草食の鬼人族との対面
草食の鬼人族はこちらの動きを、把握しているわけではなさそうだ。ただ単に私達が降り立った辺りから、離れるように進んでいる。それから回り込むようにすれば。
「お二人は、そのまま進んでください」
オリーとアレクシアに声をかける。アレクシアから離れることになるが、一瞬のことだ。約束を反故にしたわけではない。
私は今まで走っていたルートから横に逸れる。ケットシーの身体なら、素早く作物の壁の隙間を抜けられる。そうやって壁をすり抜けて、草食の鬼人族が辿り着く先へと回り込む。スピードを落とさず障害物をすり抜けるのは得意だった。全力で走れない相手を補足するのは容易いことだ。
「お待ちください」
草食の鬼人族の前に横から歩いて登場する。それを見た草食の鬼人族は立ち止まって、舌打ちをした。すぐ振り返ろうとするが、後ろからオリーとアレクシアが来ていることに気づいて、苦々しく私を睨む。
「何なんだよお前ら」
ショートカットの黒髪におでこの辺りから二本の角がある。男の子か女の子かわからない、中性的な顔立ち。少し幼さも見える童顔のせいだろうか。いや、本当に幼いのか。
「貴方を迎えに参りました」
私は恭しく頭を下げる。まずは礼を尽くす所から。そうでなければ始まる話も始まらない。
「迎え? 何の話だよ、僕はお前らなんて知らない」
「失礼……私はミケ・ミャン・キャットフィールドと申します」
私の自己紹介を聞いて、オリーが息を整えるため一度深呼吸すると、姿勢を正し口を開く。
「オリビアと申します」
オリーは右手を左胸あたりに添えて、頭を下げた。なかなか様になっているではないか。シスターの格好でなければ、立派な淑女、シビリティパーソンだ。ちなみに男装したら似合いそうである。というのは今は置いておこう。
「アレクシアでぇす」
アレクシアは変わらずポワッとした笑顔でそう名乗った。
「事情を説明させてほしいのですが、まずは坊やの名前をお伺いしても?」
「おい、ふざけんな! 獣人! 僕は女だ!」
別に悪意があったわけではなく、何となく男の子に見えたためそう呼んだつもりだった。僕と言っていたし。しかし、女の子だったらしい。しまった。私としたことが。
「これは失礼いたしました、お嬢さん……名前をお伺いしても?」
「お前らに名乗るつもりはない!」
鬼人のお嬢さんは、そう声を発した瞬間、とても強い圧力を放つ。臨戦態勢。性別を間違えてしまったことが、許せないということだろうか。
「落ち着きましょう、戦うために来たわけではありません」
「うるさい!」
鬼人のお嬢さんは、私の方に飛びかかってきた。




