マイレディ
胸に耳を当てる。心臓は鼓動している。意識を取り戻してくれ。呼吸さえしてくれれば。
「オリー! オリー! 戻ってきなさい!」
少しづつ、鼓動が弱まっている。もう時間がない。
「オリー、申し訳ありません」
人工呼吸をするしかない。猫の口で何処まで正しく出来るか分からないが、やらないよりマシだ。
オリーの鼻を摘み、大きく息を吸うと唇を合わせる。こんなロマンチックでも何でもない形で、すまない。もっと早く言っていれば。きちんとしていれば。
「はっ」
すべて息を吐き出したあと、口を離しもう一度息を吸い込む。そして、また唇を重ねた。戻ってきてくれ。頼む。オリー。
「オリー……」
酸欠になりかけて、うまく声が出ない。頭がクラクラする。それでも、もう一度。
「けほっ! ごほっ! はぁっ……はぁはぁ」
「オリー!」
「……ミケ」
弱々しい声と、今にもまた閉じてしまいそうなまぶた。意識を取り戻した。私はほとんど咄嗟に、オリーを抱きしめる。
「よかった……オリー、戻ってきてくれて」
呼吸停止から意識を取り戻したばかりだ。オリーが何かを言おうとしても、むせてしまう。
「今は何も言わなくてよいのです」
顔を見るとオリーは目をうるませて、顔を赤らめている。生命が繋ぎ止められて、体温が上がってきたのだろうか。
「い、え……今、なら、今だから」
オリーが苦しそうにしながら、何かを伝えようとしている。苦しそうに、それでも強い意志を持って。
「なんでしょう、マイレディ」
「今、のはノーカウント……感動的、な再、会……言葉、にできな、いの、なら……初めてをするなら……ね?」
潤んだ瞳。そして、弱々しくも蠱惑的な微笑み。私はつい呆れて小さく笑ってしまう。
「オリー……貴方は本当に強かな女性だ」
「……きらいですか」
オリーの腕が私の首に回される。選択肢は無いじゃないか。いや、逃げる気はないのだが。
オリーの言葉には、返答しない。言葉は不要だ。私はオリーの腰に手を回す。少し力を込めて。
唇を重ねる。
これから苦難が待ち受けている。クラリティアという狂気を止められなかった。これで終わりなわけがない。でも二人で、皆で乗り越えられる。
不意に唇が離れた。オリーが少し不満そうに眉をひそめる。
「今、一瞬、他の女のこと、考えましたね」
何でもお見通しらしい。オリーはまた、蠱惑的な笑みを浮かべる。今度は弱々しくない。強い、女性だ。
「やり直し」
「……仰せのままに、マイレディ」




