今日はこれで、失礼しますね
ほとんど咄嗟に身体が反応する。毛が逆立つ。感覚ではない。身体が勝手に拒否反応を起こしている。
「主義主張はあると思うが、悪い、みんな、手伝ってくれ……こいつはここで捕縛しなけりゃマズイって直感が訴えてる」
ロラン公が、呆然という感じでそんな事を言う。この体の拒否反応は、このとんでもない力を持った狂気の塊への危機感。この聖女を、何処へも行かせてはならない。ここで終わらせなければ。
私は走り出そうとする。しかし、その瞬間自分の意思に反して、身体が浮き上がってしまった。誰かに抱きかかえられたらしい。
「なっ、おやめなさい!」
自らを抱きかかえた人物を確認するために見上げると、誰だか分からないが街の住人であるのは分かった。どうして。声を上げようとした瞬間、周りでも同じ様な状況になっているらしい声が上がっているのに気付く。
「ちょっ、トニー?!」
「おいっ、お前ら……操られたか!」
「きゃっ」
「おい、変なとこ触んな!」
振り払おうとしても、次々とやってくる住人に押しつぶされていく。
「おい、やめろ! みんな! 気を強く保て!」
ロラン公の声が響くが、事態は全く好転しない。全く身動きが取れない。
「やっぱり、みんな大好きです、私のためにありがとう」
クラリティアの声が聞こえてくる。声を上げている。楽しそうに、嬉しそうに。なんとか住民の隙間からそちらを見ると、クラリティアはこちらに背中を向けて、ここを離れようとしてた。
「それでは、今日はこれで失礼しますね……あぁそのうち招待状を届けようと思いますので、楽しみにしていてくださいね、ロラン・ティベール公」
声も上げられない。住人の体重が重なって、とんでもない重みになっている。これでは、重みで下の方の住民が怪我をしてしまう。それにオリー。彼女の身体は丈夫ではない。
私は何とか隙間を見つけて、底を通り抜けていく。猫は狭いところはお手の物である。
「オリー! オリー! 聞こえますか?!」
オリーがいたはずの場所に、声をかける。上の方の住民は意識を取り戻しつつあった。なんでこんな事。そんな風に戸惑った表情でこちらを見つめてくる。
「気づいた方は慌てず、移動してください! 押しつぶされている方々が耐えられません!」
私の声に驚きの表情を浮かべた住人たちが、次々とどいていき、人の山が途中まで小さくなっていく。山の途中から、意識を失っている人が出始めている。
「うぉー」
ロラン公は雄叫びとともに人の山から出てきた。他のメンバーも何とか這い出てきていた。しかし、オリーだけは動きがない。
「オリー! オリー! 返事をしてください!」
意識を失った住人をかき分けていく。
「意識のある者は手伝ってくれ! 治癒師を呼んでくれ! 誰一人死なせねぇぞ!」
ロラン公の咆哮が響く。
何とか人の山からオリーを見つけ出すと、オリーを抱きかかえる。意識はない。呼吸もしていない。圧力で呼吸ができず意識を失ったのだ。
「オリー! オリー!」




