一瞬の迷い
「ヤバイじゃん! なんでそんなことに! というかヒューマギオン教って狂った奴らじゃ?!」
もう強がりを維持するのをやめてしまったキリュナは、顔を真っ青にしている。頭を抱えて悶えるように唸り声を上げていた。
可哀想だが、キリュナにも悪いところはある。全部が悪い訳では無いが。
「ヒューマギオン教の事は今は置いておくとしましょう、急がないといけないのは事実ですが、一定の時間はあるでしょうから」
軍隊を率いているという事はそれほど早くは動けない。噂が先行しているのは世の常。それより、キリュナの行いについてだ。
「農場の野菜を勝手に食べましたね? キリュナ様、貴方にも悪いところがあるのは素直に申し上げましょう」
その言葉に反応して、真剣な面持ちになるキリュナ。そうして、両手を握りしめて口を開く。
「しょうがないだろう! 腹が減っていた! それでも一度は声をかけた、でもダメだった……僕はモンスターだから」
最初は勢いが強かった声も、段々と弱くなっていき、最後はその握りしめられていた両の拳も解かれる。モンスターだから。怖がられる。まともに話を聞いてもらえない。確かにそうだが。しかし、ベルトの人柄を見るに、もしかしたら違ったかもしれない。
「キチンと礼節を尽くしましたか?」
「……は?」
そのキリュナの声は、わからないというより、そんな事をしても無駄だろうという気持ちの強い声だった。モンスターに分類される種族に生まれた以上、最初から諦めているという事なのだろうか。
「お前もわかるだろう、獣人、人間は僕達を認めない、見ようとしない、決めつける、人を食うって……僕は肉が嫌いだ、でも信じてくれない」
キリュナが後ろに視線を投げる。
「後ろのエルフ! あんたは人間を食わないだろうが、別の理由を押し付けてくるだろう」
覚えがあった。エルフが堕落したらダークエルフになる、そう言われた。そうして、やはり人の扱いとは程遠い性処理道具のような扱いをされそうになった。人間は。
「人間は!」
私の心の声とキリュナの声が重なって、ハッとする。
「人間は自分達が一番多いのを良い事に、自分たちより優れている種族を抑え込もうとしている、自分たちが弱い存在とバレないように」
そうなのかもしれない。キリュナの、言う通りなのかもしれない。人間は弱い。弱いからこそ、多数派という強みを存分に使っている。同じ様に知性のある者に敬意を払わず、踏みつけることで強者であると見せかけている。だがそれは知性のある者として正しいのだろうか。誠実なのだろうか。私はそう思う。だが、同じ様に仕返したら、同じ野獣だ。
「誠実に、敬意を払い、礼節を持って接するべきです、礼節は良き隣人を作るのです」




