料を貰ったこともあって問題はなかった。しかもまだ、それなりに金額は残っている。私のスーツの代金と、オリーのスーツも作っても、まだまだ残っている。
「そろそろスーツが届く頃ですよね」
自分の分のティーを出してから、オリーがバーカウンター内から出てきて、隣の席に腰掛けた。
「私の分に加えて、オリーの分も追加発注していますし、まだかかるかもしれません」
オリーは少し待ちきれないように「そうですよね」と、呟く。ソワソワとしていたのは、そういう事らしい。私は少し笑ってしまう。
「むぅー、なんですかぁ、もぉ」
オリーが優しく肩を寄せてきて、そのままグイグイと押し付けてくる。
「おやめなさい」
微笑ましくて、顔が緩んでしまった。言葉と表情が合っていない。不意にオリーと視線が絡む。オリーが一度意地悪く微笑むと、目を閉じた。結局ハッキリと言葉にできていないが、行動では示すことはできているだろうか。
唇が軽く重なる。離れたあと、目を開くとオリーのはにかむ顔。私もスマートを気取ろうとしたが、幸せが過ぎて、はにかんでしまう。シビリティパーソンらしくできない。
願わくば、この幸せがずっと続いてほしい。オリーのこの表情を守りたい。
「もう……いっかい」
オリーがそんな風に呟く。甘くとろけたように蠱惑的な笑み。その表情でお紳士になりそうなるが、私はシビリティパーソンなのだ、と心を強く持つ。
「おうっ! いるか!」
突然、出入り口が開け放たれてロラン公が現れた。一気に現実の空気に引き戻される。オリーと私は、適切な距離と態度を取り繕った。恥ずかしい。オリーは顔を真赤にしてうつ向いてしまっていた。ここは私がスマートに、何でもないように対応しよう。
「なにか御用ですか? ロラン公」




