謝罪
「僕が野菜を盗み食いした……すみませんでした」
ゆっくりとキリュナが頭を下げた。まだ少し疑っているのか、怖がっているのか、恐る恐るという感じの頭の下げ方だ。それでも、心は本物なのだろう。両手はキュッと握りしめられて、少し震えている。演技なんかではない。
「そうかい」
ベルトが呟いた後、奥様と視線を合わせる。それから、私達の間を二人ですり抜けて、キリュナの前に立った。
「ワシもすまんかったの……確認もしないで怖がったりして」
ベルトの声に反応したキリュナが、弾けるように顔を上げる。その顔には驚きで目が見開かれていた。それからすぐに、泣きそうに顔を赤らめる。声を上げること無く、キリュナが顔を横に振った。上げられなかったという方が正しいか。
「うちのベルトは本当にせっかちで、ごめんねぇ」
続いて奥様がベルトのハゲ頭をペチリと、はたきながらそう口にした。ベルトが「へへっ、やっぱりお前の言う事はいつも正しいのぉ」と嬉しそうに声を上げる。その横顔は、すっかり尻に好かれた男の幸せそうな笑顔だ。
「どういう事です?」
我慢できなかった、という感じでオリーが二人に問いかける。確かにベルトの言う正しいとはどういう事だろう。
「家内はこの坊主の様子を見て、自分たちを食べようだなんて思っていないと見抜いたんじゃ」
「なのに、ベルトはギャーギャー騒いで、私を担いで逃げちゃって……その後も避難しようかぁ、なんて言うから」
奥様がそう口にして、もう一度ベルトに呆れるように笑いかける。それに対してベルトはそのハゲ頭をさすりながら「しょうがなかったんじゃ」とまた幸せそうな笑みを浮かべた。奥様は見抜いていたが、ベルトのほうが早とちりをして逃げ出してしまった、という事だ。
「お名前何ていうの?」
ひとしきりやり取りを終えた奥様が、キリュナに向かって優しく問いかける。
「……キリュナ」
何かをこらえたように、消え入りそうな声だった。
「キリュナちゃん……ベルトが坊主とか言ってごめんね、女の子よね」
奥様は何でもお見通しらしい。
「私はマルタ……私達のせいで危ない目にあっちゃったのよね、ごめんね」
マルタはキリュナの両手を包むように手に取る。
「よかった、キリュナちゃんが無事で」
マルタの優しい声が、響く。キリュナは震えながら、俯いた。そして声を上げる。
「ごめんなさい……僕の方こそ、野菜を勝手に食べて、いきなり押しかけて……もっとちゃんとすればよかった……ごめんなさい」
キリュナは頭を下げた。深く丁寧に。本当に悔やんでいるという頭の下げ方だ。




