筋肉が有ればすべて解決できる
「ごめん、僕が弱いばかりに……君の夢を叶えてあげられない」
少し意識が朦朧としているのか、今にも座り込んでしまいそうな立ち方だ。
「無理したらダメです、でも」
オリーがそう口にしてから、アレクシアを見る。
「アレクシアさんの所に連れて行ってくれって、聞かなくて」
その言葉を受けてアレクシアが、俯いた。石で舗装されているはずの地面を握りしめて、ヒビを入れる。そうして、泣きそうな声をあげた。
「ありがとう、オリビア……ごめんなさい、トニー……私やっぱり可愛いお嫁さんになれなくて」
トニーが顔を横に振る。それから、ほとんど倒れるようにその場に膝をつくと、それに気づいたアレクシアが咄嗟に抱きとめる。それからトニーも、アレクシアの肩を抱いた。
「違うんだ、僕が弱いせいだ……強い君だって、ちゃんと可愛いお嫁さんなのに……なのに僕は強い君を見ると、自分が弱い事を目の当たりにしてしまうから、そんな劣等感から……君を縛り付けていた……努力もせずに、君を下げることで、安心しようとしてたんだ」
「そんなことっ」
アレクシアの声を上げようとして、それをトニーが口づけで止める。それを見たオリーが「わぁ」と下世話な声をあげた。キリュナも似たような声をあげたが、すぐに顔を背けて、何でもないように腕を組む。
少しの口づけのあと、二人の顔が離れるとトニーが口を開く。もう朦朧となんてしていない。目に力のこもった表情で言う。
「黙って僕についてきて」
「あっ……はい」
トロンとした表情で、トニーを見つめながら返事をするアレクシア。完全に恋する乙女の表情。その返事を聞いたあと、トニーは小さく頷くと、ロラン公に顔を向ける。
「ロラン様……僕を鍛えてもらえませんか? 僕にも筋肉が必要なんです! 強くなれなくてもすべてを弾く鋼の肉体が有ればッ!」
感動的でドラマ的なシーンだった気がするが、迷走しだした気がする。やっぱり頭を怪我したせいで、混乱しているのでは。しかし、そんな事を疑いもしないロラン公は、嬉しそうに声を上げる。
「がはははっ! いいぞ! 筋肉が有れば何でも解決できる!」
そう豪語するロラン公は、マッチョな体を見せるようにポージングを決めはじめる。カオス。私が頭を抱えると、キリュナが隣に来て「なんだコレ」と呆れた。オリーも隣にやってくると「平和でいいじゃないですか」と呟く。難しい話はまたあとにして、これで解決でいいのかな。
「愛の力、素晴らしいことですね」
突然、この場の誰の物でもない声に、心臓が跳ねる。全員が咄嗟に声の方を向いた。ヒューマギオン教の信徒が逃げていった方向から、人影が近づいてくる。
「ただし、人間であれば、ですが」
近くなってやっと姿が見える。その人物は顔を歪め、片手で口を隠している。
「人間以外の愛……なんと醜悪」




