強大な力に呑み込まれてはいけない
少しの間を置いてから、アレクシアがため息交じりで口を開く。
「……結局人間に合わせろって事でしょ、私の感覚では知性があろうと無かろうと、蟻と同列にしか感じられないわ、蟻のルールに合わせる意味ってあるかしら、あなたたちぐらいなら、蟻と仲良く出来るかもしれないわね、でも私は歩くのさえ気をつけないと踏み潰してしまう」
少し悲しそうな表情を浮かべるアレクシア。心の奥底ではそんな事を思っていないのではないか。しかし、強大なドラゴニュートとして生まれてしまい、本能のままにその力に溺れてしまっているのではないか。
「蟻とは対話できません、対話ができる時点で私達とあなたは、差があれど同じ知性ある生き物です」
「ドラゴニュートは人間を食料としか見ていないわ、同じなん……」
「今、私はアレクシア様という個人と話しております! ドラゴニュートの話などしておりません!」
言葉を遮って声を上げる。ドラゴニュートは人間を食料として見ているかもしれない。しかしアレクシアは違ったではないか。
「トニーという人物を愛して、食べ物などとは思っていないでしょう、街の人達を気に入ってしまった、と先程、言っていたでしょう」
アレクシアが眉をひそめる。怒っているわけではない。そして、その表情のまま一度何かを言いかけ、しかし顔を背けて苛つくように片手で頭を掻きむしった。
「あぁっ、もうっ……面倒くさい」
叫ぶようにそう声を上げたアレクシアは、羽を広げて声を上げる。
「もう十分距離は離れたでしょう、あいつらを焼き払う、それで終わりよ」
マズイ。飛び立たれたらどうすることもできない。私はすぐにアレクシアの腰にしがみつく。
「ちょっと!」
苛ついているのに、私を払い除けたりしない。私の説得が効いているのかもしれない。
「ドラゴニュートの強大な力に抗ってください! 呑み込まれてはいけない、シビリティパーソンとなるのです!」
「離しなさい!」
アレクシアが腕を振り上げる。しかし頂点まで持ち上げられたその腕は、いつまでも落ちてこない。その表情は歪んで、少し泣きそうにも見える。
「やめろ!」
突然低い声が聞こえたかと思うと、太い腕がアレクシアの振り上げられた腕を掴む。更にお腹の辺り、私の眼前に太い腕が巻き付く。その主がロラン公だと気付くのに、しばらくかかってしまった。
「アレクシアさん! 何やってんだ!」
「離して! 自分の愛する街を攻撃されて、ロラン様も憎いでしょ! 私があの害虫達を焼き払ってくる! もうこんな事できないように! だから離して!」
声を上げてアレクシアが暴れるようにする。羽根を羽ばたかせて、少し浮き上がりそうになる。本気であるなら、簡単に振り払えるだろう。私達を気遣って本気を出していないのだ。
「そういうことなら、絶対に離さん!」
ロラン公の筋肉が唸るのが見える。




