男女の心理
「失礼、お待たせいたしました」
私は振り返ると、シャツの襟を引っ張るように整える。それから、オリーから傘を返してもらい、立てるようにして柄を両手で上から押さえるように持つ。
「お嬢さん、名前をお伺いしても?」
「今さら取り繕っても、女の尻に敷かれる情けない姿を見たからな」
鬼人のお嬢さんは、哀れなものを見る目をこちらに向ける。この子はまだ幼い。男女というものを分かっていないようだ。時間がないが、心理を教えてあげよう。大人として。
「分かっておられないようだ」
私は一度そこで言葉を切り、息を大きく吸い込む。
「女性のお尻の下に、入らせていただいておるのですよ!」
これこそ男女の心理である。アレクシアが背後から「よくわかってるわぁ」と同意の声を上げてくれている。
「何キメ顔で余計情けない事言ってんの?」
鬼人のお嬢さんの冷めた顔が目に入らないように、ツンと顔を少し上げる。誰がなんと言おうと、シビリティパーソンとはそういう物なのだ。
「それより」
色々あって寄り道をしてしまったが、話を戻すため声を上げる。
「時間があまりないのです、話を……まずは名前を伺いたい、それこそが話し合いの第一歩です」
もう嘆願に近い言い方になってしまったのを見て、一度呆れた目をこちらに向けた鬼人のお嬢さんが、ため息を付いて口を開く。
「抵抗するのが馬鹿らしくなった、悪い奴らじゃなさそうだし……キリュナ、僕はキリュナだ」
「キリュナ様ですね、ありがとうございます、ティーでも楽しみながらと言いたい所なのですが、本当に時間がな」
「まて」
私の言葉を遮るようにキリュナが声を上げる。キリュナが、不思議そうな顔を浮かべて言葉を続けた。
「さっきから、時間がないってなんだよ……というか、お前らの都合なんて、僕の知ったことじゃない」
そこまで言って、キリュナが腕を組み少し身体を背ける。抵抗のつもりというか、話を優位に進めるために、主導権を握ろうとしているような印象を受ける。幼さを感じる方法だが。
それより、やはり自分の状況が分かっていないようだ。なかなかまずい状況なのだ。それを伝えるため、一度伝えるべき内容を整理してから、口を開く。
「簡潔にお伝えします……キリュナ様は現在冒険者から命を狙われています、先程我々はその冒険者を見かけました、すぐそこまで来ています」
キリュナの身体がビクンと強張った。
「加えて、ヒューマギオン教という方々が軍隊を率いてこの辺りを通過するらしく……そんなのに遭遇したらひとたまりもありません」
軍隊に囲まれたら、たとえ最強だったとしても、どうすることもできないだろう。
今の状況を理解したらしいキリュナが、強がってポーズを維持してはいるが、ガタガタと震えだした。




