聖女の能力
何を言っているのかわからなかった。そして、ロラン公がそれに同意するわけもない。怒り気味に否定するはず。しかしロラン公が一瞬沈黙する。
「ッ!」
その一瞬の後に、うめき声をあげて口を片手で押さえ、ロラン公が何歩か後ずさった。何が起こったのか理解できずに、ただただその光景を眺める。
「ロラン様?」
誰かがそう声をかけた。ロラン公は、片膝をついている。
「ロラン公……どうしたのですか!」
やっと体が動いたという感じで、ロラン公に駆け寄ることができた。ロラン公は驚いたようにして「そういう事か」と呟く。
「なんです、どういう事です?」
問いかけると、ロラン公は「すまん」と立ち上がると、クラリティアを睨みつけながら、言葉を続けた。
「やつは、人を操る事が出来るかもしれん……精神干渉の魔法……さっきのやつの問いに、俺は同意の返事をしそうになった」
驚いてクラリティアに視線を向けると、先程の表情から一変して、残念そうな表情を浮かべていた。
「さすが英雄ですね……意思が強い、私の声は届きづらいみたい」
人を操る。それを考えると、色々辻褄があう。軍隊を引き連れていたのに、キリュナの情報が入った時に、その件についてスルーされたのはそういう事かもしれない。最初からロラン公を狙っていれば、それも可能な気がする。ベルトが噂を聞いていなかったのも、街の人達全体が、操られていた可能性も。
「残念です……ロラン・ティーベル公、貴方が欲しいのに」
クラリティアの目が暗すぎて、恐怖を感じる。それでも、守らなければ。そう思い、身体が勝手に動く。ロラン公とクラリティアの間に入る形で、私は立ちはだかった。
「ロラン公は私達の希望の旗です」
「えぇ、そうです……旗なのです」
クラリティアが嬉しそうに笑った。それから、言葉を続ける。
「人々のために戦い、国民からの信頼は厚い、例えおかしな事を主張していても、騎士爵と領地を与えられ辺境に追いやられるだけで済んでいる、そして、悪しき者達が蔓延る地になっているのにもかかわらず、誰も手を出せない……その旗をヒューマギオン教で掲げれば」
口の端を吊り上げて嬉しそうに悶えるクラリティア。おぞましさ。狂気。心の底から恐怖と嫌悪感が沸き上がってくる。
そして、こちらに身体を向けたクラリティアが、その口を開く。
「だから、貴方がほしい」
耳元で、囁かれた気がした。




